19世紀後半、強盗を繰り返し名を馳せたアメリカの無法者ジェシー・ジェームズが、仲間の裏切りによって暗殺されるまでを描く。
『ジャッキー・コーガン』予習のため観ました。
これを映画館で観なかったのは本当に惜しい。とかく、隅から隅まで映像と音がすばらしいのです。冒頭の列車強盗のシーンは繰り返し観てしまいました。暗闇のなかに浮き上がる男たちの姿、遠くから近づいてくる列車の重低音、ブレーキをかけ飛び散る火花。夜露で濡れた艶っぽさと荒々しさ。
撮影のロジャー・ディーキンスはどんな映画でも毎回素晴らしい映像を撮っていますが、でもやはり、こういうセンチメンタルで歪んだセクシーさをもつ映画にこそ起用されてほしい才能だなあと思います。
そういうすばらしい外観でもって、訥々と語られるのは、裏切り者の物語です。邦題では略されていますが、原題は「裏切り者ロバート・フォードによるジェシー・ジェームズ暗殺」なんですね。
義賊として英雄視されているジェシー・ジェームズ(ブラッド・ピット)の一団に、彼に憧れる若者ボブ(ケイシー・アフレック)がやってくる。新聞や絵物語を通して夢想していた列車強盗の準備の現場で、憧れの存在に出会えたこの若者の、あまりも不器用な振る舞いが痛々しい。あからさまにはしゃいでいるのに、自分の興奮を素直には出さず冷静を装う。受け入れられ、活躍したいという願いと、能力や度量の乖離。
徐々にジェシーたちに受け入れられるも、ジェシー自身の人間不信や、強盗団内の軋轢にもまれ、やがてボブは裏切りの道に足を踏み入れます。
その動機は、ジェシーへの愛情が反転した憎しみだけではなく、世間の注目を集めたいという実にこずるいものです。これまたなんとも痛々しい。暗殺前から早々と、自分が大立者になったと勘違いして警察関係のパーティに乗り込んでいく場面なんて、痛くて笑っちゃいました。
ケイシー・アフレックは、ともすればすべて喜劇になってしまうこのあたりの痛さや青さを、暗殺者の重みを失わないままに鮮やかに演じています。
また、夢見てばかりのボンクラであるロバートの物語から、必要以上の自意識や感傷を削いでいるのは、ブラッド・ピットの迫力ある演技でもあります。
ギャレット・ディラハント演じる強盗団の一員エドの裏切りを疑い、ゆるゆると追い詰めていく会話シーンの彼の表情には震えました。ブラピってあんなに恐ろしい目ができるんですねえ。
彼をはじめとする、男たちの色気や凄みを際立たせていたのが、西部劇なのにクール極まりない黒と白を中心とした衣装デザインです。
中盤から後半にかけ、裏切り者を探して各地をさまようブラピが着ている黒い毛皮のもこもことした上着が、不吉なカラスのようなぬめっとした黒で、そのシルエットが画面に映ると、疑われている強盗団員と同じようにぞくっとしてしまいました。
気になったのは、ナレーションの多用です。
史実を淡々とレポートしていくという意味では非常に効果的でしたが、ボブが後年「暗殺を悔いていた」と説明してしまうくだりには首をかしげざるを得ませんでした。
彼が心を開いた存在としてちらりと登場するダンサー役に、せっかくズーイー・デシャネルを起用しているんだから、二人のやりとりで「悔いている」心情をみせればいいのに!
そのナレーションの不備が、一方では、外からの評価と彼自身の本質がどうしても一致しない彼の虚しさ、計り知れなさを表してもいておもしろいのだけれど。
そういう不備もあってか、最後に鮮烈に印象に残ったのは、ケイシー・アフレックではなく、その兄チャーリーを演じるサム・ロックウェルのほう。人のいい腑抜けに見えるけれど、弟と二人きりになったときの抜け目ない表情にぞくっときていたうえ、最後に「舞台」のうえで見せる姿が実にすばらしい。
彼だけでなく、ジェレミー・レナーやらサム・シェパードやら、脇役の男どもが豪華なのですが、それが無駄遣いにならずそれぞれに深い印象を残すのもたのしい。色男のポール・シュナイダーもよかったなあ。
総じて、前評判通りのみごたえある映画であり、繰り返しになるけれど本当に映画館で観ときゃよかったよ自分のばか、と思いました。『ジャッキー・コーガン』が楽しみです。
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