こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

[映画]『レインマン』

 『カクテル』を隠れた名作と言いましたけど、じゃあ80年代のトム・クルーズの一本を選ぶとしたら? という問いにはこれを推したい。1988年の『レインマン』です。監督はバリー・レヴィンソン。ぼく、この人の『バンディッツ』が好きなんですよねえ。

 『レインマン』でトム・クルーズが演じるチャーリーは、車のセールスマン。ダスティン・ホフマン演じる自閉症の兄レイモンドが継いだ親の遺産を手に入れるため、彼とともに旅をすることになります。
 自閉症の兄を演じるダスティン・ホフマンの演技がまずは注目される映画でしょうが、弟のキャラクターもまた、トムのすばらしい演技と彼がそれまで確立したキャリア、セルフイメージなしには成立しえなかった困難な役柄です。実の兄をただの金づるとしてしか認識せず、しかしやがて徐々に徐々に彼と心を通わせていくチャーリー。彼は彼なりに愛情を示そうとしますが、しかしふたりの間には、そう簡単に乗り越えられないものが横たわっています。近づきながらも、絶えず乗り越えられない壁の高さを確認していく、喜びと哀しみが隣接した作業としての二人の旅。
 この映画が、たとえ自閉症という「特殊」な要素を抜きにしても、人が人を理解し、愛しあい、受け止めきるということは本当に難しいのだ(しかしそれでもそこには希望があるのだ)ということを、万人に開かれたかたちで示すことができたのは、チープさとスター性を併せ持つトム・クルーズが弟を演じたからこそ、です。

 80年代末を締めくくるにふさわしい、トムのこの十年間のキャリア総決算な傑作といえましょう。