こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

アキバは「あの街」に似ているのか? 凛ちゃんからみた世界を考えてみる

 だいぶ久々の更新になってしまいました。
 今日は、7月末くらいから考えていた、凛についての記事です。

 映画『ラブライブ!』において、テレビシリーズからの成長をもっとも感じさせるのは、一年生の星空凛ちゃんです。特に映画前半では、迷いはじめる穂乃果をよそに、次期リーダーにふさわしい活躍を見せてくれます。街で迷ったときは彼女の記憶力のおかげでことり・海未が助けられますし、トラブルに嘆く姿をみて「大げさにゃー」とつぶやく姿なんて、こちらが戸惑うくらいの落ち着きぶり。
 また、ミュージカルシーン一曲目の『Hello, 星を数えて』における彼女の輝きは素晴らしく、その魅力が本作のミュージカル映画としての印象を一段階引き上げていることは確実でしょう。
 まあ、日本に帰ってからの「ワタシハすくーるあいどるノシシャ!」とか、相変わらずアホっぽくもあるのですが。

 さて、そんな成長した姿を見せてくれる凛ですが、彼女がμ'sの訪れた街――おそらくはニューヨーク――を「アキバみたい」と言う台詞については、観る人によっては大きな突っ込みどころになっているようです。確かにぼくも初めて観たときはちょっと驚きました。さすがにそれは無理じゃないの、だって電気街と摩天楼ですよ、イメージ違いすぎだよ……と。

 でもですね、6月から8月にかけて繰り返し映画を観るうち、「凛ちゃんの言うこともわからないではないな」と思うようになってきました。

 きっかけは、TOHOシネマズ日本橋で『ラブライブ!』を観たことでした。
 最初にこの映画館に行ったのは6月28日のことでした。声出しOKな「応援上映」の回。
 夜の回に友人と待ち合わせて行ったのですけど、ふたりとも当地を訪れるのは初めてで、神田駅から、スマホグーグルマップを眺めながら「日本橋というとがぜん日本の中心という感じですね」「あっちに行けば東京駅ですから」「おやあれはなんと大きな建物」「ふむあれはマンダリンオリエンタルですね、ホテルでしょうか」とかなんとか、大都会東京の雰囲気に圧倒されながら、昭和のおのぼりさん風にてくてく歩いていたわけです。
 映画が終わったあと、二人で映画の素晴らしさを熱に浮かされたように語り合いながら神田駅へ戻っていくあいだも、視界を占める大きな建物と大きな通りはなかなかに印象的で、今考えるとちょっとだけニューヨークの摩天楼に圧倒されるμ'sたちの気分に自分たちを重ねていたような気もします。

 つぎに日本橋TOHOシネマズへでかけたのはそれから一ヶ月以上あと、8月1日のことでした。
 この日は昼間の上映を観たあと、映画館のすぐ近くから地下鉄にひと駅だけ乗り、神田駅で降りました。
 地下鉄で移動したので、街の印象が大きく変わるのも当然ではあるのですが、日本橋の「東京の真ん中」という賑やかできらびやかなイメージから、たったひと駅移動しただけで、神田駅構内の古めかしさに包まれて、少々驚きました。こんな近い距離に、これだけ雰囲気の違う街があるのか、という驚き。地下鉄神田駅は1931年に営業開始したそうで、暗く狭く湿った、いかにも地下鉄というたたずまいなのも当然のことなのかもしれません。
 そして、神田駅から地上に出てすこし歩けば、高坂穂乃果の実家のモデルとなった甘味処「竹むら」にたどり着くことができます。

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 竹むらのすぐ近くには、こんなお稲荷さんもあります。
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 アニメシリーズで穂むらの風景を見たときは「都会の真ん中に、こんな和菓子屋がありえるの?」と思っていたものですけど、本当にあるので驚きます。
 向かいにはあんこう鍋の料亭がこれまた古びたたたずまいを見せていたりする。

 竹むら界隈の、高層ビルと古い町並みの隣接ぶりは実に激しくて、御茶ノ水駅方面へ100m行くだけでワテラスという巨大な複合ビル*1がありますし、映画で穂乃果と女性シンガーが再会するJR神田万世橋ビルへは100mもありません。そしてそこを抜ければマーチエキュート神田万世橋*2、そして神田川

 神田川を挟んで南側から秋葉原の街を眺めたとき、ぼくは自分のそれまでの秋葉原観がとても狭いエリアの印象によるものだったのだと痛感しました。電気街の周りには、実にさまざまな風景が広がっている。
 「秋葉原」というとき、それは秋葉原駅を中心に電気街を指すことが一般的ではあります。だからその印象は間違いじゃない。でもその街で暮らす凛たちにとっては、おそらくそれは秋葉原の一部分なのです。
 凛たちが通う音ノ木坂学院はおそらく神田明神付近の高台にあるものと思われますが、そこと彼女たちの家、そして駅周辺の街、そういった各地点のあいだのエリアすべてが彼女たちにとっての「秋葉原」なのではないでしょうか。
 そしてそこには、一般的なイメージの「秋葉原」とは全く異なる「秋葉原」もある。
 ぼくはニューヨークに行ったことがないのでなんとも言えませんけど、そうやって秋葉原のイメージをより広くとらえたとき、意外と二つの街の共通点は多く浮かび上がってくるのではないか。

 例えば、TOHOシネマズ日本橋のあたりまで含めたエリアを「秋葉原」と言うのは難しいですけど、凛が友だちと映画を観に行く馴染みの場所として、TOHOシネマズ日本橋を「いつもの映画館」ととらえている可能性はなくはない。彼女のなかの「自分の街」の範囲がそこまで広いと仮定して、秋葉原駅をニューヨークのグランドセントラル駅*3に、そして日本橋〜東京駅に至るエリアをニューヨークのマンハッタン島南端、ウォール街のあたりと重ねあわせて考えてみれば、両者のイメージは重なってしまいそうにも思えます。むろん、これはかなり極端な仮定ですけれど。

 ほかにも、大都会のなかの古い宗教施設ってことで、神田明神ニコライ堂と、セントパトリック大聖堂とか…。

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 ともあれ、現実の二つの街の共通点*4をたくさん探して、凛の言葉を証明しようとは思いません。
 結局のところ、現実の秋葉原とニューヨークが似ているかどうかなんて本当はどうでもよく、アニメの中の凛が「似ている」と思えばそれでいいことではあるのです。なにしろ、映画のなかでは「ニューヨーク」という単語は一度も使われず、「あの街」「この街」としか表現されないのですから。

 ただ、「凛にとってこの場所はどう見えているのかな」と考えながら実際に街を歩くのは、とても楽しかったです。聖地巡礼には、ただ単にアニメのなかで表れた地点を名所めぐりのスタンプラリー的に巡るだけでなく、登場人物たちの思考や経験、世界の見方を自分の中でエミュレートしていく楽しさもあるのだ、ということを知れたのはとてもよかった。
 なにしろ、ぼくはμ'sたちの目を通して描かれた世界の輝きに、心を動かされてきたのですから。

こんなにも心がひとつになる
世界を見つけた喜び ともに歌おう

『僕たちはひとつの光』

 そういうわけで、『ラブライブ!』を観るならTOHOシネマズ日本橋で、聖地巡礼とあわせて観賞するのが超おすすめですよー!……というのがこの記事で一番言いたいことだったのですけど、もう季節はすっかりめぐり、上映は夏のあいだにとっくに終わっていたのでありました。いやはや。


秋葉原は今

秋葉原は今

↑今読んでいるところですが、江戸からきっちり歴史をたどると同時に、電気街形成のダイナミックで猥雑な雰囲気も活写されていて、むちゃくちゃ面白いです。なんで刊行当時にチェック漏れしてたんだろう。

『満天の「星空」が輝く街でこれからを考えよう ー劇場版ラブライブ!挿入歌『Hello,星を数えて』についてー』
ゆかしあたらし http://sasakirione.hatenablog.com/entry/2015/08/04/022002

↑都市論から歌詞まで縦横無尽な語りですごく面白いし泣ける、という実に素晴らしい『ラブライブ!』都市論。これを読んだので、ニューヨークと秋葉原を真面目に比較しなくてもいいなもう充分だ、という安らかな気持ちになれました。

*1:http://www.yasuda-re.co.jp/waterras/

*2:http://www.maach-ecute.jp/

*3:たぶんμ'sたちが宿泊していたホテルの最寄駅。ホテル自体はセントラルパークわきのプラザホテルもモデルにしているようですが。

*4:例えば、いずれの街も、ゼロ年代にとても大きな傷を負ったことだとか。