こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

『おくりびと』と同時にアカデミー外国語映画賞にノミネートされていた四本の映画

 『おくりびと』がアカデミー賞外国語映画賞を受賞した。テレビでは『おくりびと』のスタッフ・キャストが延々映しだされ、2008年の外国語映画は『おくりびと』しかなかったみたいな勢いだが、どういったライバルのなかからこの作品が受賞に輝いたのかを知らないと、せっかくの受賞も何の意味も持たないと思う。
 『おくりびと』と並んで外国語映画賞候補となった作品についてちょっと調べてみた。

  • "Revanche"

 オーストリアのスリラー。

 売春婦と売春組織で働く男。恋に落ちた二人は組織を逃げ出し、覆面姿で銀行を襲う。警官との銃撃の末、男は田園地区に住む父親の家に隠れる。隣人はその警官の夫婦。オーストリアの風景に、都会と田舎、悪と正義の対比を際立たせて描く。メロドラマの要素とソウルフルなキャラクター考察に、仏教的メッセージなども絡めた異色作。
バラエティ・ジャパン*1

 うおお、むちゃくちゃかっこういいカット満載の予告編ですね。
 裸!銃!と、男が映画に求めるものがきっちり映ってますぜ、とアピールしているところも好感度大。
 imdb*2をざっと観ても、ああこの人は、というキャストやスタッフが一人もいないですが、ぜひ日本で公開してほしい。

  • "The Class"

 フランス映画。

  第61回カンヌ映画祭で、審査委員長のショーン・ペンが「作品の完ぺきな一体化、演技、脚本、挑発、寛大さ、すべてが魔法だ。単純に、誰かに見せたい映画であるうえ、時代や場所を超えたテーマ性があり、心に響く」と絶賛。フランス映画としては21年ぶりにパルムドール(最高賞)に選ばれた。
バラエティ・ジャパン*3

 新任教師が荒れた高校にやってきて...というよくあるストーリーのようだけど、自然な演技と緊張感のある編集・カメラワークは期待できるかも。さいきんのショーン・ペンが推しているならいい映画なのでしょう。これも観たい。カンヌでパルムドールを取っているなら日本公開される...と考えていいのだろうか。

  • 『バーダー・マインホフ 理想の果てに』

 ドイツ映画。つうかドイツ赤軍映画!そりゃ観たい。

 1970年代、銀行強盗、爆破、誘拐、暗殺……とあらゆる犯罪に手を染め、欧州全土を震かんさせたドイツの極左過激派集団“バーダー・マインホフ”。後にドイツ赤軍として知られることとなった創始者、アンドレアス・バーダーとウルリケ・マインホフの出会いから、彼らが目指した理想、たどった運命を描ききった問題作。
バラエティ・ジャパン*4

 「貴様ら現代人にも戦時の恐ろしさというものを味わわせてやろう!」とばかりに、『ヒトラー最後の12日間』『白バラの祈り』といったエクストリームな強烈作を送り出してきたドイツ映画界がまたやった!といった感あり。上の予告編、後半はアクション映画かと見まごうばかりの銃撃&爆発っぷりだが、そのいずれもがいやーなリアリズムに満ちていて非常におそろしい。
 これなら日本映画界は対抗作として『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を送り出すべきだったのでは...。

 イスラエルのアニメ映画。

 80年代初頭。イスラエル軍レバノン侵攻にまつわる出来事を思い出せない男がいた。かつての仲間とともに奥深くに眠るその記憶を探るうち、男は非現実的なイメージにとりつかれていく。
バラエティ・ジャパン*5

 ぼくが候補作のなかで一番観たいのはこれ。
 ジョー・サッコの『パレスチナ』がコミックでしか表現できないイスラエルパレスチナ問題を描いていたように、この作品はアニメでしか表現できないイスラエルの人々の苦しみ、失敗を描いているのではないか、と期待している。こちらは日本公開がすでに決定していて、非常に楽しみ。


 というわけで、これら四作に比べると、『おくりびと』は非常に平穏な映画に思えてくる。
 正直なところ、『おくりびと』を含めてぼくはどの作品も観ていないからコメントする資格はないんだけれど、それでもこのラインナップなら「暗い映画ばっかりでやだなあ...この日本映画にしとこうっと」とアカデミー会員の癒しを求める票が『おくりびと』に集中したからこその受賞なのでは...と安易な推測をしてしまう。
 なんにせよ、映画賞というものは本来、すぐれた映画を褒め称え、同時に広く世の人に知ってもらうための賞のはず。自分の国の、自分の知っている映画が受賞したことだけに注目するのではなく、他にどんな映画が称えられたのかについてもチェックしておきたいものです。