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こづかい三万円の日々

30代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

ひどさのてっぺんで 滝本竜彦『僕のエア』

僕のエア

僕のエア

 数年間のブランクを経て、2010年の滝本竜彦はどんな小説を書いたのか。そうわくわくしながら読んでいたので、読み終わった後、初出2004年と知ったときには呆然としてしまった。過去二作の長編と似ているようで異なる着地を見せていることに、ブランクのあいだの変化なんぞを勝手にみていてことを反省する。ちょっと邪道な読みだよね、そういうの。


 とはいえ、物語後半に主人公があるく筋道は、やはり『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』にも『NHKにようこそ!』にもなかったもののように思える。物語の中盤で主人公は最も自分の向き合いたくなかった現実を目の当たりにしてしまう。主人公の近くに寄り添う女性:「エア」、梢、スミレさん、そのいずれもが彼に救いをもたらさないし、主人公自身が明確な救いを見出すこともない。でもたぶん彼は物語の終わったあとも生き続けるだろう、そう読み手に思わせて小説は終わる。
 答えは明言されない。あらすじとしてまとめれば絶望的な物語ではある。だがたぶんそこは闇に閉ざされていない。奔放におどけてはいても筆の力がとても強い人なのだろう、そういうふうに思わせられる。
 人生のすべてがむなしく日常は暗黒だということが、日常の酷さ、人生の酷さをさんざ描くことで、最終的には否定される。どんなにひどくてもまあ天井はある、完璧な闇はないのだ、というように。そういう落しどころを得られた滝本竜彦なんだから、2010年のいま書かれた新作、やっぱり早く読みたいなあ。