こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

『スパイ・ゲーム』

 『スカイフォール』が萌えるのは、ジェームズ・ボンドが、国家を守るという自分の職務の枠を意識しつつ、それを超えて上司Mを守ろうとするから。組織のなかで個人のために暗闘する、そういう二律背反のなかをくぐり抜けていくスパイたちにぼくはドキドキするのです。
 最近の映画だとそのへんに重点が置かれている映画が少ないので*1、ちょっと昔ですが、2001年のこの映画を。

 引退を目前にしたベテランCIA工作員のミュアー(ロバート・レッドフォード)は、中国で任務にあたっていたかつての部下ビショップ(ブラッド・ピット)が中国政府に身柄を拘束されたことを知る。ふたりは数々の難局をともに切り抜けながらも、スパイという仕事に対する考え方の違いから袂を分かっていたのだった。国益のために見殺しにされることとなったビショップを救うため、ミュアーはひとり暗闘をはじめる……。

 物語は、ビショップを救うべくCIA内で暗闘するミュアーと、ふたりの過去を描く回想を交互に描くかたちで進みます。
 注目したいのは、ミュアーは「スパイ」というより「スパイ・マスター」であること。現地の人間や、ビショップのような若い軍人を現場要員として使いこなし、情報収集や工作にあたる人間です。
 一兵士として戦っていたベトナムの戦場でリクルートされたビショップは、やがて自分も他人を操作するスパイ・マスターになるようミュアーに育てられていくのですが、ビショップは人の情を重視し、部下のためにリスクを侵すようになります。
 時には部下を非情に見捨てなければならないとするミュアーは彼と決裂するのですが、しかし、穏やかな退職を目の前にして、ミュアーはそのビショップのために自分を犠牲にすることを選ぶ。
 ミュアーとビショップの、反目しあいながらも互いを想い続ける関係性。そして、CIA本部から一歩も出ることなく中国のビショップを救おうとするミュアーの知力を尽くした暗闘。
 名優ロバート・レッドフォードと、当時38歳のブラッド・ピットの、色気と青さと円熟とを兼ね備えたふたりの共演もあって、見応えじゅうぶんな快作です。

スパイ・ゲーム [DVD]

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*1:ワールド・オブ・ライズ』がちょっと惜しかったですねそのへん。『フェアウェル』はちょっとプロフェッショナル感が薄い。あと、『裏切りのサーカス』はどんぴしゃりではあるのですが、『スカイフォール』に続けて観てもらうにはちょっと偏り過ぎなので。