こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

『卒業白書』


 1983年作品。トム・クルーズ初の主演作にして、ゴールデン・グローブ賞主演男優賞にもノミネートした大出世作。
 映画序盤で、親が旅行に出かけた家で開放感を満喫するトムが、白ブリーフ姿で踊り狂うシーンが有名とのこと。『マグノリア』でもブリーフ姿でわーわー言ってましたが、これが元ネタなのかもしれない。
 元ネタといえば、映画終盤、窮地に陥ったトムがポン引きと電話で交渉するくだりは、なんと『アウトロー』中盤の電話シーンまんまでびっくりでした。「てめーブッ殺す!」→電話かけなおす→「やっぱ今のなし!」的な情けない電話ギャグ。もちろん本作ではトムが演じるのは平凡な高校生なので、脅すのではなく脅される側であります。
 トム演じるジョエルはそれなりに成績優秀ではあるのですが、基本的にぼんやりしていて、優柔不断で親の言いなりになってしまうタイプ。悪友の手引で出会った娼婦とサイコーな夜を過ごすものの、300ドルの借金を背負いこんだことから事態は雪だるま式に悪化していきます。当時20歳のトムクルはまだ少年っぽさがあって非常にチャーミングなんだけども、ちょっと頭が悪い感じもあって、そこが役に強い説得力を与えています。優等生的立場にあるんだけどバカで出口なし、というこの感じ、個人的に非常に強く共感してしまいました。すっげーよくわかる。
 それだけに、大きな失敗をやらかし、苦い経験をしながらも、うわべでは成功者への道をたどり始めてしまう物語の結末の妙にダークな雰囲気には驚きました。音楽や映像、語り方が非常に夜のオトナっぽく、青春映画ではあるけどノワール/クライム・サスペンス的な味わいすらある。この主人公、そのまま、『ウォール街』(87年)のゲッコーとか『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のジョーダン・ベルフォートみたいな男になっちゃうんじゃないか、という捨鉢な利己主義の片鱗すら感じちゃえるのだった。これが80年代の青春映画としてこれが異色だったのか、時代の空気だったのか…はなんとも言えませんが、しかしその寒々しさと甘さの同居は、正直いって心地いい。決して平凡な成長譚には収まりきらないところは、さすがトムクル初主演作といったところなのかもしれません。