こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

変態仮面のことは好きになったよ!『HK 変態仮面』


 原作は未読ですが、リアルタイムで連載を読んでいたという妻から「それはわたしのおいなりさんだ!」あたりの基礎知識はまえまえから聞いていました。

 まず冒頭の、MARVEL映画&ライミ版『スパイダーマン』オープニングの完コピで笑わされかつ心を掴まれました。このネタをこのくらいの質でやってくれるなら、あと二時間きっちり付きあおうじゃない、と思っちゃう。
 で、以後、『スパイダーマン』にオマージュを示しつつ、「変態がパンツをかぶるとスーパーヒーローになれる」という本作のキモをまっとうに追求していく堂々たるヒーロー譚が語られます。
 外見はすさまじくばかばかしいわけですが、『スパイダーマン』や『キック・アス』ばりのヒーロー語りが、決して単なるコピーではなくこの変態仮面でしか語れない筋でもって示されるんだから、これはすごいことだと思う。さらに、最終決戦中に失われた力を取り戻すときの展開では、他のスーパーヒーローでは達しにくいヒーローの核心みたいなものにさえ触れてしまいます。
 ヒーローは誰も助けられない。だからこそヒーローになろうとする。ヒーローは変態だからこそ、自己愛と無力さの塊だからこそヒーローになれる…。半分くらいは無意識に触れちゃったという感じがしましたが、この展開はなかなかにフレッシュな感覚でした。

 とはいえヒーロー自身はパンツをかぶった変態野郎なわけで、どんなにヒーローを語ろうが十中八九大やけどに終わりそうなもんですが、演技も演出もなかなかにがんばっていて、映画としてそれなりの説得力を獲得しちゃってるんですね。
 変態仮面役の鈴木亮平、ヒロイン役の清水富美加のふたりは、本人たちはマジメだけど大バカで、だからこそ観客にとっちゃ笑えるし魅力的、というキャラクターを見事に演じています。『仮面ライダーフォーゼ』でもそのわけわからん勢いが画面から放射されていた清水富美加は、いややっぱりこれは天然というか、あんまり考えてない感じがしていてこれを女優として良きしごとだとは到底言えないんだけど、でも、すごく魅力あるしかわいいです。屈せざるを得ない。
 もう一人素晴らしかったのは安田顕で、中盤で変態仮面を論破するくだりの長さをもたせ、強敵としての存在感を最後まで失わず、これまた見事な演技でした。『スパイダーマン3』のサンドマン程度には印象深い悪役でしたよ!(ほめてます)

 こういう、画面に彼らが写っているだけで嬉しくなってしまう人たちがいるいっぽう、ムロツヨシ佐藤二朗が演じた悪役は、それまで抱いていた熱が一気に冷めちゃう小手先演出でした。過剰なおどけみたいなもので悪役を成立させようったって、それ、トミー・リー・ジョーンズとかジム・キャリーとか*1クリストフ・ヴァルツとか*2がやったってギリギリ寒くないかどうか、という方向なんだから。やめようよ。
 ついでに酷かったことをもうふたつ。
 まずは、学校に次々送られてくる刺客のひとり、「男気仮面」の正体。連載当時の二十年前ならともかく、いまあれを「変態」と同列に見せちゃうのはどうか。エピソードとして落とし前がつけられるでもなく、その乱暴な扱いは「この人達ほんとうに「変態」について真面目に考えているのだろうか…」と不信感を抱きかねないもの。単に登場させなきゃよかったわけで、何考えてんのかなあ。考えてないのかなあ。
 さらに、最後の強敵のくだりは本当になんでこんな愚かしいことをやっちゃうのかね、と呆れました。普通の重機でいいじゃん。予算も技術力も限られているだろうに、なぜあんな無謀なものを登場させてしまうのか。それに対峙する鈴木亮平の熱のこもった演技をおとしめる、愚行としか言えません。サイテー。
 ま、その後の、変態仮面とヒロインのいつもの日常をさくっと見せて終わる手つきと楽しいエンディングのおかげで、映画自体の印象は悪くならずに済むところが救いです。

 そういうわけで、ところどころでふいに姿をみせるセンスの悪さにヒヤヒヤし、つい罵倒したくなるんですが、全体としてはまっとうに楽しいヒーローアクションであり、おおむね楽しみました。ヒットしているだけはある、力のこもったいい映画と言えましょう。時間のあるヒーロー好きは観に行って損しないと思います。

*1:バットマン・フォーエバー』

*2:グリーン・ホーネット