こづかい三万円の日々

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日日平安

 映画『椿三十郎』の原案として知られる表題作をはじめとした短編6編をおさめる。

日日平安―青春時代小説 (時代小説文庫)

日日平安―青春時代小説 (時代小説文庫)

 山本周五郎を読むのは初めてだった。周りに本屋がまったくない田舎の駅のキオスクで、5時間の電車移動にそなえて衝動買いした一冊。ちょうど森田版『椿三十郎』の公開が重なっていなかったら、一生手に取ることがなかったかも。

 『日日平安』の主人公菅田平野は、映画で三船が演じたふてぶてしい凄腕とはまったく別物のキャラクターだ。
 偶然関わった騒動をうまくおさめ、浪人である自分を売り込んで仕官することだけを考える。よく言えば頭が切れる、悪く言えば人間の小さな男だ。かれは目的のために、死人を出さずにことをおさめようとする。

 もしここで殺生沙汰を起せば、あとで必ず責任を問われる。まずくゆけば切腹ぐらいはしなければならなくなるかもしれない。そうすると自分の目的もどうなるかわからない。この藩に仕官しようという、本来の望み(それはもう確定的だと思う)が危なくなる。

 これが彼を縛る。力押しではまずい。しかし、悪人たちの罪を暴き、善人を救わなければ飯にはありつけない。かくして、菅田の策略がはじまる。
 金も力もない人間があくどい奴らの裏をかく、一種コン・ゲーム的な面白さで物語は進む。このあたりのサスペンスは映画とあまり変わらない。事件の結末まで、ハラハラドキドキの一気読みだ。
 結果、アクションとスリルに彩られて事件は無事解決、正義が勝ち悪は罰せられる、という次第だが、最後の最後、菅田はある行動に出る。ある意味で非常に自己中心的な男がとったこの判断がぼくはとっても好きだ。そして、そんな男にきちんとハッピーエンドを用意してやる山本周五郎も好きになった。

 『日日平安』を楽しめれば、あとの5編も一気読みとなるだろう。
 どの短編にも、人間への暖かいまなざしがある。救いのない犯罪者たちの顛末を描く『あすなろう』でさえ、読後感はどこか暖かい。