こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

『ブラッド・ウェポン』

 アクション映画を褒めるとき、「CG全盛のハリウッド映画からは失われつつあるリアル重視のアクションが…」というたぐいの枕詞が一般化したのはいつごろからでしょうか。やっぱあれ、あんまりよくないと思う。
 本作もどうもそういう路線で売られているようで、劇場に掲示されていた新聞のレビューではまさにこんな感じの文章が含まれていたし、ぼくもそのアクション描写に期待して観に行ったわけですが、結果、なんか問題はそういうところじゃないよなー、と思った次第。

 本作のアクション表現、その演出や意気込みは買うけど、テンポが悪くてどうにもノレない。編集が悪いのだろうか。ド派手な見せ場を多数用意している割に、「ここぞ!」という絵がキマっていないのも残念です。
 テンポが悪いのに、へたにFPS的表現とか、ワールドワイドな設定をぶちこんできているので、余計にもっさりとした印象が際立ってしまう。残念ながらスパイ感も低めでした。
 おお、と身を乗り出して観れたのは、ニコラス・ツェーが裁判所から脱出すべく廊下を猛ダッシュするところと、「ACDC*1からの脱出〜駅での逃走劇あたりでしたでしょうか。あ、あと廃ビル内での滑空。

 そりゃ、「コンピュータの力を借りてるなあ、やれやれ」と思わせちゃうようなアクションはよくない。でも、それと同等に、「このアクション、間延びしてるなあ」「いまいちかっこわるいなあ」と思わせちゃうようなアクションもよくないはず。
 結局、アクション映画の価値というのは「面白いアクションかどうか」っていう点で決まるわけで、そこに「CGか実物か」っていう基準を持ち込むのは間違いなんじゃないか。
 この映画をアクション映画として高く評価するなら、単にその人の好みにあってるから、ってことなんだから、そう言うべきだと思います。ついでに、それって要はひと昔前のアクション映画のテンポが好き、っていうだけじゃないの?という皮肉も言っておきたい。

 んでんで、この映画は、アクション部分をもっと削いでよかったと思うんですよ。だって、兄弟のドラマについては、俺、泣かされちゃったもの。最後の最後、兄弟の思いがほとばしるアクションシークエンスにはそうとうグッときました。
 もしかしたら、兄弟とか親子とか、そういう個人のドラマって、この手のワールドワイドなアクション映画には実はしっくり来ないのかも。本作はそう悲惨な出来にはなっていないものの、やはり随所のメロドラマには「たくさんの人命がかかってんだ!家に帰ってやれ!」と思わざるをえない。『アジョシ』なり『哀しき獣』なり、アクション映画として高評価を受ける最近の韓国映画が、軒並み小規模で個人的なドラマを扱っているのはその証左と言えるんじゃないだろうか。

 とまあ、文句はいろいろ言いたくなりますが、新年一作目にふさわしい、派手で楽しい映画ではありました。アクションへの期待は小さめにしておいて、主演ふたりの好演を楽しむために観るとよいと思います。

*1:もちろんロックバンドのことではなく、アジア防疫センター、とかなんとかの略称。たぶん架空。