これはジュディ・デンチにとっての『グラン・トリノ』なのではないか。
1995年の『ゴールデンアイ』以降、二人のジェームズ・ボンドの活躍を支えた彼女、アクション映画のアイコンとしての彼女の幕引き。
ボンドを採用し、信頼し、ときに操りときに振り回され、数々の作戦を成功に導いてきたM。特に、ジュディ・デンチが演じたMは、ダニエル・クレイグにしてもピアース・ブロスナンにしても、ボンドの次に重要な存在として大きな輝きを放ってきたのではないか。
そんな人物にふさわしい、堂々たる幕引きだったと思う。
イーストウッドのような、すべてを清算する救世主としての死ではない。彼女を本当に殺したかった男ではなく、名もない端役のばらまいた銃弾によっての死だ。
しかしそれゆえに、彼女もまた、組織のために殉じた(引継ぎ可能の)存在だったことが思い出される。
そして、彼女のためにボンドは涙を流す。
「007」同様に「M」もまた、引継ぎ可能な存在であると同時に、確かな個であったからだ。
彼女の死のあと、ボンドが再会するMI6の仲間たちの愛おしいこと! 責任を取って見事に去ったリーダーは、組織を活性化させる――いや、そんなビジネス書みたいなことを言いたくはないんですが、スパイ・フィクションをサラリーマンの理想の投影としても見てしまう身としては、そんなところにもグッときたのでした。