こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

「時空を超えて世界を救っちゃうオレ」の映画『ルーパー』

 近場での公開終了日に観てきました。前評判通り、たいへん面白い一作。TBSラジオ「たまむすび」で山里亮太さんが本作の面白さを「次々に「いいやつ」が変わって、誰を応援していいかわからない!」と表現していましたが、言い得て妙と思いました。
 そういう構成を取っている物語が、暴力の連鎖にかたをつける、というテーマに着地する。物語としては実によくできています。その一方でタイムパラドックスを指摘すればきりがない気がするのですが、この映画はテーマを語るために作られているのであって、そういう論理性は重視されていないのですね。中盤、ダイナーでジョセフ・ゴードン・レヴィットが「なんかおかしくね?」とパラドックスについて質問するも、ブルース・ウィリスが「んなことどうでもいいんだ!」と叱り飛ばすという笑えるシーンは恐らくその表明なのでしょう。

 で、そういう「テーマを語るために細かいタイムパラドックスは無視する」あるいは「時間を超えておれが世界を救っちゃう!細かいことは気にすんな!」というハリウッド映画の系譜があるなあ、と気づいたのでした。
 もとは町山智浩さんが2012年のベストに本作を挙げていて*1、町山さんが2011年のベスト3*2に『ミッション:8ミニッツ』を挙げていたことを思い出し、その二作の共通した雰囲気に思い至ったことがこのアイディアのきっかけです。
 他に思いついたのはトニー・スコットの『デジャヴ』、リチャード・ケリーの『ドニー・ダーコ』といったところ*3。『ジャケット』『バタフライ・エフェクト』や『オーロラの彼方へ』、『オフロでGO!』もこの系譜に入るのかもしれませんが未見です。
 『タイムマシン』『タイムライン』といった正統派タイムトラベルものとは異なり、これらの作品群は真正面から時間旅行を描きません。タイムトラベルの仕組みを曖昧にしたり、別の技術の副産物として描いたりしている。『ルーパー』にいたっては、タイムトラベル以外の大ネタも繰り出している。作り手にとって、時間旅行はあくまで描きたいテーマを強調するための手法なのです。
 それから、男主人公たちの動機や態度は内向的・感情的です。大きな組織や国家を代表して動くというよりは一匹狼的で、自分語りが激しく、神聖化されたヒロインのために犠牲を払う姿が描かれがち。
 と書くと非常にボンクラめいていまして、じっさい実にボンクラな映画が多いのですが、しかし同時にそこにはある種の切実さがある。ネット上の評なんかを眺めると、「面白いけど破綻してんだろww」みたいな意見が散見されますが、少なくともぼくは彼らの物語を笑い飛ばすことができない。
 こういうタイプの物語って、82年生まれの日本人男であるわたくしにとっちゃ大層馴染みのあるものなんです。

 「時間を遡って正しい選択肢を探していく」「ボンクラだが切実な動機を抱えた主人公が自ら語る」といえば、これはもう90年代に隆盛を迎えたギャルゲーでありエロゲーなんですよ。アホな男のための願望充足型フィクション。『ルーパー』なんて、ほら、各ルートごとにヒロインが設置されてるじゃないですか。ギャルゲーにおいてひとりのヒロインしか選択できないとしたら、と想像すれば、中盤のブルース・ウィリスの哀しみと暴走もじゅうぶん納得できるというもの。
 とはいえリチャード・ケリーライアン・ジョンソンがギャルゲーに親しんでいるとは思えないのでもちろんこれは偶然なのでしょうが*4、でもそうやって似た手触りの物語が全然違うところ・違う時間で系統として生まれてきているのは面白いなあと思います。
 映画史上で考えるなら当然『素晴らしき哉、人生!』『恋はデジャヴ』の流れということになるのでしょうが*5、テロや災厄を防ぐことがクライマックスにすえられたこれらの映画の背景にはどう考えたって世界の警察たるアメリカの自意識、そして911以降の傷と反省がある*6。それを踏まえると、やっぱり「暴力でさんざ楽しい思いしといて(侵略しといて)何嘆いてるんじゃボケ」と叱り倒したくなりつつも、その痛みと救済への渇望を切実に訴えるさまにきゅんとせざるをえないのだよなー。

 というわけで、結局『ルーパー』ってどうだったのと訊かれると、「心情的にはわかるし一晩一緒に飲んでもいいがずっとお前と一緒にいるわけにはいかんよ*7」という印象でした。年間ベストには入れるかもしれないけど5位以下、という印象。めっぽう面白い映画であることは確か。

 ちょっと話を戻して蛇足めいた付け加えをしますと、この手のタイムトラベルものの系譜に来年"X-MEN: Days of Future Past"と"All You Need is Kill"が加わるのかなーと思っています。
 後者は日本の代表的ループものが原作なのでこれは成功すれば画期的一作になるのでしょうが、ダグ・リーマンといいブライアン・シンガーといい、どうもある種の切実さに欠ける映画ばかり作っている印象が強いので大いに心配です。後者はトム・クルーズ力によってどうにでもできるだろうし、ブライアン・シンガーだって『スーパーマン・リターンズ』で911を止めようとした男*8ですから、絶望的じゃあないのですが。

*1:TBSラジオ「たまむすび」2012年http://www.tbsradio.jp/tama954/2012/12/1225-2.html

*2:http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20111217

*3:ジェイク・ギレンホールが『ドニー・ダーコ』『ミッション:8ミニッツ』の二つに出演しているのが興味深いですね。

*4:更に断っておくと、ウィキペディアなんかでギャルゲー&ループゲーの代表作として挙げられるような諸作のほとんどにぼくは親しんでいません。でも作品の構造(限られた時間を何度も繰り返す)だけを厳格に当てはめればすべての普通のギャルゲーはまた同時にループゲームなんだよ、ということで許してください。

*5:あとそこに、「1.閉鎖空間(狭いジャンル映画)で繰り返される物語(定番のプロット)、という業界内ループが繰り返されたジャンル映画の隆盛後の世代のループ&引用を愛好するリミックス/ヒップホップマインド」、「2.『メメント』等の主観&時間軸操作系映画のはやり」なんかも影響してるんでしょう。すげーざっくりと定義立てしててすみません。

*6:その文脈では、映画のルックやディストピア感が『トゥモロー・ワールド』や『レポゼッション・メン』に繋がる感じもしましたね。

*7:じゃあどんな映画ならいいのといえばこれは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作でしかありえません。オタク的自意識に必要以上に深入りすることなく、その心に永遠に突き刺さる娯楽映画を作ってしまったゼメキスは本当に偉大であったのです。

*8:中盤の飛行機事故のくだり。あそこすごく好きなんだよー。『ワルキューレ』だって、タランティーノみたいに本当にヒトラー殺しちゃえばよかったんだよ!