こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

三十路男の魔法『マジック・マイク』

 チャニング・テイタムの実体験をもとにした、夢みる男の物語。
 そういうあらすじはわかっていたはずなのですが、キラキラした宣伝と、肉体美ひゃっほー、マシュー・マコノヒーひゃっほー、といったTLの印象に気を取られてすっかり忘れていました。なのでなんだかものすごく不意打ちで心に沁みている。

 映画の中盤で、ストリッパーとその友人たちみんなで、ボートに乗って「中洲」*1にパーティしに行くくだりがあります。ここの空気感がすばらしい。早朝に叩き起こされ無理やり連れて来られた新米ストリッパーの姉ブルックが、気乗りしないけど、でもほんのちょっとだけ楽しいかも、という表情でたたずんでいる。その視線の先、ボートの舳先のほうではしゃぐストリッパーと恋人たち。ぼくはここで少しうるっと来てしまいました。
 バックで流れるCloud Controlの"Just for Now"の選曲の妙もあったろうし、ブルックを演じるコディ・ホーンの、つねにちょっと場になじまない感じもうまかった。
 このあたりで、おやこれはあんまりギラギラしていない映画だぞ、ということがわかりました。というか、主人公マイクの生活は確かに華やかだし、彼本人もその華やかさを楽しんではいるのですが、しかしそこに馴染みきることはできないでいます。

 では物語は彼がストリッパー業から身を引き、違う分野で成功をおさめるほうへ展開していくのかというと、必ずしもそうではありません。成功の萌芽は描かれるし、そもそも観客はチャニング・テイタムがその後俳優として大成功した現実を知っているわけだけれども、映画はそこを全く描かない。彼が仕事を辞めたところで幕が下りるのです。
 マイクだけでなく、新米ストリッパーのキッドや店のオーナー・ダラスのその後もほとんど描かれません*2。描かれるのは、彼らが新しい一歩を踏み出したところまで。娯楽映画としてはやや物足りない気もします。
 でもこの感じ、人生というものはあやふやで流れ続けるものだという感覚が、30歳の男が人生に迷う映画にはちょうどぴったり合っていたと思います。

 女性たちにキャーキャー言われるマイクはぼくとはかけ離れた人間ですけど、その迷う姿はずいぶん身近な雰囲気です。人懐っこいチャニング・テイタムの「隣の兄ちゃん」的魅力、そして明後日31歳になるぼく自身の境遇がそう感じさせたのでしょう。

 あとこれは勝手な思い込みですけど、最後のシーンでキスをされたとき、マイクの片足は、きっとディズニーヒロインのようにぴょこりと持ち上がっていたと思っています。そういう意味の"magic"。
 そういう思い込みをしちゃう塩梅の、きらめきと切なさが入り混じった映画でした。好き。

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*1:映画の舞台となる港湾都市タンパの沖、湾内の浅瀬みたいなところでしょうか

*2:けれどもストリッパーたちがその後も楽しくやっているだろうことを、エンディングクレジットの最後の最後で、ダラスことマシュー・マコノヒーのナイスな歌でばっちり描いてくれたのは、彼の好演にふさわしい嬉しいおまけでした。