2010年に劇場で観た映画のワースト&ベストについて語りたいとおもいます。
なお、対象となるのは合計83本。DVDを含めるとちょうど100本でした。道内劇場キャンペーンで一ヶ月フリーパスに当選したおかげで、例年より少し多め。観たかったけど観てない話題作は『トイ・ストーリー3』『17歳の肖像』『シングルマン』あたりかな。
- ワースト映画
すきじゃない映画をことさらに取り上げるのは非生産的ですが、力作だし褒める人の言い分もわかる『かいじゅうたちのいるところ』『ずっとあなたを愛してる』の二本については、ぼくは嫌いですとあらためて言っておきたい。貴様らを野放しにするつもりはない!という自警団精神ですよ..。ぼくのベスト10と比べれば、近親憎悪であることはバレバレですが。
『ずっとあなたを愛してる』についてはすでに充分語ったので省きます*1。
『かいじゅうたちのいるところ』もぼくのなかでは『ずっとあなたを愛してる』と同じ感触があって、映画のテーマ設定上、正面から扱うべき問題を巧妙にぼかしているところが腹立たしい。かいじゅうの象徴する無邪気な悪意について、最後まで「しかたないよね..。ぼくたちはどうしても傷つけあってしまうよね..」みたいな遠い目をしてねえでちゃんと向き合えよばかやろう、と思いました。かいじゅう/こども/人の心を細やかに表現することにとらわれるあまり、それらが引き寄せる暴力とその結果について無頓着になってしまったのではなかろうか。おれはかいじゅうのキャロルが、『息もできない』の主人公よりも質が悪い凶悪野郎にしか見えませんでしたよ。
なにより、そういうかいじゅうの姿を観て喜んでいる観客たちがぼくは恐ろしい。みんな、あんな人が近くにいてもいいの? かいじゅうたちは怪我しても心が傷ついてもヘラヘラしていられるが、人間は出社拒否せざるをえなかったり欝になったりするんだよ!
- ベスト映画
気をとりなおしてベスト10を順に挙げたいと思います。
- 10位『ロスト・クライム 閃光』
2010年の娯楽系邦画といえば『十三人の刺客』だぜ、とも思うのだけれども、出来のわりに全然話題になっていなかったこちらを推しておきたい。
たまに鼻につく情感のだだ漏れぶり、古臭い悪夢描写などはどうかと思うけども、これ撮っているのはあくまで73歳の人ですからね。常に画面全体にみなぎる力は素直に尊敬したいもんです。
イイ顔をしたおっさんが立ち並ぶなか、下着姿でうろうろしたり、性欲に突き動かされて川村ゆきえを襲ったりと男の恥ずかしい側面をさらけ出しつつ、ラストカットで堂々とした反逆者の目を見せた渡辺大も偉かった。
- 9位『キック・アス』
『キック・アス』については言いたいことがたくさんあるけれど、これだ!と自分の感じたことを言い表す一文が見当たらない。主人公がこじらせてない感じが原因かしらん。でもこのこじらせてない感じ、たぶんぼくと同じなんだよなあ..。
好きなんだけど、好きなんだけどね..。クライマックスのあの飛び道具がすべてを台無しにしかけていると思うんですよ。もう一回くらい観て、さらに続編まで観てから評価をしたい気がする。
- 8位『ヒックとドラゴン』
飛行シーンがすばらしい。2Dでしか観れなかったのでこの順位だけど、いい3D環境で観ていたらもっと上だったかも。
ジェイ・バルチェルは『魔法使いの弟子』でもおたく主人公を演じていたわけだけど、『キック・アス』のアーロン・ジョンソンとは別種の飄々とした感じがあって好きです。ヒロインを演じたアメリカ・フェレーラもよかった。
ラスボスの扱いについては、災害みたいなもんなんだからやむなし、というのがぼくの印象です。人間同士会話ができるのに扱いがひどすぎる『カールじいさんの空飛ぶ家』の敵役に比べれば全く問題ないでしょう。
だいたい、この映画のなかで主人公にとって最大の敵は父親なのだ。個人的にはドラゴンとの交流よりもむしろ、主人公と父親が対話し理解しあうさまにノックアウトされた。対立しあっているのにあんなにやさしい父親というのも珍しい気もするけれど。
- 7位『さんかく』
冷静に観れない映画でした。なぜならこの映画のなかの高岡蒼甫はおれだからだよ!
いやもちろん後輩もいじめないしデコトラみたいな恥ずかしい車ももってませんけど、はっきり外に露出しないだけでオレにもこういう猿山の大将的なところがぜったいある。そして「そんなおれ」にもほほえんでくれる小野恵令奈のたいへんおそろしいファムファタールぶりときたら! そしてそんな彼女もやはり田畑智子や高岡蒼甫(や観客のおれ)と同じレベルのどーしようもないただのヒトだということを描いていく、映画そのものの圧倒的な覚めぐあいときたら!
監督・脚本の吉田恵輔はこの映画と、シアターキノのゆうばり映画祭特集で観たデビュー中編『なま夏』のいずれもがすばらしかったので、今後も追っかけなければならないなあと思います。18歳未満の女の子をやらしく撮る仕事を続けてほしいものです。
- 6位『マイレージ・マイライフ』
問:『フィクサー』といい、中年の危機にあるジョージ・クルーニーはなぜこんなにいいんでしょうか。
答:てめーが自分を投影すると楽しいからだよ!
..などという身も蓋もない結論だけでもいいんですけど、エゴイストであることを隠そうとしない気配だとか、むちゃくちゃ格好いいんだけどオフィスでふつーに仕事していても馴染む苦労人ぽさとか、でも最終的に常人では難しい決断を下す姿に説得力を持たせるカリスマ性などの塩梅がちょうどいいんだろうなあと思います。セレブリティ臭の強すぎるマイケル・ダグラスではこうはいかない。ちょっとポール・ニューマンぽくないすか?
映画についての詳細は、観たあとに書いたものを参照ください。
出張映画の傑作『マイレージ・マイライフ』 http://d.hatena.ne.jp/tegi/20100725/1280028291
- 5位『ハートキャッチプリキュア 花の都でファッションショー..ですか?』
プリキュア、手術直後だったからとはいえ、映画が終わって劇場が明るくなったとたん、両鼻からつつーっと鼻血が出てきたのには自分でもびっくりしました。あとむちゃくちゃ集中してたせいか全身がけだるい。それも手術のせいと言われればそうなのかもしれなけども。
2010-11-05 00:49:47 via web
それに、「「どうせ世界は自分を受け入れてくれない」「人とわかりあいたいのにみんな厳しい」「どうせ自分の命運なんてすぐ尽きるし」「だから世界なんて終わっちゃえばいい」っていう、ぼくみたいな男が抱える馬鹿げた(でも辛いんだって!)破壊願望を、真正面から全力で打ち返」す、という映画のテーマは、ぼくがここに選んだ他のベスト作品のテーマともけっこうつながるんじゃないかなあと。要するに、サラマンダー男爵=社会とぶつかれず大人になりきれないまま子供をもつ歳になった非モテオタク野郎=おれ、ということですよ! ああやっぱりこれもおれの映画!
心つかまれてきたよ!『ハートキャッチプリキュア 花の都でファッションショー…ですか!?』 http://d.hatena.ne.jp/tegi/20101104/1288885311
- 4位『3時10分、決断のとき』
日本初公開は2009年夏だったのですが、ぼくが2010年になってから観たということ、それから同じジェームズ・マンゴールド監督の『ナイト&デイ』も好きな映画なので、この位置としました。
正直に言うとこの映画、細かいところはあまり覚えていないんだけど、クリスチャン・ベールとラッセル・クロウの問答からクライマックスまで、えんえん泣かされてしまったことだけははっきり記憶している。そういうエモーション部分だけでなく、銃撃戦の描き方や、暑く荒れたイメージの西部劇に雪のシーンをもってくるところなどの、派手じゃないけれどはっとさせられる画作りにもときめくものがありましたね。
『ナイト&デイ』でいえば、カーチェイス中にトム・クルーズが車の屋根に飛び乗ってくるシーンや、キャメロン・ディアスとクルーズが車で夜の逃避行をしているとみせて...というシーンあたりの、軽く笑わせるタッチがとても楽しかった。
『3時10分、決断のとき』は「困難な決断を下すときには、おのれの良心(とそれを担保する外部のなにか)を信じるしかない」、『ナイト&デイ』は「いつでもだれにでも再起のチャンスはある」というテーマをそれぞれ語った映画だとぼくには思えたのですが、そのいずれもがぼくの憧れるアメリカの姿を現しているようで、その点もぼくがマンゴールド作品にひかれる理由なのかも。
- 3位『シャネル&ストラヴィンスキー』
アナ・ムグラリスとマッツ・ミケルセンの色気に心を奪われた。
ヒトが何かを創造するときにうまれるどうしようもない性的な空気を詰め込んだ映画。苦労の末ようやくひとつの仕事を完遂し風呂に浸かるストラヴィンスキーと、その傍らにたたずむシャネルとのあいだにかわされる、新しいなにかを生み出したものたちだけに許される共犯者的視線のやりとりが神々しい。
芸術を言い訳に家庭を顧みないダメ亭主から、音楽の創造主まで、幅の広い人間像を一身で演じたマッツ・ミケルセンが実によかった。24時間いつでも女神のようなシャネル/アナ・ムグラリスとさんざ濡れ場を繰り返していても、不思議と腹が立たないんだよなあ。なんてうらやましい!しかし作曲がんばれ!みたいな。いとおしい男優。『タイタンの戦い』だって彼が出ているから楽しかったし。
- 2位『バッド・ルーテナント』
いとおしいといえば、『キック・アス』に本作とここにきて傑作に連続出演しているニコラス・ケイジもいとおしい。これらの映画のニコラス・ケイジは、スタローンやミッキー・ロークらが、近作で自身のキャリアや現状と映画内人物を重ねあわせてキャラクターの深みや映画的興奮を呼び起こしているのと同じような立場にあるのではないか。もっともニックの場合、駄作にも多数手を出し続けているという大きな問題がありますが。
この映画、犯罪や街の描写が、ある程度ちゃんとした警察映画としてのルックを持っているにもかかわらず、トリップ表現やらご都合主義に満ちた展開やらによって、ひどくおさまりの悪い奇妙な映画になっている。しかしもちろん、そのはみ出たところがいい。
警官を主人公に据えた映画がつくられる/観られる動機ってのは、正義とはなにか、この悪辣な世界でいかに生きるべきか、というテーマをリアルに描くことができるからだろうと思うのですが(よりポップに振られるのがアメコミヒーロー映画で、上品なのが西部劇/時代劇)、じゃあなぜそんなテーマがなんども繰り返されるかというと、すくなくとも男の作り手/観客にとって、日々暮らすなかで摩耗せざるをえない自身の子供ごころがそのテーマにどうしようもなく反応してしまうからじゃなかろうか。ヒーローに憧れ、また自分自身がヒーローになれると信じて疑わなかった少年時代から遠く離れ、唯一絶対の正義も、自分のなかの英雄的精神も、維持できるわけがないと諦めきった心にとって、それらの命題を背負って迷い戦う警官の姿というのはあまりに魅力的だ。
この映画がすごい理由のひとつは、あっさりと正義が為されてしまうところにある。ニコラス・ケイジ演じる主人公はドラッグと金と女のなかで破滅に向かって一直線に疾走しているのにも関わらず、事件は解決し、周囲から褒め讃えられ、女の愛情も手に入ってしまう。「為されない正義」「奮闘する男」といった警察映画の定石が覆され、そのうえでやはりダメな男の日常が描かれて映画は幕を閉じる。
戦い続けることは地獄である。そこには格好良さも救いもない。
ぼくが大好きな探偵映画『ゴーン・ベイビー・ゴーン』では、主人公は崇高で瞬間的な正義ではなく、自身が関与し続けることによってのみ可能な正義(それも、本当に達成できるかわからない正義)に賭ける。で、賭けることにはまだほんの少しの格好良さがあったのだが、『バッド・ルーテナント』の主人公がいきつくのは、選択も賭けもしないのに陥ってしまった際限のない戦いである。そこには微塵の格好良さもない。それでも、戦い/正義の希求/人生はつづく。そういう地点にあるにぶい希望みたいなものがこの映画にはおさめられている。
- 1位『プリンセスと魔法のキス』
『プリンセスと魔法のキス』http://d.hatena.ne.jp/tegi/20100313/1268468986
ランディ・ニューマンの音楽をちょっと聴くだけでもう目が潤んじゃうぜ。
物語冒頭でのヒロインはいっけん非の打ち所がないんだけれど、なんだか息苦しい。いっぽうの王子様は救いようがないダメ男に思えるんだけど、突き放しきれない魅力がある。このスタート地点から始めて、いいことだからいい、あるいはダメだからいい、という二元論を越えていくのが非常に現代的だと思う。ダメなものを越えて本当によきものを目指すんだ(あるいは、ダメだからいいんだ)、というマインドに満ちすぎてしまったいまの日本にとってはとくに。自分のいまの悩みにたいして、ディズニーアニメがこれほどの道筋をみせてくれるとは思わなかった。
希望を語ることが困難な状況で、ディズニーアニメにしかできないやり方でハッピーエンドを物語の末尾に呼び込む。すごい映画だと思います。
実は2010年の映画、2位以下はここに挙げなかった数本も含めて、日によって順位はころころ変わるのですが、この映画だけは不動です。2010年、この映画ほどに、笑わされ泣かせられ、考えさせられて、心から楽しくなってしまった映画はなかった。大好き。
- 落穂ひろいとまとめ
ここに挙げられなかったものでも、ベストに入れたいと思う映画はたくさんありました。『フィリップ、君を愛してる!』『ゾンビランド』『フローズン・リバー』『(500)日のサマー』『キャピタリズム』などなど。こうやって並べてみると、アメリカの映画が多いなあ。
『ミュージカル黒執事 千の魂と堕ちた死神』『Dear Girls Story』の二本は、ここで挙げた「映画」とは異なる表現形式なので一緒にしませんでしたが、映画館の新しい利用方法として非常に印象深いものでした。初音ミクや宇多田ヒカルのライブ中継など、非映画コンテンツを積極的にとりあげるディノスシネマ札幌には今後も大いに期待したいところです。
こういう現象には、映画そのものだけでやっていくには辛いんだろうな、という映画館の台所事情も透けて見えます。自分がシアターキノに上映リクエストをした『マイマイ新子と千年の魔法』や、東京では満員スタートで大賑わいらしい『キック・アス』といった映画も、札幌では華々しい成績ではなかったようす。冒頭に述べたとおり、例年よりは多く観られた年ではあったけれど、まだまだ至らないなあ、もっと映画館に通わないといけないなあと改めて思ったしだい。レビューもちゃんと書かなきゃね..。