こづかい三万円の日々

30代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

スパイになってはみたけれど『カンパニー・マン』

 ライバルと苛烈な競争を続けるハイテク企業デジコープ社に、企業スパイ要員として採用されたモーガン(ジェレミー・ノーサム)。退屈な日常からかけ離れたスリリングな日々に心を踊らすが、その任務はどこか目的のつかめない異様なものだった。やがて彼の前に謎めいた美女リタ(ルーシー・リュー)が現れる。
 ヴィンチェンゾ・ナタリ監督、2002年作品。

 俺スパイ感探求の旅、6本目。
 『CUBE』を大ヒットさせ、パズル系/残虐系/ピタゴラスイッチ系エンタテインメントの潮流をつくったヴィンチェンゾ・ナタリの長編第二作。『CUBE』からは5年経っての新作だけど、それなりに期待されていたんでしょう。日本版予告編では、「異常天才ヴィンチェンゾ・ナタリ」などと紹介されていて吹く。何その四文字熟語。
 実はわたくし『CUBE』も観ておらず、ナタリ作品はこれが初めて。まあ「スタイリッシュ」で煙に巻くような作風だろうから、本作もちょっとオサレなスパイものなのかしらと思っていわけで、まあそれは外れてはいないんだけど、実際はボンクラ度の高い映画でした。


 とにかく、映画冒頭から最後まで、スパイ願望が満ち満ちています。憧れの企業スパイになったら、イケてるハイテク小道具で超興奮!出張先で謎の美女にドキドキ!機内サービスもジンジャーエールなんて飲んでいられるか!スコッチだ!..などと、まあ実際に社会人になった男が初仕事/初出張の際に陥るハイテンションぶりを忠実に再現してみせるのだ。自分の姿を見せつけられているようで非常に辛い。バーでルーシー・リューを口説きに行くときに眼鏡を外すあたり(でも服はすげえダサいジャケットonポロシャツ)とか、もうやめて!と叫びそうになりました。


 当然、そんな楽しい日々は長く続かず、主人公は自分を雇った企業の人を人と思わないようなスパイ戦術、そしてライバル企業のカウンター・スパイ戦術の暗黒に絡め取られていきます。このへんの二転三転ぶりもまた楽しい。
 スパイに憧れた男が、スパイの世界の暗黒に飲み込まれていく、というプロットは、ありふれていそうで、実は多くないと思います。少なくとも、この映画のように、シリアスさを保って、背中合わせの恐怖と格好良さを維持して描いた映画は思いつかない。終盤まで保たれるその雰囲気は、それだけで充分価値があるものです。
 ただ、何を間違ったか、主人公が乗り込む最後の場所の描き方からどうにもボンクラ度が過ぎたことになっており、結末に至っては..いやネタバレになるので言いませんが。
 同じ結末にするにしても、それまでの厚い暗黒ぶりに比べて演出の説得力が薄いのが致命的。ラストシーンの現実感のなさは、昨年のあの映画*1を通過してきた身としては安易に信じられないですよ..。
 ただし、こちらとて俺スパイ感を追いもとめるボンクラの身ゆえ、このファンタジーぶりは決して嫌いにはなれない。演出がよくないとは言ったけれど、複数の立場を演じ分けるジェレミー・ノーサム*2の演技が、この展開を何とか支えているし。
 珍味ではあるけれど、前述のとおり貴重な映画ではあります。俺スパイ感のメタ映画としてそれなりに楽しむことができました。

カンパニーマン [DVD]

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*1:あっちは海の上じゃなくて***だったけども..。いつ物陰からアイツが出てくるかと心配になりましたよ..。

*2:俺スパイ感探求の旅でとりあげた『エニグマhttp://d.hatena.ne.jp/tegi/20110717のイギリス人諜報員の演技もよかったですね