こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

一ヶ月でわかる『ラブライブ!サンシャイン!!』の魅力/(1)なぜ『ラブライブ!サンシャイン!!』なのか?

 いまでこそ私は『ラブライブ!サンシャイン!!』(以下『サ!』と略)とAqoursが大好きだけれども、振り返ってみると、自分がこの作品・グループをここまで好きになれたのは、幸運にもその魅力を早々に理解できたからだと思います。『サ!』が始まった数年前のあのころ、もう少し忙しくてコンテンツの動向を追いかけられないでいたら。Aqoursの最初のイベントに参加できないでいたら。もしかしたら、自分が『サ!』にはまらずに生きていった可能性もなくはないでしょう。


 来月、Aqoursは5thライブを行います。全国の映画館でライブビューイングが行われます。どんなライブになるかわからないけれども、今までAqoursを観たことのなかった人が観に行って、彼女たちを好きになるきっかけになったらなあ、と夢想します。
 私は、一人でも多くの人に『ラブライブ!サンシャイン!!』の魅力を知ってほしい。Aqoursのライブに足を運んでほしい。
 そのために、今日から何回かに渡って、そもそも『ラブライブ!サンシャイン!!』とAqoursはなぜこれほど魅力的なのか、なにが魅力なのか、を改めて語っておきたいと思います。
 もしかしたら、『サ!』を好きにならないままでいたかもしれない自分のことを想像しながら。

 

 

 まずは基本的なところを確認しましょう。
 『ラブライブ!サンシャイン!!』は、アニメや漫画、ゲームなど幅広いメディアで展開されている二次元アイドルのコンテンツ。「Aqours」とはその作品内に登場するアイドルグループであり、同時に、Aqoursを演じる声優たちによる実在のアイドルグループのことです。
 現代の日本においては、二次元文化にせよ、アイドル文化にせよ、いずれの分野にも数多の魅力的なコンテンツやアイドルがひしめいています。二次元と三次元をまたいだアイドルも珍しくはないし、複数のメディアで展開されるフィクションもまた同様です。
 ではそのなかで、『サ!』のもつ特徴はなにか。それは、「極めて多様に楽しめること」だと私は思っています。


 メディアミックス展開されるフィクションは多かれど、『サ!』ほどに幅広く、数多いメディアで長期間にわたって展開されているコンテンツはそうないでしょう。
 思いつくまま、各媒体で展開されているものを一覧にしてみたのが次のリストです。

 

f:id:tegi:20190513012830p:plain

ラブライブ!サンシャイン!!』のメディア展開


 『サ!』の全てを網羅しているとは言い難いリストですが、それでもこのリストを『サ!』と同様に埋められるコンテンツは、他には存在しないのではないかと思います*1*2


 なぜ幅広く展開されることがよいことなのか。それは、一人ひとりが自分にあわせて楽しめるからです。『サ!』への入り口は無数にあり、あなたが関心のある分野から入っていくことができる。あなたが時間を持て余しているのなら、配信サービスでテレビアニメを順に観ていけばいい。通勤や通学の電車のなかで時間をつぶしたいならアプリゲームから始めてみればいいし、時間がなければAqoursの楽曲を一曲聴くことや、移動中にウェブラジオを少しずつ聴くことから入ってもいいでしょう。
 二次元の女の子にも、アイドルソングにも興味はない、という人であっても、『サ!』のメディア展開は逃しません。Aqoursの物語は静岡県沼津市を舞台としており、作中では彼の地の風物が多々描かれます。さらにAqoursは、スクールアイドルとして人気を得ることで、寂れゆく地元を盛り上げようという目標も持っています。Aqoursはアイドルである以前に、人口の減少に悩むいち地方在住者なのです。東京等の一部の限られた人口密集地帯を除けば、多くの現代日本人が彼女らの境遇に共感できるのではないでしょうか。


 さて、メディアミックス作品というと、ある共通の物語がいくつかの異なる表現方法で描かれているものを想像されると思います。一つの正しい原典があり、そこから展開されていくようなイメージです。
 『サ!』はそうしたイメージとはやや異なる展開をみせています。確かに原案は『電撃G's magazine』誌上でショートストーリーを発表し、コミックの原作を手がける公野櫻子によるものです。ですが彼女の描く物語は絶対ではない。アニメ版の監督である酒井和男は企画の初期段階からキャラクターや設定づくりに関わっていたようですが、ではアニメ版が絶対視されるかというとそうでもない。おおよその設定は共通しつつ、雑誌誌上・アニメ・ゲームとそれぞれの媒体で描かれる物語とキャラクターの細部には、異なる点が複数生まれています。
 このゆるやかさは、物語の強固さを犠牲にするかわり、作品を楽しむ側に選択の余地を与えます。あなたはアプリゲームでも、漫画でも、声優ユニットでも、どの入り口からでも自由に『サ!』の世界に足を踏み入れることができる。そしてもしそれが気に入ったのなら、いくらでも深掘りする物語があたりにころがっている、というわけなのです。

 話の順序がおかしかったかもしれませんが、『ラブライブ!サンシャイン!!』の主人公であるAqoursは、静岡県沼津市に住む9人の高校生です。彼女たちの住む世界では、日本各地の高校で、部活動のように営まれる「スクールアイドル」という存在が一般化しています。地元のイベントごとで歌やダンスを披露するだけでなく、「ラブライブ」という全国のスクールアイドルが競い合う大会も存在します。
 各メディアで展開する『サ!』の物語は、ラブライブを目指すAqoursの成長譚を主軸にするものもあれば、沼津で日々を過ごすAqoursの日常を中心としたものもあります。
 Aqoursの9人は、高校一年から三年までの各学年3人ずつから構成されています。高校に入ったばかりの一年生と卒業を控えた三年生では価値観も雰囲気もがらりと変わって、それだけで各キャラクターのあいだの幅はかなり広くなっています。
 各学年に3人ずつ、合計9人という人数と組み合わせは、キャラの覚えやすさとキャラ間の関係性、個性の違いをそれぞれ充分に描くのにちょうどよい設定だと思います。現代のフィクションはしばしば、登場人物の関係性を描くことが重視される、といわれます。『サ!』は関係性の娯楽と、物語性の娯楽を両立させるに適切な人数配分だと言えるでしょう。キャラクター同士の親密さを眺め楽しむこともできるし、関係性だけに依らない、個々に深く描きこまれた人物一人ひとりの個性やバックストーリーを愛することもできる。
 9人のうちの特定の誰か、あるいは学年や友人関係が気に入ったのなら、他のメディアでは彼らがどう描かれているか、とメディアを渡り歩いて楽しんでいくこともできます。基本はわかりやすくシンプルで、深掘りがいくらでもできる。キャラクターを愛でるという切り口だけであっても、かように『サ!』は多様な楽しみ方を提供してくれます。


 『サ!』が多様な楽しみ方を許容するコンテンツだとして、しかし、多様さというのは、複数の違いをもつものが同居しているということであり、違いはときに摩擦を生じさせます。それぞれに異なる物語を目にしたファンは、それらを受け止めることができるのでしょうか。食い合わせの悪い食べ物のように、それを拒絶してしまう人もいるのではないか?


 まず先にわかってほしいのは、そのように異なる物語を内包していたとしても、『サ!』のそれぞれの物語はすべて共通の真理を描いている、ということです。
 神話や民話を思い浮かべてください。同じ原型を持ちつつも、地域によって、語り手によって、様々な差異をもって語られていきます。ある人はそのなかから自分のお気に入りのパターンを見つけて何度も語りに耳を傾けるでしょうし、またある人は、複数のパターンを比較して、物語の全体像を描こうとするでしょう。
 『サ!』が各メディアで展開している物語もまた、そのように楽しむことができるのです。

 Aqoursのなかで私が最も敬愛する黒澤ダイヤという人物は、『電撃G's magazine』誌上の物語と、アニメ版の物語とで、大きな違いをもっています。
 最初、私はG's版のダイヤが好きでした。冷静で、アイドル文化には興味がなく、名家の娘としての期待を背負った才人。家のための犠牲となる諦念に埋もれかけていた彼女は、アイドル活動のなかで、自分でも気付かなかった情熱に気づいていきます。
 アニメ版のダイヤは、G's版とは正反対に、アイドルが大好きです。アニメ版での彼女は、家柄ゆえの陰をほとんど見せず、踊り歌うことを楽しんでいます。
 正反対とすら言っていい彼女たちですが、しかし、私はいずれのダイヤのなかにも共通して存在する何かを知っています。だから、私はどちらの作品をも楽しめる。むしろ、アニメ版で描かれないダイヤの異なる側面をG's版で発見し、またG's版で描かれた事実をもとにアニメ版のキャラクターを理解していく…と、相互を楽しむことでより黒澤ダイヤというキャラクターの魅力を発見することができています。


 なかには、そうした楽しみ方はしたくない、という人もいるでしょう。
 であれば、個々のメディアのなかのAqoursだけに注目していればいいのです。それはいっけん不健康なタコツボ化に見えるかもしれませんが、もともと個人が自分のために楽しむ娯楽なのですから、それでよいのです。
 さらに、おそらく『サ!』が好きになったなら、一つのメディアにとどまり続けることは難しいだろう、と私は思います。『サ!』の各メディアは、それ単体で独立することなく、他のメディア展開における要素を取り込み、相互に影響を与えあっています。アニメ版は、声優の演技を一要素として用いているのはもちろんのこと、彼女たちの現実のエピソードからも影響を受けています。アニメ版とG's版の間の際は大きいですが、『スクールアイドルフェスティバル』の物語はそれら両方からの影響を受けることで、両者の橋渡しを行っています。


 多様さ、というのは現代を象徴する一つのキーワードだと思います。
 それはこれからの社会や人間が志向するべき目標のように掲げられることもあれば、混乱と破綻を招く悪しき呪文のように扱われることもある。
 多様である世界には、あなたが知らないもの、あなたとは異なるものが潜んでいる。それは世界の本来のあり方ではあるのですが、やはり未知のもの、異なるものというのは恐ろしい。
 大げさなことを言えば、『サ!』は、二次元アイドルという実に甘く受け取りやすい娯楽でありながら、そのような世界と同様に「未知のもの」「異なるもの」を提供することで、それらは怖いだけのものではないのだ、と言ってくれているように、私には思えます。
 いや、三十代のおっさんが、世界が怖いとか、その怖い世界への恐怖心を二次元の女の子が和らげてくれるとか、何言ってんだよ、という気持ち、書いている自分自身だって抱いています。ほんと何書いてるんだよ自分。でも確かにそうなのです。『サ!』を通して私は知らなかったことをたくさん知ったし、知らないことへ思いを馳せることの楽しさも知った。二次元アイドルという、あまり世間に向かって堂々と愛していることを公言できないものであったって、それは本当なのです。
 「ラブライブ」というこのコンテンツのシリーズのタイトルを言葉通りに受け取れば、それは「愛と人生」を描くものなのだ、ということでしょう。この多様な世界で生きることはかように楽しく、愛に満ちている。そのように、Aqoursは教えてくれるのです。


 いささか話が大言壮語じみてしまいました。じみている、っていうかまあ完全に大言壮語ですよね。申し訳ないです。作品の大枠を語るとついこうなってしまう。今日はこのへんにしておきましょう。
 次回以降では、もう少し地に足つけて『サ!』の魅力を紹介していきたいと思います。今回の記事は首を傾げるしかなかったあなたにも伝わるようにがんばります。乞うご期待。

 

*とりあえず5thライブの日程はあけておいてください

www.lovelive-anime.jp

 

本記事の続きはこちらからどうぞ。

tegi.hatenablog.com

tegi.hatenablog.com

 

ライブビューイング会場で会いましょう!!

*1:例えば『ガールズアンドパンツァー』はかなり近い展開をみせていますが、登場人物自身がアイドル的パフォーマンスを見せることはありません。日本の二次元コンテンツに限って言えば、唯一近かったのが『Wake Up, Girls!』でした。先日彼女たちは活動を終了しましたが、『サ!』の魅力を考えるうえで、彼女たちの活動を同時並行で追えなかったのは実にもったいないことをした、と反省しています。

*2:もっと幅広く考えると、『スパイダーマン』は『サ!』に近いかもしれないな、とちょっと思いました。ニューヨークという土地を代表する存在で、複数の媒体で様々な物語が描かれています。今春日本でも公開された映画『スパイダーマン:スパイダーバース』を観たあとでは一層両者を重ねたい気持ちは強まるのですが、スパイディはアイドル活動を継続して行っているわけではないので、『サ!』と並べて語るのは少々乱暴というものでしょう(当然だよ)。