こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

初音ミクのことを考え続ける

 ひさびさにニコニコ動画散策。世の中、神がたくさんいるねえ。

 VOCALOIDにあって人間にないものとは、とか言った舌の根も乾かないうちに、人によるカヴァーを聴いてじーんときている。uionaというインディーズのひとだそうで、ブログ*1によれば活発に曲を作られているご様子。CD探してみよう。

「輝度というワンパラメーターを変えるだけで質感は変わる。『クオリアは脳科学の難しい問題』などと言われていたが、人間が感じるリアリティは、たったワンパラメータで変わってしまう。Second Lifeの世界にもそのパラメーターさえ入れば、ものすごくリアルになるかもしれない。そういう世界を目の当たりにしたときに、僕らは何を考えるのだろうか」
「いまミクはユーザの都合のいいように『調教』されていると思うが、それを超えて『成長』していった時、わたしたちは、今までとは違った音楽を聴き、本当にミクへ声援を送るのかもしれない。それが具体的にどういうことなのか私は分からないが、それはちょっとした希望のようにも思える」
――Itmedia瀬名秀明に聞く「仮想世界」「ケータイ小説」「初音ミク」」*2

 瀬名秀明初音ミクについて発言していないかとぐぐったらすぐに出てきて笑った。「「ハジメテノオト」などに感動したという」。個人的には『ハジメテノオト』を聴いたとき、『八月の博物館』での"A Whole New World"を思い出した記憶があって、非常に頷ける話だ。

八月の博物館

八月の博物館

 八月に東北大で行われたという櫻井圭記との対談も非常に面白い。
「時代と共に変わる「ネットは広大」の意味〜瀬名秀明氏×櫻井圭記氏の公開対談@東北大学オープンキャンパス*3
「これからの人と機械とネットを取り巻く世界観とは? 〜想像力の限界を超えて【瀬名秀明氏×櫻井圭記氏インタビュー編】」*4

 いっぽうで、こういう意見も。

「ユーザの都合」を超えて「成長」していったときには、今「初音ミク」を支える大勢の人ひとりひとりがもっている「初音ミク」像から乖離することだけは確実だが、このインタビュアーはそこまで考えて質問してるのか?
(中略)
初音ミクだったら、最初の「声」を入れた声優さんやヤマハの技術者さんとか、アイマスだってあの動きはモーションキャプチャーだっていうから、振り付けを考えた人やそれを実際に踊って元データを作った人がいるわけじゃん。初音ミクとかアイマスの話ってこのへんがすげえ抜け落ちてる、あるいは意図的に無視しているように感じることが多い。
――「初音ミク初音ミクってうるせえよ」『SKiCCO ALTERNATiVE*5

 前半、意外と、乖離する部分も含めてファンは初音ミクのことを愛していけるように思う。愛ってそういうもんだし、そういう愛すら捧げられるほどのものだから初音ミクはここまででかくなったのではないか、と。初音ミクに愛されるかどうかは非常に不安ですが。
 後半の指摘は重要な話で、もっと語られていいよなあ。模造元は模造に対してどんな感情を抱くのか。藤田咲いわく、

――「ミク」の歌を聞いて自分が歌っている、と思う時ありませんか?
藤田 そう言われることもあるんですが、私自身は「初音ミク」が歌っている、という感覚です。自分で歌うと自分の表現があると思っているからです。「初音」さんの場合は、その、二日間かけて作った「初音ミク」というキャラクターが私の中でちゃんと確立していて、あとはクリプトンさんにお任せしますという形でお別れをしてきましたので。クリプトンさんの力で一つのキャラクターになっているのを見て、素直に「わー素晴らしい」と思っているんです。
(中略)
「初音」さんの場合は…何て言ったらいいのか試行錯誤したんですが、自分の分身だけど私は「初音」さんに魂を入れた段階でお別れをして、そのあとのストーリーはユーザーさん、一人一人の力で作って下さった、と捉えているんです。100人ユーザーさんがいたら100通りの「初音ミク」のキャラクターが存在している。
――「声優・藤田咲さんインタビュー(下)「初音」ユーザーの一途な思い その連鎖がブーム作った」『J-CASTニュース*6

ということだそうだが。
 インタビューは短く、もっと詳しく訊いてみたい気がするが、そもそも彼女は声優であり、自分以外のなにかを演じて顕現させることに馴れている人なわけで、あまりこだわっていないのかもしれない。

 人外のもの、人というには何か欠けたものへの愛を発動させるには、その本人じしんのなかに何か欠けているものがなければならないように思う。または、欠けているでのはないかという不安感*7
 そういう情動を切って捨てるのも簡単だけど、そこから生まれるものもあるんじゃないか。科学にせよ、芸術にせよ。