こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

部活に命かけてます『チアーズ!』

 先日の記事「女子大生がビキニ姿で洗車することの歴史的正当性について」のブコメにて、id:vertigonoteさんに教えてもらった映画。洗車ネタが出てくるというだけでなく、映画ぜんたいが非常に楽しい、傑作学園映画でありました。ていうか自分、『ハイスクールU.S.A.』を愛読しているくせに、紹介されている映画を観なさすぎ。だからジョン・ヒューズが亡くなったニュースを知っても何も言えねえのだ。反省。

ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて

ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて

 舞台はサンディエゴ。名門チアリーディングチームの部長となった女子高生トーランスが、全国大会連覇を目指して奮闘する物語だ。リアルで洒落の利いた会話や、手際のいい演出、チアの面白さをしっかり描く撮影など、娯楽映画として非常にレベルが高い。
 そして何より、自信を失いかけながらも、己の愛するチアリーディングに全力を傾ける熱血主人公が非常にキュートで心を掴まれる。演じるのはキルスティン・ダンスト。女子も男子も嫌いになれない、どんな観客もつい応援したくなる好人物をみごとに成立させている。
 競技大会の映像などを見ればすぐにわかることだが、チアリーディングは、強靭な体力と精神力が求められる恐るべきスポーツだ。そこに、女子部員同士の駆け引きや、名門としての意地などもあいまって、部長たるトーランスはとてつもない重圧を抱えることになる。そもそも、彼女の属するチア部には、顧問がいない*1。トーランスは大人顔負けの「マネージメント」を一人行わなければならない。ごねる部員を説得し、埋もれた才能を外部から引っ張り、トラブル発生時には毅然とした態度で挑む。高校生なのに、なんで大人みたいなことやってんだ!とボンクラ高校生精神のまま27歳になったぼくなどは驚愕するのみだ。
 若い時期しかできないチアというスポーツばかりやっていて、成人したあとはどうするんだと思うが、彼女のように部活内の采配で鍛えられた人間は、ビジネスの場でも優れた振る舞いができるのだろう。トーランスにとってチアリーダー生活は大人になるためのデモンストレーションであり、また彼女の物語は、若い観客にとってのデモであり目標ともなる。
 とはいえこの映画は、バリバリ働く模範的大人になるべし、というような押し付けをしてくるわけではない。また一方で、青春時代を甘く切ないものとして振り返ることに耽溺するわけでもない。主人公と若い観客にとって、高校生活は、「いま、ここ」にある生き抜くべき日常でしかない。そして「いま、ここ」の積み重ねで得た能力や経験を用いて、20代になったら20代の「いま」、30代なら30代の「いま」を生き抜いていく。古臭いスタイルに固執する振付師の描かれ方や、全国大会以降の主人公たちの未来を全く描かないところなどには、過去にも未来にも束縛されず、ただ今を精一杯生きるべし、という倫理観があるように思えた。そしてそういう考え方は、ぼくにとっては非常にアメリカ的で、かっこうよくて、輝いてみえる。仕事で凹んだときは、そのへんのビジネス書なんぞをめくるより、こういうよくできた学園映画を観たほうが百倍役に立ちそうだ。

 さて、そんな有能なキルスティン・ダンストがどんな男子とくっつくのかというと、これが実にボンクラなロックおたくの転入生:ジェシー・ブラッドフォードである。彼が自作曲を吹き込んだテープ(!)に元気付けられて、キルスティンがベッドの上で飛び跳ねる姿は実にかわいいが、これはボンクラな男子の夢の結晶以外の何物でもあるまい。もちろんぼくはこのシーン大好きですけど。
 それにしても、『スモールソルジャーズ』といい『スパイダーマン』といい、こう何度も文化系男子にやさしいヒロインを演じられると、当の文化系男子としてはなんだか申し訳ない気がしてくる。きっとその反動で『エターナル・サンシャイン』で中年男と不倫する羽目になったに違いない(違います)*2

エターナル・サンシャイン プレミアム・エディション(2枚組) [DVD]

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 ところで、ブラッドフォードがクラッシュやラモーンズを好むいっぽう、キルスティンの浮気性な彼氏の部屋には、マッチボックス20とシュガーレイのポスターが貼られている。モテ系男子が聴き流してる軽薄流行音楽の象徴として彼らが挙げられたのだろうが、高校生のときにマジで彼らが好きだったぼくとしてはちょっと悲しかった。ま、どっちもぱーっと売れてぱーっといなくなった人たちですからね...でもぼくの学校では、洋楽聴いているだけでマイノリティで(ぼくのなかでは)クールだったんだよ! 古いロックに遡るまでの教養はなかったんだよう......。
マッド・シーズン・バイ・マッチボックス・トゥエンティー

マッド・シーズン・バイ・マッチボックス・トゥエンティー

14分59秒

14分59秒

*1:たぶん。少なくとも劇中では描かれない。これがアメリカの部活動の常であるかどうかはわからないが...。

*2:とはいえ最近はうつ治療のため施設に入所したというニュースもあって、ちょっと心配。今後も活躍してほしい。