こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

終わりを受け止めるということ/「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」Character Songs LIVE “Blue Field”〜Finale〜ライブレポート

 2015年12月19日、会場はよこすか芸術劇場

 ライブの帰り道って、みんな何聴いて帰ってるんでしょうか。ぼくはたいてい、全然ライブに関係ない曲しか聴けないです。ライブを思い出しちゃうから。ライブ音源が手元にない限り、そのライブで歌われた曲のCD音源を聴いても、「今日のあの音はもう二度と聴けないんだ」って切なくなるだけじゃないですか。
 今日の帰途はずっと、カニエ・ウェストの昔のしんみりした曲を聴いていました。

 今日のライブが終わったあと、まずは、ライブ前に夕飯を食べたどぶ板食堂Perryに戻って、ビールを一杯飲みました。9月のTridentのライブ後も、品川ステラボールのドリンクカウンターで買った缶ビールを、会場近くの路地で一人で飲んでいました。あの頃、自分がこんな気持ちになるとは思ってなかったなあ。
 要はすっかり油断していたのです。
 今日のライブで興津和幸さんが仰っていたように、なんか続くんでしょ?終わんないんでしょ?って思っていた。何の根拠も、具体的予測もなかったのに。

 ライブはとても楽しかったです!全部で三時間はあったんでしょうか。あっという間でした。
 トップバッターはまさかのBlue Steels。前座とか茶化してましたけど、これまでのTridentのライブでの盛り上げぶりからすれば納得の打順です。実際、超盛り上がっていたし。
 ぐっと来たのは、彼らが登場するまえ、ライブ冒頭の演出。群像(興津和幸)が、霧の艦隊と人類との交流を促すべくライブを開催するぞ!という口上を述べるのです。いわば、今日のライブ自体が、劇場版後編『Cadenza』の後日譚になっていく。ライブ中には、3DCGアニメで描かれた各キャラクターたちの『Cadenza』後の様子がバックスクリーンに投影されていました。『Cadenza』という映画自体、登場人物のその後を豊かに想像させるオープンエンドでしたが、今日のライブはより一層、『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』という物語を「開く」ことに成功していたように思います。

 Blue Steelsにつづいては、401クルー女性陣のお二人(津田美波東山奈央)、刑部家の三人(原紗友里内山夕実、山村響)、ヒュウガ&タカオ(藤田咲沼倉愛美)が順に登場。ぼくの特に好きなキャラソン群を連打される流れで、とても楽しかったです。
 前半のベストアクトは、藤田さんの歌詞飛びあるいはマイクトラブル?もありながらも、二人の声質の相性の良さが特に特に際立っていた藤田さんと沼倉さんの『Ray of Hope』かな。
 津田さんと東山さんは、ライブパフォーマンスはもちろんですが、トークや後半のあいさつ時の雰囲気が魅力的でした。津田さんは、ちょっと話の方向が定まらなかったから「ぽんこつ」と卑下してましたけど、個人的にはああいう話をする役者さんっていいなあ、と思います。そういう、論理で言葉にできないなにかを、演技や歌でこちらに垣間見せてくれるのが役者さんなので。あのとき笑った客席の人たちはちょっと反省してほしいですよまったく!

 中盤には、シークレットゲストとしてナノさんが登場。これまた盛り上がりました。CD買ってないことがバレますが、歌詞を覚えていなくて、盛り上がりたいサビなんかを一緒に歌えなかったことが実に悔しいです。反省。
 テレビ版OP・『D.C.』EDのあと、『Cadenza』の映像とともに歌いあげられた劇中挿入歌には、場内が聴き入っていた印象でした。改めて『Cadenza』クライマックスの映像の力を思い知ったし、ナノさんの歌唱力、そして曲のよさを強く感じました。

 なお、シークレットゲストはナノさんのみで、個人的に超期待していたコンゴウ様(ゆかな)とマヤ(MAKO)が登場しなかったのは残念でした。うーむ。
 登場できなかったけど登場した、のがヤマト(中原麻衣)で、映像のヤマト・録音の中原麻衣さんの声にあわせて、渕上舞さんがイオナとして歌うという演出でした。キャラクターの設定上、イオナはヤマトと同時にいられないキャラクターでもあるわけで、聴くものにそんなことを考えさせるという意味では、中原さんの不在を逆に活かしたとも言えるでしょう。

 霧の生徒会(M・A・O、福原綾香三森すずこ佐藤聡美五十嵐裕美)は持ち歌が一曲しかないにも関わらず、なかなかの存在感だったと思います。キャラが立った5人なので、観ているだけでたのしい。水中でのしゃべりを生で再現した三森さんのユーモラスな自己紹介や、随所で恐縮する低姿勢な人物ながらもヒエイとしての声はばっちりかっこよく決めていくM・A・Oさんが特に印象的でした。

 そして最後はTrident。
 渕上舞さんが最後のあいさつで口にしていたように、一言一言大切に歌っていることがわかるパフォーマンスでした。あいさつ聞く前から、「渕上さん、すごく丁寧に歌っているぞ…!」と思っていたので、あいさつ時には「やっぱり!」と嬉しくなりました。三人のチームワークも自然に安定していて、3月のファーストライブ時はあった、固さもまったく感じられなかった。

 ……なので、それがずっと続くと思いたくなっちゃうわけです。
 わけですけど、そうはいかない。ライブ終演後、来年4月のライブをもってTridentが解散することが発表されました。

 東山奈央さんが、終演時のあいさつでこんなことを言っていました。

みなさんは、『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』が放映された二年前、自分が何をしていたか覚えていますが? 二年経った今も、同じ一つの作品が存在して、みんなで楽しんで、それって凄くないですか?*1

 ぼくが『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』、そしてTridentを明確に認識したのは、まだ一年も経たないつい最近のことです。だから、今自分が抱いている寂しさや感慨は、テレビ放送当時から追いかけてきた人に比べればまだ小さいのだと思います。でも寂しいし辛い。

 よき物語は時として、人の人生と併走してくれることがあります。東山さんが言った通り、『蒼き鋼のアルペジオ』も、Tridentも、この二年の間、ファンと併走してきた。物語の中身自体に感銘を受けたり慰めを得たりすることもあれば、作品が作られていく舞台裏に魅せられて、励まされることもある。
 『蒼き鋼のアルペジオ』が完結する、あるいはTridentが解散する。それは、ファンが、自分の人生を乗り切る励みとするなにかを一つ失うことにほかなりません。
 だから、寂しいし辛い。
 大切な誰かが、自分を駅のホームに残して、次の駅へ去っていってしまうような感覚。

 ライブが終わったあと、しばらく、4階バルコニーの自分の席でぼうっとして、誰もいないステージや、人のはけていく客席を眺めていました。もう今日のみんなが集まるライブはないんだ、と強く思いながら。
 終わってしまうこと、もうその人やものに再会できないことは、辛い。『Cadenza』でイオナが思い悩んだのも、そういうことです。けれども、コンゴウは「私が覚えているから大丈夫だ」と彼女を送り出した。
 ぼくはコンゴウのように、強くTridentたちを送り出すことはできそうにありません。そうありたいけれど。

 帰り道、家が近くなってようやく、ケータイの音楽プレイヤーを操作して、カニエを止めました。やっぱりTridentを聴くのは辛かったので、山村響さんのhibiku名義のオリジナル曲『Love is Simple』を聴きながら、最寄り駅から家までの暗い道を歩きました。
 久々に聴くせいか、もともと好きな曲ですけど、一層心が動かされて、「ま、Tridentが終わったら、山村さんを応援していこうや」ってな具合に、ちょっとだけ、気が楽になりました。ちょっとだけ。

 誰かに置いていかれるのがいやなら、笑顔でがんばって前へ向かうしかないんですよね、まったく。

*1:うろ覚えです。すみません。