こづかい三万円の日々

30代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

影踏み

影踏み (祥伝社文庫)

影踏み (祥伝社文庫)

 深夜、家人が寝静まったところに忍び込み盗みを働く「ノビ師」真壁の活躍を描く連作ミステリ。
 横山秀夫といえば『半落ち』の「泣けるミステリ」という印象が強すぎて敬遠しているが、地方新聞社の記者という経歴を生かした、ディティールが絶妙な、一級のミステリを書く作家ということは知っていた(以前読んだのは『クライマーズ・ハイ』)。

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

 で、本作なのだが、「ノビ師」らをはじめとする、地方都市で暗躍する人々の仕事ぶりや警察の体質などを描く筆致はたしかに「いぶし銀」ふう作家のそれなのではあるが、一つのとんでもない設定によって、ちょっと異質な作品になっている。
 主人公の真壁はかつて、双子の弟・啓示を火事で亡くしていた。だが、悲劇的な死に方をした彼の意識は、なんと真壁の脳内に留まり、生き続けていたのだ!
 啓二は驚異的な記憶力を持っており、真壁の盗みのテクニックと結びつくことで、二人はスーパーヒーローのごとく事件を解決していく。
 ファンタジックな要素をもつミステリということで片づけてもいいが、ぼくはこの作品に、横山秀夫の持つ可能性を読み取りたい。もっとぶっとんだヒーローものをも書けるんじゃないだろうか、この人。『バットマン・ビギンズ』的な。

バットマン ビギンズ [HD DVD]

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 そういう妄想はおいておくとしても、この小説、ラノベ読者にもウケそうな気がする。横山秀夫、おやじ読者だけに独占させておくには勿体ないな。自分の敬遠ぶりを反省した次第である。