- 作者: 茂木健一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/03/28
- メディア: 文庫
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言わずと知れた小林秀雄賞受賞作である。
で、モーギーは前半から飛ばす飛ばす。
そのような主観的な体験の質は、科学の方法ではわかりはしないのである。
いきなり言い切ってしまうわけである。ちょ、ちょっとはらはらするよ。
今現在わかりはしないけれど、そのうちわかるようになる、というのが科学の前提だと思う。一般の人からみたら「科学の人」である茂木先生がこういうことを言ってしまうと、「世の中には科学ではわからないものが云々」みたいな言説の後押しをしてしまうのではなかろうか。前提なしに色々と言い切ってしまう茂木先生のスタイルは、批判も多く産むに違いない。
しかしそういうスタイルこそ、新しい考え方を創り出すには必要なものなのだとも思う。
そのへんの塩梅をおさえて読めば、確かにいいエッセイだ。先入観なく、万物に挑む茂木先生の豊かな発想が次から次へと披露されて、まこと刺激的。
自分の最も親しい人、愛する人の魂でさえ、「私」の中では一つの仮想に過ぎない。その仮想が、実在の魂であるか、架空の人物の魂であるか、そんなことは関係ない。
(中略)
私と下界の間に、私と他者の間に絶対的な断絶がある世界の在り方を受け止め、それでも私が世界について知りうる、他者と混じり合えることの基礎を実際的に考察する時に、清少納言の魂も、代助の魂も、美登利の魂も、おばあちゃんやおじいちゃんの魂と全く同じ権利を持ってそこに存在することが了解されるはずである。
こういうニュートラルさ、現実と仮想を等価値に観ることのできる大人っていいよな。