こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

11月に読んだ本

11/22/63 下11/22/63 下感想
それまでの長大さに比して、あまりにもあっさりとした幕引き!うまいなあ。余韻が、イン・ザ・ムードのメロディが、読者のなかにはしばらく残る。
読了日:11月2日 著者:スティーヴンキング


ここは退屈迎えに来てここは退屈迎えに来て感想
『地方都市のタラ・リピンスキー』に泣いた。/妄想語りがクライマックスを構築する数編の、開き直りぶりというか、いやそういう語りこそが小説ってもんにおいては「本当」なんじゃい、という雰囲気にグッとくる。しかし当事者じゃない、東京まで二時間のところに生まれた男であるところのぼくとはまったくレベルの違う重さと恐ろしさが、地方出身者の読者にはもたらされるようで、そう簡単に人にすすめていい本じゃねえなと思った。
読了日:11月4日 著者:山内マリコ


シュヴァルツェスマーケン Requiem -願い- #2 (ファミ通文庫)シュヴァルツェスマーケン Requiem -願い- #2 (ファミ通文庫)感想
本編の副登場人物たちが、いかにしてそれぞれの信念を抱くに至ったかを描く短編集。前回の短編集もよかったけれども、今回は特にリィズを主人公とした『どうか、あの幸せな日々を』がすさまじい。「君は、誰のためでもなく、君のためだけに生きてもいいんだ」という言葉の恐ろしさ!/とはいえ、これと全く同じロジックで正反対の地点にたどり着くファムを描く『笑顔の価値は』がその次に配置されているおかげで、読者はわずかながら希望を抱くことができる。本編の勢いをブーストする、ファン必読の一冊。
読了日:11月6日 著者:吉宗鋼紀,内田弘樹


友だちの作り方 (HJ文庫)友だちの作り方 (HJ文庫)感想
小説だけに可能な巧みな構成で、「地味な子が実は..」ものの抱える問題を乗り越え、読み手に「友だちの作り方」を驚くほど素直に伝える傑作。まだ版元在庫があるうちに言うのもなんですけど、青い鳥文庫とかで再刊すればええやないか!
読了日:11月7日 著者:愛洲かりみ


虫眼とアニ眼 (新潮文庫)虫眼とアニ眼 (新潮文庫)感想
ジブリ美術館訪問前後に読むと、宮崎駿の理想とするところがよく理解でき楽しい。2002年の本だけれども、イラストの隅に書かれた「震災を待ってるのか」という言葉にどきりとした。
読了日:11月8日 著者:養老孟司,宮崎駿


想像ラジオ想像ラジオ感想
小説というしろものが抱える身勝手さと愛おしさを、笑いと悲しみをもって突きつけてくれる。あるいはこの人の過去の仕事を知らないままならば反発したかもしれないけれども、その語りの芸の背景を多少知っているものとしては、積み重ねられた思索と試行と声がばっちり聞こえてくるから、愛さざるをえない。少なくともここには、この作品、この手法でしか近づけなかった問題が描かれていて、それだけでも評価されるべきと思った。/ていうかいまさら気づいたけど、これってクチロロの大傑作『Tonight』に直結してるな!
読了日:11月9日 著者:いとうせいこう


繁栄からこぼれ落ちたもうひとつのアメリカ―――果てしない貧困と闘う「ふつう」の人たちの30年の記録繁栄からこぼれ落ちたもうひとつのアメリカ―――果てしない貧困と闘う「ふつう」の人たちの30年の記録
読了日:11月17日 著者:デイル・マハリッジ,マイケル・ウィリアムソン


ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス No.1207)ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス No.1207)感想
仮想現実や、フィクショナルなもので現実を上書きし、分断された人たちのあいだに少しでも繋がりをつくれないか、とする結論は熱い。現代における人間関係、コミュニケーションの内外での色々な分析もさくさく紹介されていて非常に興味深かったです。
読了日:11月23日 著者:鈴木謙介


n次創作観光 アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性n次創作観光 アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性感想
すっげーラブリーな学術書。こんなラブリーでいいんだろうか。いいんだろうな。アニメの聖地巡礼ムーブメントが閉塞した社会をひらく、観光の可能性を示している――という大筋をかたる筆致はそりゃふつうの学術書で極めて「ちゃんと」している。でも、間に関係者からの著者へのコメントとか、編集と著者の座談会とかが挟まってて、それがラブリー!/鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ』や、東浩紀ほか『福島第一原発観光地化計画』なんかとあわせて読むのがおすすめ。
読了日:11月25日 著者:岡本健


冬の旅冬の旅感想
現世が地獄にも極楽にもなっていく、中身がない男の流浪譚。物語の冒頭は秋葉原通り魔事件の日とされており、また同事件からそのまま引用した主人公のエピソードがある。さらにそこにとどまらず、過去の様々な事件を包み込んでおり、普遍的な殺人者の物語にまでのぼりつめている。そうだ、きっとぼくらもこうやって転落していくのだ。/終盤手前の強盗致死事件の枠組みはおそらく高村薫『冷血』引用であって(あるいはカポーティ?)、そこから脱しきれていないのがもったいない。
読了日:11月30日 著者:辻原登