試写会で『ハリー・ポッターと混血のプリンス』『ハリー・ポッターと謎のプリンス』を観てきた。
原作の第一巻が日本で発売されたのが、ぼくが高校生のころだったはずだが、あれから十年近く経って、ダニエル・ラドクリフをはじめとする俳優陣の成長ぶりを眺めているだけでじゅうぶんしあわせな気分になる。きっと甥や姪ができた気分ってのはこんな感じなんだろうな。
今回は、クライマックスでたいへんな出来事があるとはいえ、全体的に波乱は少ない回。血沸き肉踊る展開がないぶん、ハリー、ロン、ハーマイオニーの青春学園ドラマ部分がていねいに描かれていた。三人とも、喜怒哀楽の表情がなんともチャーミングに撮られていたと思う。
基本的にハリポタは、主人公が世界の謎に翻弄され続ける物語だ。物語が終盤に近づけば近づくほど、ハリーは周囲に翻弄され、その心のなかに諦念を蓄積させていく。特に、ダンブルドア校長が「なにがあってもわしに従え」と度を越したサディストぶりを発揮して諜報活動や危険な探索行にハリーを巻き込む近作では、ハリーは自分の眼前で起きる事件にまったく介入できない。
そんな彼の無力感を強く意識させるのが、多用されるロングショットだ。怪獣映画のごとく破壊される橋の全景をとらえるアクションシーンにはじまり、ホグワーツ行き特急が進む荒野やホグワーツを囲む山野、暗闘するドラコをはじめとする登場人物たちの学園生活、そしてクライマックスの「プリンス」との魔法対決まで、遠方に位置した視点からの引きに引いた画面が何度も挿入される。その画面づくりは、現代ファンタジー映画の金字塔『ロード・オブ・ザ・リング』三部作のようでもある。
第二作目まで監督したクリス・コロンバスは、見世物的に魔法世界のアイテムを羅列してみせるのがせいぜいで、おもちゃ屋ではしゃぐくらいのスケール感しか獲得できていなかった*1。第三作目のアルフォンソ・キュアロン以降、いっけんハリポタとは食い合わせの悪そうな人たちが監督をつとめたことで、一挙に映画内世界のスケール感が拡がった。
とはいえ、監督のデイヴィッド・イェーツによる前作『不死鳥の騎士団』がそう印象深くなかったことを考えると、注目すべきは撮影監督のブリュノ・デルボネルのほうかもしれない。なんといっても『アクロス・ザ・ユニバース』を撮った人だもんな。平凡な画にはなるまい。
もっか撮影中の最終作『死の秘宝』の撮影監督は、『ディファイアンス』などのエドゥアルド・セラ。
陰鬱な探索行がえんえん続く前半と、ホグワーツがペレンノール野なみの戦場となる後半とで、たくさんの映画的見せ場がつくられるはずだ。すでにストーリーもキャララクターも、質の高さが保証されたいま、あとはファンタジー映画としてどれくらい魅力ある映像を見せてくれるか、そこに期待して自作を待ちたい。って、そのころにはぼくも三十路間近か。がっくし。
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*1:むろん、そこでハリポタ映画の土台を固めたコロンバスの業績はそれはそれで偉いんだけど。