- 作者: 辻原登
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/05
- メディア: 文庫
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主人公たちがどちらも30代前半(20代?)なせいか、これまで読んできた辻原作品よりも若々しい印象があった。主人公のひとり、達夫が高校生のときに経験した感覚を描写する次のようなところに、これまでの辻原作品にはみつけられなかった鮮やかさをみる。
大きな山のそばにいると、なぜか感覚が全開するようだ。心が、そしてすべてがもっと豊かでないのが恥ずかしくなる。こういう自己卑下を幸先のよいしるしだと達夫は信じた。
この作家がかように青春を描くのは少し意外だが、しかし、他の作品で常にみられる古典文学への憧憬や映画・野球などへの言及の度合いを考えれば、作家辻原の根っこに、こうした「青春」があっても不思議ではない。
また、この「青春」を土台にしてか、物語全体のスピードはすさまじいものがある。早口の噺家が語るさまをみるような読後感。