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こづかい三万円の日々

30代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

もう三角形はみえない/Trident ラストライブ 「Thank you for your "BLUE"」レポート

蒼き鋼のアルペジオ

www.hmv.co.jp

 

 他人を理解するのは難しい。
 片目をつぶってものを見ると遠近感が失われてしまうように、一人だけで他人と向き合っていても、お互いの心の距離や、相手の感情の細部がつかめない。
 二人だけではなくて、三人いれば事情が変わる。A地点までの距離を、BとCから見たときの角度の違いをつかって正確に測る三角測量法のように、Aさんのことを、Bさんと、Cすなわちわたしから見たときののイメージの違いを比べる。
 他人と一対一で相対するのは難しくても、もう一人他人を増やすのだ。そしてその他人の目を借りる。Bの目を通して見たAの話を聞く。もちろんB-C間のコミュニケーションが失敗することもあるけれど、A-C間だけで全部を済ますよりはまだましだ。
 そうして、二つの心で眺めることで、他人の心が立体的に浮かび上がってくる。複雑な互いの心のありさまを、より細かく把握していく。互いの心がどれだけ離れ、どれだけ近づいているかを、もう一人の目を借りて確認して、より近づこうと一歩を踏み出すことができる。

 一人ではできないこと、一人と一人ではできないことが、三人ならばできる。一人の能力が増えたわけではなく、厄介な要素である他人の数が増えただけなのに。
 他人がひたすら増えていったものが社会と呼ばれるものなのだろうと思う。三人はその原型だ。原型だから覚束ないけれど、いったん完成されてしまえば強い。そしてその構図の美点がはっきり見えるようになる。

 

 Tridentは、渕上舞沼倉愛美、山村響の三人で構成されたユニットである(であった)。
 実際のところ、彼女たちの関係がどのようにして解散時の状態まで出来上がっていったのか、一ファンに過ぎないぼくには想像することしかできない。ましてや、おおよそこの一年強という短い間しか追いかけなかった身としては。
 けれどもその輝きはあまりに強く、三人の関係は見事に過ぎて、だからぼくはその構図に特別なものを見出そうとしてしまう。冒頭に述べたのはそういう妄想の一部だ。心の三角測量法、とか呼んでいる。ぼんやり『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ Cadenza』でのイオナとムサシとヤマトのことを考えていて思いついた*1。わたしと他人、ではなくてわたしと他人と他人。三人だからこそできる心の交流の形式。
 まあこれはぼくの妄想だけれども、きっと、Tridentの三人のあいだにはぼくの想像もできないようなマジカルなものがあったに違いないのだ。ぼくはライブやラジオやアニメを通して、そのマジカルななにかを垣間見て、心をゆさぶられてきた。


 4月3日、Tridentのラストライブが行われた。会場は幕張メッセ・ホール8。とてもとても大きな会場だ。
 ぼくはフロアの中央よりやや後ろ、花道の突端を右斜め前方に見るあたりの席だった。ステージ上のTridentを肉眼で見ることは叶わないと思えたが、ライブ冒頭、Tridentはステージ上からさらに上に構築されたところから登場した。ステージの上にさらに小さなステージが作られていた、と表現すればわかりやすいだろうか。
 さらにそのステージ上ステージを中心に、上下左右の全面をディスプレイ*2が映しだす映像が彩る。
 会場の後ろ側からも見やすいうえに、視界の全面でTridentを中心とした映像表現が展開するため、没入感も高い演出となっていた。映像が、ほんらい『蒼き鋼のアルペジオ』が舞台とする海よりも、宇宙のイメージを多く扱う印象だったのもよい。海を舞台にしつつ、重力を操る未知の生命体と人類の対話という、ファーストコンタクトSFでもある作品の印象を再確認させ、そして原作の今後の展開を妄想させもする*3、楽しい演出だった。


 三人そろって登場したTridentは、やがて二人組になる。渕上さんと山村さん、渕上さんと沼倉さん、沼倉さんと山村さん。それぞれの組み合わせで歌われたキャラソンのパートだ。
 曲と曲のあいだのトークのなかで、お互いへの自分の気持ちを言い合う、というようなくだりがあった。どの組み合わせでも、ふたりがひたすら褒め合っているような雰囲気なのが楽しかった。にぎやかで、親密で濃密な楽しさがあふれていた。パフォーマンスも、どんどん熱を帯びていく。
 そして二人組は一人になる。ソロパートでは、いっそう雰囲気が高まっていった。三人が三人ともに、たったひとりでステージに立ち、そこにはいない、各自が演じたキャラクターたちのために歌う。不在の誰かを呼び、そして別れを告げる。彼岸とやりとりする祭事のようなおごそかささえ感じた。
 渕上舞さんは投影映像で架空の「青い鳥」を自分の傍らに呼び込んだ。明言はされなかったが、これには明らかに、昨年5月に亡くなった渕上さんの愛鳥チェルシーを悼む意味が込められていたはずだ。終始ほがらかな雰囲気なものの、とても親密で、切実な、観るものの心を打つ演出だったように思う。
 暖色系の照明のなか、『またあした』を歌った沼倉愛美さんは、極めて堂々として見えた。一際高くなる歓声のなか、それが聞こえてはいても動じてはいない、と思わされるような凛とした姿だった。しかし、この人はなんて強さを持っているのだろう、と感嘆していると、声のなかにふいにはかない響きがあったりして、これまた感嘆させられるのだった。
 山村響さんが歌った『Words』は、未知の感情に揺さぶられる痛み、苦しみをあつかった曲だけれども、この日のパフォーマンスは、一瞬だけ、そんな未知の感情に揺さぶられる喜びをも表現していた。ファーストライブ・セカンドライブ・そして今回と、変化した『Words』のパフォーマンスは、キャラクター・ハルナだけでなく、山村さんの変化をも表していたのだろう。
 そしてソロパート最後の『Yellow Carpet』。これまでキャラクターと自分が歩いてきた道のりに模した花道を、山村さんが一人でゆく。たった一人だけれども、その傍らには確かにハルナがいたし、劇中でハルナと共に生きていく蒔絵とキリシマがいた*4
 一人一人の声優が、キャラクターと対話をするようなソロパートは、とても濃密なパフォーマンスばかりだったけれども、それは各キャラクターにいったん別れを告げる儀式でもあって、声優がたった一人になっていくさまを見せつけられる時間でもあった。ついに、『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』という作品が終わりを迎える、という悲しみも増してゆく。


 けれども、続く展開がその悲しみと寂しさを吹き飛ばす。先ほどまでステージに一人で立っていた山村さんに、わたしたちがいるじゃん!とばかりに、登場する渕上さんと沼倉さん。そして歌われるのは、『Blue Sky』!
 "Can I go with you?"と互いに呼びかけ、そして観客も一体となって「You! You!」とコールして、「あなた」とともにある喜びを高らかに歌う。
 このとき、Tridentは花道とステージ上手・下手の三ヶ所に分かれて立っていた。それは、その日形づくられた最も大きな三角形だった。
 ぼくの席からは、花道の突端にいる山村さんと、その向こうのステージ上手(向かって右側)の渕上さん*5が一直線上に並んで見えた。二人の距離は遠く、けれど交わし合う視線や表情が二人の近さをはっきり物語っていた。それは下手にいた沼倉さんとの間だって同じだったはずだ。すでにTridentは、ステージ中央に隣り合っていなくても、遠く離れていても、大丈夫なのだ。三人のつくった大きな三角形は、そんな確信を抱かせてくれた。


 『Blue Sky』の演出で客席に撒かれた銀テープには、Tridentからのメッセージが書かれていた。ぼくの右側のお客さんが、二本拾ったからどうぞ、と差し出してくれた。それをもらったぼくの左側のお客さんがメッセージに気づいて、すげえ!すごいっすね!と声を交わしあった。おこがましいけれど、われわれ観客も、Tridentの大きな三角形にプラスアルファの一点として参加できていたのかもしれない、という喜びもそこにはあった。
 そして続いたのは新曲だ。このタイミングで誰も予期していなかった新曲*6だ。しかも新PVつき! なんというサプライズ。Tridentの音楽プロデューサー西辺誠氏や、ついさっき、ライブ開始直前まで物販スペースで自らパンフレットを売っていた南健プロデューサー*7、サンジゲン・松浦裕暁氏といった、この仕掛けに関わったであろう『蒼き鋼のアルペジオ』の裏方たちのほくそ笑む姿が目に浮かんだ。
 そしてそして続いて登場するのが、中年の星ことBlue Steels!
 そう、Tridentのこれまでの活躍は、Tridentとともに全力で併走する他のキャストやスタッフがいたからこそ、より一層輝いて見えたのだった。すばらしいTridentの歌にふさわしいアニメ本編、そしてライブに登場するたび彼女たちを凌駕するほどの喝采を集めるBlue Steels。Tridentという三角形の外側を、さらにたくさんの図形が取り囲んで、輝きを反射させ、増幅させてきた。そのことをもう一度強く強く思い知らされる演出と展開。


 あとはもう一気呵成だった。最終的にライブは5時間に及び、アンコール前後では終電の都合なのか会場をあとにする人々が続出したが、多くの人がとても悔しそうだったのが印象的だった。ぼくの左隣にいた青年も、すごく申し訳なさそうに、残念そうにぼくの前を横切って退出していった。ライブあとに感想を交わしたかったのだけれども。


 ライブの終盤、渕上さんが、Tridentが解散すると自分の居場所が一つなくなってしまうような気がして嫌だった、ということを仰っていた。いやいや、大洗女子学園もあるじゃないですか――とも思いつつ、それほどにユニットや作品のことを強く想ってくれていることを、Tridentの中心にいる渕上さん本人が口にしてくれたのは、なんだか嬉しかった。それは、われわれファンが、解散の悲しみを分かちあう拠り所にもなるのだから。
 渕上さんは、嫌だと思いつつも、三人で集まったときにそれぞれが新たに関わる仕事や作品の話を聞いて、みな新しいステージに踏み出しているんだ、と感じて解散を受け入れることができたと語る。
 ラストライブにおいて、三人の今後が示されるようなことは当然ないわけだけれども、あの日あのステージを目にした人なら、Tridentが解散して離れても、目に見えないつながりはずっと続くのだと確信できたのじゃないかと思う。
 ライブの最後、アンコール曲として『ブルー・フィールド』を歌い終わったTridentは、長い挨拶のあとゆっくりと去っていった。最後にもう一度ぎゅっと固まって、観客には聞こえない言葉を交わし合って、それから三方向に分かれて舞台裏へ消えた。


 三人はそれぞれ別の道をゆく。さまざまな仕事のなかで、あるいはプライベートにおいて、時折彼女たちは再会するだろう。でもそれは個人としてであって、Tridentとしてではない。だからもうTridentという三角形をぼくが目にすることはない。
 それでも、あの三人が、かつて形作った三角形をぼくは忘れられない。そして時折、それぞれ別のところにいる輝く彼女たちの間に線を引いて、大きく広がった三角を想像する。冬の夜空に、大三角を見つけようとするように。


 ライブのあと、ぼくは前々からTwitter上でやり取りをしていた道人さんと落ち会った。何度もTridentのライブでニアミスしていたのだけれど、今回ようやく初めてお会いすることができたのだった。
 ぼくと道人さんの席はだいぶ離れていて、ライブの見え方もずいぶん違ったようだった。それぞれの視点で見たライブの感想、感動した場面のことなどを語り合うのは大層楽しかった。帰り道の途中でお別れするまで、時間は大した長さではなかったけれども、ライブのこと、Tridentのこと、それ以外のおたく的な話題も色々話した。
 Tridentのファーストライブに参加した昨年の三月から、この四月まで、Trident以外のものも含めてぼくは何度かライブに参加してきた。いずれも単独行だったから、そうして他人の言葉を、ライブ直後に直接聞くのは初めてのことだった。
 過去のブログでTridentのことを語るとき、コミュニケーションの難しさだとか、周りの観客のネガティブなところだとかをこだわって俎上にあげてきたことからわかる通り、ぼくは偏屈な人間であり、人付き合いがうまいほうではない。一人でいたほうが気楽でいいや、といつも思っている。
 でもその夜は、人と一緒にいれてよかった、自分じゃない他人の目から見たTridentの姿を知れてよかった、と思った。記憶のなかのTridentの姿が、より鮮やかになったように思えたから。


 Tridentという三角形はもう見えない。
 しかしぼくの記憶のなかにそれは残っている。また、音楽を聴けば、ライブ映像を観れば、そこにあの三角形の残像はある。
 そしてまた、自分が不似合いにも、他人と話すのっていいなあ、なんて思ったりすること自体も、あの輝ける三角形が残してくれたまばゆい光の小さな名残りなのだった。

 


Trident 「ブルー・フィールド〜Finale〜」MUSIC CLIP


*過去のライブレポート、キャラソンレビューをまとめておきます。

 あのすばらしいファーストライブに参加して、それまであまり熱心でなかったライブへの参加ががぜん楽しくなったのだった。

 

tegi.hatenablog.com

 

 

 Trident以外のキャラソンも大好き。自分の、キャラソン文化への見方もだいぶ変わりました。

 

tegi.hatenablog.com

 

 

 セカンドライブのときはちょっと大人気なかったなーとか思っている。 

tegi.hatenablog.com

 

 解散の報を受け止めるのは辛かった。

 

tegi.hatenablog.com

 

 で、最後まで強がってこんなことを書きました。

 

tegi.hatenablog.com

 


 またそのうち、山村響さんのライブレポートも書こうと思います。ぜひ読んでくださいね!

*1:劇中、イオナは過去の事件をムサシ・ヤマトふたりの視点から眺める。

*2:プロジェクションマッピングだったかもしれない。

*3:といってもこの「きっと霧の艦隊は地球外生命体由来のものに違いない」という妄想には根拠がほとんどないんですけど。

*4:そしてもっと言えば、昨年山村さんが演じたもう一人のYellowな人、天ノ川きららもその花道/ランウェイを歩いていたはずだ。

*5:もしかしたら山村さんと渕上さんの位置は逆だったかもしれないし、渕上さんじゃなくて沼倉さんだったかもしれない……。記憶力がなくてすみません。

*6:このとき流されたPV映像を製作したのが、遊技機向け映像の制作会社としてウルトラスーパーピクチャーズとサミーが共同で設立したギャラクシーグラフィックスなので、いつか『蒼き鋼のアルペジオ』が遊技機化されたときには正式にリリースされるのかもしれない。製作元情報は松浦裕暁氏のツイートに拠る。https://twitter.com/MatsuuraHiroaki/status/716632340970086400

*7:マジびっくりしたが、テキ屋のおじさんよろしく長蛇の列をさばいていく姿がかっこよかったのだった。