こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

歳の差異性間交流映画『アジョシ』


 質屋を営む男テシク(ウォンビン)は、過去を隠し孤独に暮らしていた。隣家の少女ソミ(キム・セロン)のみが彼と心を通わせていたが、ソミの母親が引き起こした事件に巻き込まれ、裏社会の人々に拉致されてしまう。彼女を救うため、テシクはひとり壮絶な戦いの渦中に飛び込んでいく..。

 たいへんよくできたアクション映画だと思いました。(ハリウッド程度には)自国以外のマーケットも考えてるんだろうなあと思わせる普遍性、流行りのおさえ、作りの手堅さ。
 アクション設計と物語の盛り上がりが緻密に連携していて、ただ単に「すごいことやってみましたー」というだけでは終わらない、地に足の着いた演出にはほとほと感心させられます。テシクの強さも最初は間接的に描いておいて、徐々に乱闘の規模やアクションの派手さを追加していく。悪役を複数にする、「少女を保護する」という目的はぶれずにその場面場面の目的をさまざまに変えていくという物語の組み立ても緻密でみごと。
 ベストバウトは当然クライマックスの集団乱闘&ベトナムおじさんとの一騎うちなわけですが、他のアクションもすべて鮮やかな印象を残す。『ブレイド2』みたいに落下部分をCGで作って繋いでいると思われる建物からの飛び降りシーンや、トラック大激突シーンなど、流行りの表現をしつつこの映画の個性を出しているのがすばらしい。
 そして、それらの表現を全面的に支えているウォンビンの肉体性! 長い手足が車の上に仁王立ちになるさまとかほんとうに格好良くてエロい。ああいうスーツ着せてたのも大正解だったと思います。うっとり。

 ただ、わたし、『レオン』のむかしからこの手の歳の差異性間交流映画がなぜか苦手なんすよねー。なので、場内すすり泣き続出のラストも、「『96時間』のほうがドライでよかったなー」などとちょっと冷たく観てしまっていたのでした。いやそれでも他の韓国娯楽映画にくらべてそうとう愁嘆場が短くて好印象ではあるんですけども。
 兄弟程度の差だったり、血縁関係だったりすると楽しく観られるんだけど、どうも擬似家族を作ることが生理的に苦手らしい。『息もできない』は親子というより友情ものだったので大丈夫だったのかも。
 これはほんとうに趣味というか心もちの問題なので、この映画を批判したいわけでは決してありません。単にわたしの問題。

 そうそう、蛇足ですが、俺スパイ感もなかなか高かったです。直接的にテシクが情報部で身につけたテクを披露するシーンはないものの、かつての仲間が何も言わず助けに来てくれるくだりとか、警察が米国経由でテシクの情報を手に入れて「な、なんだって...」と驚くあたりとか(全盛期のセガールみたいで)、なかなかの味わい。引退スパイ/工作員ものの楽しさは鉄板です。