こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

ヘアスプレー*1

 60年代を舞台に、全盛期を迎えるアメリカンポップスと少女の勇気が時代を変えていく革命ミュージカル。

不幸なことに、この映画が提示する問題は今日にもまだ通じるわ。悲しいけれど、それが事実なの。将来いつか、この映画が古くさく感じられる日が来ることを願っているわ。

ミシェル・ファイファー『ヘアスプレー』劇場パンフレット掲載インタビューより

 むちゃくちゃ楽しい映画であるけれど、その背景には深い悲しみが隠されている。60年代に志された理想はいまだ実現されていない。
 この映画はおそらく60年代初頭を舞台にしていると思われるが、64年にはJFKが暗殺され、アメリカはベトナムの泥沼へと体を沈めていくことになる。
 黒人差別はいちおう無くなった。アメリカンポップスが下品とさげすまれることはない。
 しかし、世の中はあまり変わっていない。

 エンディングに流れる"Come so far"が、昔を懐かしむような曲であるのが切ない。終劇とエンディングロールとの間に、60年代から2007年までの50年間が横たわっているような気がしたのだ。

 もちろん、そのような暗い気分を吹き飛ばしてあまりある希望がこの映画にはある。
 117分のあいだ、音楽と楽しいお話が、人をとっても幸福な気分でいさせることができるということをこの映画は証明した。
 歌とダンスで世界は変わるか、という問いに答えることは誰もできない。が、スクリーンの中のひとびとの笑顔は、こう言っている――目の前のあなたなら、歌とダンスで変えることができますよ、と。

 こういうむつかしいハナシはあとから考えたことで、上映中はただひたすら俳優たちの見事な踊りと歌と、スピーディな物語に目を奪われていた。
 60年代を舞台にしたミュージカルのダンスに驚くことなんてないと勝手に考えていたぼくはばかだった。黒人ダンサーのリーダー格、シーウィードを演じるイライジャ・ケリーの身体能力には本当にびっくり。バスの車内をスパイダーマンのように飛び回り、道ばたでトニー・ジャーのように跳躍する。ステップもクール!
 別の意味で驚いたのが、人気TV番組のホストを演じるジェームズ・マースデン。『X-MEN』のヘタレ男、サイクロップスがこんなに格好いい男だったとは!