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こづかい三万円の日々

30代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

祝公開!『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- Cadenza』ファーストレビュー

映画 アニメ 蒼き鋼のアルペジオ

 映画/映像の歴史には、技術と題材が幸福な出会いをするタイミングがいくつもある。ここ最近でいえば、『ターミネーター2』や『ジュラシック・パーク』、『スパイダーマン』、『ロード・オブ・ザ・リング』といったあたりでしょうか。『蒼き鋼のアルペジオ』も、もしかしたらそういう幸福な出会いの一つに数えてもいいのかもしれません。
 全編セルルック3DCGで描かれた本作は、戦艦/潜水艦に搭載されたとおぼしき知性体が具体化した存在「メンタルモデル」の少女たちをめぐる戦いを描きます。人そっくりの姿でありながら、メンタルモデルたちは人ではない。それは、現実を模写しながらもまったく現実ではないアニメーションという表現、そしてその最新形であるセルルック3DCGアニメという表現のありようと重なります。2013年のテレビシリーズから映画二作品を通じて、物語のなかでメンタルモデルたちが徐々に豊かな心象や表情を獲得していくのと同時並行的に、『蒼き鋼のアルペジオ』の表現もまた豊かさを増していきました。

 とはいえ、完結編である本作『蒼き鋼のアルペジオ Cadenza』を観たあとのぼくの意識においては、そうした技術面の印象は実はあまり強くありません。ぼくはほとんどふつうのセルアニメーションと同じ感覚で、映画を観ていました。すでに本作のセルルック3DCGによる表現は、先鋭さで勝負していない。それはセルルック3DCGアニメが多数作られている外部の状況と、『アルペジオ』の表現が相当に洗練されているという内部の状況と、双方の変化の結果なのでしょう。
 そのうえで、時折、これまでの2Dアニメーションでは考えられないメカ描写やカメラワークなどによって、そうだ、これはセルルック3DCGだったのだ、とはっとさせられる。
 同様に、物語におけるメンタルモデルたちのありさまも、もはやふつうの少女と変わらないように思えるのだけれど、しばしば噴出するメンタルモデルゆえの葛藤や悲哀に、ぼくの心は不意打ちを受けるのでした。

 セルルック3DCGとメンタルモデルたちの変化に、もうひとつ、併走していた存在があります。本作のキャラクター(とそれを演じる声優)たちによるユニット「Trident」です。渕上舞沼倉愛美・山村響の三人は、最初はぎこちなく活動を開始したものの、やがてそれぞれのもつ圧倒的な歌唱力と表現力を発揮し、いまではワンマンライブをたびたび成功させるまでの人気者となりました*1
 セルルック3DCG、メンタルモデルたち、Trident。この三つが、あたかもTrident本来の語義である「三叉の矛」のように、同時に上昇曲線を描いていった幸福な作品、それが『蒼き鋼のアルペジオ』なのです。

 そうした作品を取り巻く状況は、物語の骨子にもゆるやかに関わっているように思えます。
 停滞し、個々が閉じこもった世界で、いかに他者と関わり、受け渡し、受け継いでいくのか。

 公開されたばかりで時期尚早だと思いますので、今回は物語の細部を語ることはしませんが、ひとつだけ。
 自らの行く末に葛藤するメンタルモデルの少女・イオナのガイド役となるのが、テレビシリーズでおなじみのある人物なのですが、彼女がイオナに語りかけるシーンにはぼろぼろ泣いてしまいました。彼女はイオナに語りかけながら、同時に今は亡き大切な存在に対しても語りかけている。かつて単一の価値観しか持たず、世界を一面的にしか見ることのできなかった彼女が、いまやそうした豊かな語り/感情を獲得したことの尊さと、喪われたものへの切実な思いが重層的に伝わってくる、短いながらも印象的な名シーンだったと思います。
 近年の日本の映画/アニメにおいては、人物の葛藤を描くために不格好に長い語り・討論が挿入され、映画の楽しさをトーンダウンさせてしまいがちですけど、こと『蒼き鋼のアルペジオ』の語り・説得の場面は例外である、と思います。脚本の上江洲誠の大きな功績ではないでしょうか*2

 原作、テレビシリーズ、そして映画前編と、これまでの経歴が長い作品ではあります。いきなり後編から観るとちょっと辛いところもあるかもしれない。
 でも、ぼく自身のこの作品とのファーストコンタクトは、映画前編『DC』を、会社帰りにぶらりと寄った映画館で観たときのことでした。その時点で持っていた情報といえば、『楽園追放』のまえにかかっていた予告編を、ぼんやり観たくらいのことでした。そして、そんなぼんやりした状態で観た『DC』は、とてもおもしろかった。
 できれば『DC』だけは予習として観たうえで、ぜひ映画館へぶらりと立ち寄ってみてください。おもしろいよ!

↑映画前編。なんならおれが貸してやるよ!


↑テレビも映画もいちおう観てるよ、という方はぜひこちらを。
渕上舞さんがスタッフに映画製作の舞台裏を聞いて回る動画シリーズです。
どれも10分程度ながら極めて興味深い内容ばかり。渕上さんのレポーター力もけっこうなものです。

*1:くわしくは「「不仲」だからこその輝き/Trident 1st Solo Live レポート」http://d.hatena.ne.jp/tegi/20150329/1427637603 あたりを参照くださいませ。

*2:9月26日の先行上映会で、上江洲誠さん自身が件のシーンから映画の最後までは、自分でしか書けなかった、日頃から自分の考えていることのこもった部分である、と仰っていました。