こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

2015年の映画ベスト10

 昨年は合計56回映画館で映画を観ました。うち9回は同じ映画の再見*1。また現時点で『スターウォーズ フォースの覚醒』『劇場版ガールズ&パンツァー』『クリード』と多くの人が年間ベストワンに選びそうなものを観ていない状況です。
 母数をもっと増やすべきだし、前述の話題作を観てから考えるべき――とちょっとは思うわけですけど、たいへん偏ったベスト10なので、あんまり影響がない気もする。なので元旦にえいやっと選んでしまいました。以下、10位から発表。

 

第10位『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

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 映画の完成度としては、10本中ぶっちぎりのベストなのではという気がします。倫理的なこと、映画の技術、シリーズの蓄積、ジャンル映画の規律、そういった色々なものを背負って生真面目に綺麗に一本背負いをキメているジョージ・ミラーは本当にすごい。
 

 第9位『セッション』 

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 鑑賞中の興奮度ではマッドマックスを超えていたかもしれない。人間の得体の知れなさ、それと何の不具合もなく同居する底の浅さを見せつけられて死にそうになるんですけど、最後の最後にむちゃくちゃ気持ちいい時間がやってくる。J・K・シモンズはぶん殴られて地獄に落ちるべきなんだけど、それを生かしておいて音楽で叩きのめす。そんな映画/芸術でしかできない復讐を成し遂げつつも、現実的にはなんの解決もしていないかもしれないし、むしろ主人公もまた常人は踏み込んではいけない地獄へ足を踏み入れてしまっている……ということも示しているあたりが好きです。

 

第8位『バードマン』

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 憧れの作家からもらったメモを後生大事に取っておく(けどあっさり無くしてしまう)主人公の姿に泣いた。十代のころに見てしまった夢はどんなにバカにされても、自分でもばかばかしいと思っていても、止められない。くそくだらない中年男のそういう心理を、ああいう低い温度で描いてくれたことに礼を言いたい。映像も音楽も超かっこいいのに、主人公はきちんとかっこわるいのが偉い。

 

第7位『フォックスキャッチャー』

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 冒頭、鏡を見ながら自分を殴打するチャニング・テイタムに泣いた……ってまあ泣いてばかりですが。遠慮なく殴り合えるはずの友人と出会っているのに、嫌われたくない恐怖や自己愛のせいでまっとうに殴り合えない男たちの悲しさと滑稽さといったら。一人になったチャニング・テイタムが、誰かと戦い続けていることを描いて、たとえ地獄であっても戦い続けることができるはずだ、と小さくも力強く希望を示して終えるところも好きです。

 

第6位『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』

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 トム・クルーズは自己言及の多い俳優です。自分を彷彿とさせる役や物語をよく演じるし、自分の演じる役に、その鏡像となるような人物と対決させることが多い。本作でも、主人公イーサン・ハントと仲間たちは、元スパイの男が率いる悪の組織と戦うことになる。けれども、トムの姿には(『フォックスキャッチャー』ほかのような)自分と殴りあうような悲惨さ、あるいはそれが裏返った自己愛みたいなものは見えない。そういうところにぼくは惹かれるんだろうなと思います。そんなトムのヒーロー性と、イーサン・ハント的スパイの挟持の双方をあざやかに示したクライマックスがすばらしい。

 

 ここでついでに2015年のスパイフィクションベストもざっくり。
1.欠番
2.『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(クリストファー・マッカリー
3.『クロニクル』(リチャード・ハウス、武藤陽生・濱野大道訳)
4.『ジョーカー・ゲーム

 一位は『メタルギアソリッドV』がランクインするはずなのですが、まだプレイできていないので欠番。三位は四部作の半分も読めてないんですけど、一作目からしてもうル・カレを超えた面倒くさい読み口がたまらんです。そのうちドラマ化するんじゃないかなあ。4位、大量のビッグタイトルが公開されたスパイ映画年だった今年、MI以外で一番スパイフィクション愛好家以外に広く届く楽しさをもっていたのは意外とこの映画だったのではないか。
 別サイト*2の更新がすっかり滞りがちですが、近々早川書房から『冒険・スパイ小説ハンドブック』の改訂版が刊行されればこのサイトの役目は概ね終わるのでこのまま放置するつもりです。

 

第5位『黄金のアデーレ 名画の帰還』

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 ヘレン・ハント様最高ですよひゃっほー、とはしゃぎつつ、すぐに揺らいでしまう老いた人としての演技もよくって、元気をもらいつつ始終しみじみ泣かされたのでした。失ったものを取り戻すとはどういうことか、そしてそれがいかに困難なことか。奪う者たちも人として描きつつ、立てるべきときには毅然と中指を立てる、凛とした佇まいの映画でした。人間、間違ったことをしたときには素直に謝りましょう。

 

第4位『PAN ネバーランド、夢のはじまり』

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 今年の秋にけっこう手痛い失敗をしまして、後悔に苛まれて自分をぶん殴る毎日を過ごしているなか、ぼんやり観に行ったら見事にぐっさり刺さってしまったのでした。詳しくは当時書いた記事*3にて。今はそこそこ回復したので観直したらどう思うかわかりません。

 

第3位『プリデスティネーション』

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 自分のことが嫌いになったり愛おしかったり忙しいなお前!じゃあこれでも観てろよ、一本で済んでお得だぜ!とばかりに愉快なジャンル映画作家スピエリッグ兄弟が投げつけてきてくれたウルトラ豪速球。受け止めきれずに死にました。
 先日、古書市でぼんやり本を漁ったら、原作を論じた文章*4に行き当たって「ファッ」みたいな変な声が出ました。
 たぶん当分見返さないけどこれはおれの映画...とすごくためらいながら思う。

 

第2位『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』劇場版二部作

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 フル3DCGアニメの技術的達成が、脚本・演出陣の手堅い仕事、出演者たちの技巧と情熱、そしてキャラクターソング/アーティストの人気などに隠れてほぼまったく見えなかったことこそが凄い歴史的一作。フル3DCGとかまあ今時普通じゃん?問題は何をどう物語るかじゃん?という、個人的に好きなタイプの作り手のドヤ顔が垣間見える映画でありました。
 物語の終盤は、いかに他者と健康的に殴り合いをするか、という話になっていて、困難なコミュニケーションを達成しようとするファーストコンタクトSFは、同時にセカイ系的な心の物語にもなるのだなあ、という認識をあらたにしました。青臭いけれども、諦めずにコミュニケートを試みる主人公たちの姿を見習いたいです。

 

第1位『ラブライブ! The School Idol Movie』

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 で、そういう、生きる指針として観たときにも、娯楽映画として観たときにも、ひとつの芸術作品として観たときにも、はたまた映画館の外へ出たあとも、すべての点で規格外の感動を与えてくれたのがこの映画でありました。
 人間の跳躍が、場所も時間も越えてゆくさまを描出した演出・構成はほんとうに美しかった。散々ブログに記事を書いてきたけれども、この映画のそういう面はぜんぜん伝えきれていないと思うのであらためて強く言っておきたいです。

 

 2015年は日本のアニメにずいぶんずぶずぶとはまった一年でした。
 関連して、ライブや聖地巡礼、即売会といった「いま、このとき、この場所」を最優先にする娯楽の場に出かけることが増えました。よかったことも悪かったこともたくさんあった。
 そのぶん、映画館へ、単純に一本の映画を観るためだけに出かけることは減ってしまった。
 反省したいこと、やり残したことも多いけれども、引き続き、短期的に希望せず、長期的に絶望せず、の日野啓三リスペクトな姿勢でもって日々を生きていきたいと思います。