『アリ』も『インサイダー』も観てないぼくが言うのもなんですが、ここ最近のマイケル・マン作品って、音楽のかっこよさのおかげで他の映画より一段高く評価されているんじゃないか。特に、予告編でのかっこよさは異常。『マイアミ・バイス』だって、この予告編を観たあとでは本編も大傑作だろうとしか思えなくなる。
JayZとリンキン・パークの”Numb/Encore”に負けず劣らず、『パブリック・エネミーズ』の音楽もかっこいい。今回フィーチャーされているのは、オーティス・テイラーというブルース歌手の”Ten Million Slaves”という曲。劇中でも繰り返し使用されている。
いやあ、これじゃあ誰だってデリンジャー一味に参加したくなりますよ。ちょうかっこいい。
エリオット・ゴールデンサルの重厚なスコアもすばらしいし、往時のジャズ、ブルースを中心とした楽曲もいい。
で、じゃあ映画本編も予告編そのままにすばらしいかっていうとそううまくは行かないのがこれまた『マイアミ・バイス』と同じなのだ。
特に前半は辛かった。先に問題点を挙げておこう。
まず、音楽とも絡む問題だけれども、場面転換のタイミングがどうも生理的に気持ちよくない。音楽もぶつ切りに近い切り替わりがいくつかあった。あまりかっちりしすぎていない、浮遊感のある語り口は確かにマイケル・マン作品の大きな魅力ではあるのだけれど、観客のエモーションが温まっていない前半でやられるのはきつい。
また、デジタルカメラ特有の質感や手ブレ感をそのまま残した撮影も、すばらしいカットが多い一方で、正直なところ正視に耐えない場面もいくつかあり、残念だった。史劇をあえてデジタルカメラ風味でやるという試みはとても面白いと思ったんだけど。
でも、終盤ではこれらのマイケル・マン風味がすべてプラスに作用していく。
特にデリンジャーが最後の一日にとる二つの行動を描く場面は最高に魅力的だ。ネタバレになるので詳しくは書かないが、演出、撮影技術、俳優たちの演技、その他すべてが見事にかみ合った名場面だったと思う。
このデリンジャーの二つの行動はあまりにドラマティックなので、拒否する観客も多いのかもしれない。でも、史実だとは信じがたい行動をとったジョニー・デップのデリンジャーは、現実の枷から解き離れ、映画のなかに鮮やかに焼き付けられた。史実に沿っているかどうかはかまわない、この映画のなかで、男は確かに一つの生を走りきったのだ。今日が輝いていればそれでいいとうそぶくデリンジャーのキャラクターにふさわしい、あやふやなフィクションの上でこそ成り立つ魅力がそこにはあった。
以下補足。
予告編で印象的だった、超かっこいい移送中の飛行機カットが本編ではほとんど使われていなくてがっかりした。『マイアミ・バイス』のボートシーンと同じだよなあ。もったいない。
ベテラン捜査官を演じるスティーブン・ラングの頼れる男ぶりにしびれた。トム・サイズモア亡き今、上司にしたいハリウッド男優ナンバーワンであろう。つぎはぜひ戦争映画に出てほしいものです。