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シアターキノで鑑賞。入りは20人くらい。今年2月のアカデミー賞外国語映画部門で『おくりびと』と賞を争った作品のうちの一つ。個人的には、候補作のなかで一番観たいと思っていた映画だった。
下馬評でも本命視されたくらいに『おくりびと』と競った注目作のはずなんだけれど、あちらの映画に比べると本当に話題になっていないよなあ。本木雅弘は「正直今でも、アカデミー本命はこの作品だと思っている」とコメントを寄せていて、えらいと思う*1。ま、『バーダー・マインホフ』を見逃したぼくも偉そうなことはいえない。
なぜ観たいと思っていたかっていうと、理由はやはりこの独特のアニメ表現の魅力に尽きる。妄想なのか現実なのか区別のつかない混沌が、カッチリしたFlash風アニメでつぎつぎ展開されていく本編は期待通りの面白さで、一時間半、まず視覚的に非常に楽しめる映画だった。
混沌としているとはいえ、物語の展開自体はシンプルだ。かつてレバノン侵攻に兵士として加わっていたイスラエルの中年男性が、自身の欠落した記憶の再現を目指して、戦友やTV記者のもとを訪ね歩き、話を聞きだしていく。凄惨な記憶を蘇らせたくない人間、饒舌ではあっても真情を吐露しているのかわからない人間たちから、分断された話を聞いて組み合わせていく展開は、探偵物語のようでもある*2。
最終的に主人公はある結論に辿りつき、その光景が実写映像を交えて語られる。でも、それが本当に本当の現実だったのか、主人公に罪があったのか否かの決着は、絶妙に回避されている。そのぼかし具合はおそらくアニメでないとできない表現で、この映画の姿勢をほかにはないものにしていたと思う。声高に誰か(自分を含めて)の罪を指摘するでもなく、自閉するでもなく、現代に開かれたよき映画だった。