こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

地獄巡りが似合う男『ザ・バンク 堕ちた巨像』

 かつて一度挫折した男が、ふたたび正義を求めて地獄のような世界をさまよう――という、クライヴ・オーウェンのフィルモフラフィーとしては『トゥモロー・ワールド』とモロかぶりな映画。ノータイのよれたシャツにコートという薄汚い格好で、世界各地をさまよう姿が印象的である。オフィス内ではおしゃれめがねに糊のきいたシャツ姿で、女子ウケもよさそうなイケメンっぷりなのですが...。
 それはともかく、彼演じるインターポールの捜査官を主人公に、個人では到底太刀打ちできない巨悪に対して知恵と信念とネットワークとを武器に戦いを挑む人々が渋くカッコよく描かれる。『攻殻機動隊 Stand Alone Complex』シリーズが好きな人には強くおすすめしたい。金融をテーマとしているということで、もっと地味で事務的な映画かと思っていたのだが、非常に強い映画的快感が味わえる、熱い一本でもあります。

 2009年も昨年に引き続き、ブッシュ政権下でつくられた暗いハリウッド映画がたくさん日本で公開されているけれども、『ワールド・オブ・ライズ』や『007/慰めの報酬』のように、そのムードだけを反映して、悪といかに向き合うかが考え尽くされたとはいいがたい作品も多い。本作がすぐれているのは、なかばリアリティを犠牲にして、正義はいかに悪と戦うべきか、というテーマが強く意識されているからだと思う。悪を打ち倒そうと主人公たちが奮闘すればするほど、いつのまにか悪と共闘することになったり、第三者の手によってとつじょ悪が簡潔に葬り去られたりと、善悪の対立軸はどんどんぶれていく。
 そうした悪と戦うことの複雑さに、映画として面白い表現や興奮する展開がうまく重ねあわされていて、非常にクレバーな映画である。表現のうまさは傑出していて、傑作『ボーン』三部作よりもサスペンス映画としては出来が良いかもしれないとさえ思った。トム・ティクヴァ監督に力があるのは自明の理としても、これがデビュー作となる脚本家エリック・ウォーレン・シンガーには今後注目していきたい*1

 出来が良いといえば、音楽もまた見事な出来。
 鑑賞中はハンス・ジマーが久々にいい仕事をしたのかな、と思っていたのだが(笑)、トム・ティクヴァ、ジョニー・クリメック、ラインホルト・ハイルという三人による共同の仕事であった*2。特に、エンドクレジットは最高に格好いい。この曲のみ、イギリスのバンドMUSEのフロントマン:マシュー・ベラミーも参加している。


 ところで、複数のレビューで、ニューヨークのグッゲンハイム美術館を舞台にした銃撃戦が絶賛されているが、個人的にはそこにいたる前の、ニューヨーク市街における尾行シーンに失禁しそうになりました。これ、『フレンチ・コネクション』じゃん! ちょうかっこいい! そりゃ映画館を出たらだれかれかまわず尾けたくなるっちゅうの。「A、B、Cだ。いいな!」*3

*1:とはいえ、imdbにもオフィシャルサイトにも、彼の詳しいプロフィールは載っていない。いったいどういう人なの?

*2:ティクヴァはどんだけ才能持っているんだよ...。

*3:尾行開始時、クライヴ・オーウェンがNYPDの刑事たちに瞬時に尾行用符牒の指示をするときのせりふ。絶対真似したくなる名シーン。