こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

2.5次元を知る『ミュージカル黒執事 千の魂と堕ちた死神』

黒執事 1 (1) (Gファンタジーコミックス)

黒執事 1 (1) (Gファンタジーコミックス)

 人気マンガ/アニメの『黒執事』をミュージカル化した『ミュージカル黒執事 千の魂と堕ちた死神』のスクリーン上映を、札幌ディノスシネマで観てきました。最近はやりの、舞台作品を収録した映像を映画館で流すというスタイル。
 正直なところ、観る前の期待値はそう高くなかったです。アニメ/マンガのミュージカルなんて、どーせイケメン俳優の顔見せのためのヌルい興行なんでしょ……とか思ってました。しかしそんな数時間前のおれ、謝れ!シエル坊ちゃまの靴の裏を舐めて謝れ!
 いやー、おもしろかったです。いままで知らなかった娯楽の形式を知って、蒙を啓かれた気持ち。

 もちろん、アニメの『黒執事2』を一作目の後半と並行して鑑賞し、作品世界への親和性が高い状態で観たってのも相当に影響してはいると思います。でも、『黒執事』がもつ笑いとシリアスさの割合とか、「それっぽさ」にはこだわっても「リアルさ」にはこだわってないあたりは嫌いなので、自分は単純なファンではないはず。にもかかわらず楽しめたってことは、それだけ作品の質が高かったということ。
 また、アニメの『黒執事』がもつ笑い(というかおふざけ)の要素が、演劇に馴染みのいいものだったということも大きいのかも。オーバーなリアクションだとか、時代を考えないネタのセレクションだとか、そういうものは、アニメではフィクションの枠がかっちりしているから(作品と観客の境界が明確に存在するから)気になってしまうけれど、舞台というフィクションの枠が相当に緩い場では素直に観られるようになる。そのユルさが、ミュージカルという形式にもあっているし。

 音楽がいい*1とか死神たちのダンスがいいとか言いたいことはたくさんあるわけですけど、そのへんはとばします。同性愛がなんの注釈もなくストレートに語られていて実に潔かったこととか、シエルがかわいくてあやうく女装っ娘属性の扉を開きかけてしまったこととかも略。
 ひとつ特筆しておくとするなら、やはり主人公セバスチャンを演じる松下優也の才人ぶりだろうか。歌うまいしダンスできるし顔もいいしなんなのこの完璧超人。アニメ版でセバスチャンを演じる小野大輔が好きなのでとうてい受け入れることはできないだろうと思ってたんだけど、全然問題なかったっす。
 キャストによってアプローチは違うようで、単純にすべてアニメに似せようとしたわけではないようだけど、このセバスチャンと、オカマ死神グレルについては、尋常じゃないアニメ再現度の高さにびっくりさせられました。
 同居人の読んでた『Otome Continue』の黒執事特集によれば、こういうアニメ/マンガをもとにしたミュージカルを「2.5次元ミュージカル」と呼ぶそうで、まさに言い得て妙というものです。2次元を3次元に持ってくるにあたって、キャストもスタッフも相当な鍛錬と工夫を重ねているはず。作品のはしばしから感じられるそんな熱気をふくめ、たいへん面白い表現形式だと思いました。実際の公演を観るのがむずかしい地方都市在住者としては、ぜひ今後もさまざまなミュージカルを映画館で公開してほしいなあ。

*1:そりゃそうだ、岩崎琢だもん