こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

虹ヶ咲学園のライブをテレビで観て『ラブライブ!』の魅力を再確認したこと

 『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2nd Live!Brand New Story』を観ました。自分の家のテレビの前で。

 ライブの会場は有明ガーデンシアターでしたが、新型コロナウイルス感染症の影響によって、会場に観客は入れず、e+の運営する「Streamg+」サービスでの有料配信ライブに変更して開催されました。

 新型コロナウイルス感染症対策としてこうしたライブが制限されることの難点は数多くあります。ライブ中にキャストたちが何度も口にしていたことを信じるのならば、観客が目の前にいないということは、意外にもライブの根幹を揺るがしているようで、あ、普段会場でわいわい言っているだけのオタクにもそんなに価値があったんだなと少し驚きました。ちょっと…いやかなり、嬉しいことです。

 
 ライブを配信する、というのもこれだけインターネットサービスが多様に発展した現在ではなかなか想像が難しいですが、そう簡単にできることではありません。今回のライブでは、昼夜二公演のうちの昼の部で、日本以外の国での配信にトラブルが生じ、残念なことに多くの海外ファンが正常に視聴できない事態が発生してしまいました。正確に課金し、著作権侵害を防ぎ、かつできるだけ多くの国・人に届けることは本当に難しいのだろうなと思います。Youtubeで無料配信するのとはわけがちがう。
 一方で、配信ライブによって今までライブを観ることが難しかった人々もライブに手が届くようにもなりました。ライブ中、中須かすみ役の相良茉優さんが、自身の祖母は京都に住んでおり東京のライブまで出かけてくるのは難しいが、配信なので観てくれている、と語っていました。このように、ライブ会場へのアクセスに難のある人*1のハードルが下がったのはとても喜ばしいことです。
 ラブライブ!シリーズが有料配信ライブを行うのはこれが初めてだったと思います。これから行われる『ラブライブ!』の他のライブにも、今回の成果はフィードバックされていくでしょう。配信のプラットフォームの問題や、ライブの演出などについては、また次々に新しい観点や課題が出てくると思います。その積み重ねを注視しながら、毎回のライブを思いっきり楽しんでいきたいものです。


 さて、そうした、ある意味現実的な話はおいておいて、今回わたしが感動したことを語りたいと思います。すごくラブライブ!的で、抽象的な話です。
 ライブの当日、アプリゲーム『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』の「毎日劇場」で公開されたショートストーリーを引用します*2

 

ことり「ふふ、楽しみだなあ~。
今日は、みんながことりのために集まってくれてたし、
午後はニジガクのライブも見れるし、一日中楽しいことが詰まってるね!」
真姫「ニジガクのライブは、うちの大画面テレビで見るわよ!」
ことり「すごーい! 最高の誕生日だよ~!」

(『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』9月12日更新『毎日劇場』)

 

 奇しくも昨日・9月12日はシリーズの原点である『ラブライブ!』の登場人物、μ'sのメンバー・南ことりの誕生日(という設定)なのでした。
 それを記念したショートストーリーの一部が上記なわけですが、わたしは、ことりと真姫、そしてμ'sのみんなが「テレビの前で虹ヶ咲のライブを観ている」ことにむちゃくちゃ感動してしまったのです。

 これまでも、アプリゲームのなかなどで、現実に行われるライブにフィクション内のμ'sやAqoursが言及することは何度もありました。そういう記述を読んだわたしは、ライブを観ながら「この会場のどこかにあの人もいるんだ…」とか考えて感動していたわけです。そういう妄想は、フィクションのなかの人物と自分が同じライブを楽しんでいるという事実によって、フィクションと現実の境界を曖昧にしてくれるからです。
 今回のことが衝撃的だったのは、μ'sも「テレビの前」で虹ヶ咲のライブを観ている、という点です。
 わたしも、いやすべてのファンも、「テレビの前」*3でライブを観ています。恐るべきことに、この一点において、わたしたちはμ'sと全く同じ状況に置かれているわけです。
 さらに、Aqoursのキャストたちのこんなツイートが拍車をかけます。

 

 

 

 

 

  Aqoursのキャストたちもまた、「テレビの前」で観ている*4
 彼女たちがもし通常のライブに参加していたとすれば、ファンとは異なる関係者席に座り、公演前後には楽屋を訪れ、ライブを行った虹ヶ咲の人々と交流を交わしていたでしょう。そしてそうしたことへの言及はおそらく、ライブのあとに事後的にタイムラインに載せられる。
 それが、自分と同じように、全く同じタイミング、同じ状況でライブを観ている、とわかったときの驚きといったら。特に小宮有紗さんが「みんなと一緒に観てるお」としたのはしみじみと感動的でした。のちにここで言われる「みんな」はAqoursキャストというわけでもなくまさにファンの「みんな」だということが本人から明言されています。

 

 ファンにとってはほとんどフィクションのなかの人物とも言えるほどに距離のあるキャストが、「みんな」としてテレビの前でライブを観る人すべてを同列に扱っている。その言葉の延長線上には、フィクションのなかのことりも、真姫も、同一の立場で存在しうる。


 『ラブライブ!』の、μ'sのライブがなぜあそこまでファンの心を掴んだのかを思い返してみましょう。それは、ステージの上のμ'sが、まるでフィクションのなかの人物と同じように振る舞い、存在していたからです。遠くからステージの上を観たとき、そこで踊っているのは「本物」のμ'sにしか観えなかった。ファンとキャストとキャラクターが一つの世界に存在していると錯覚できたことに、わたしたちファンは感動したのではないでしょうか。
 今回の配信ライブによって、わたしはまた新しい種類の「錯覚」によって、『ラブライブ!』世界がフィクションと現実の境界を曖昧にしたさまを体感したと思ったのです。
 アプリゲームやキャストのツイートという小さなことの集まりによって生じた感動ではありますが、わたしは、『ラブライブ!』という作品の魅力の原点をあらためて生々しく感じることができました。


 実は今回のライブでは、より大きな「フィクションと現実の境界が曖昧になること」がいくつも生じていました。演じる田中ちえ美さんが自ら繰り返し語っている、天王寺璃奈のゲーム内ストーリーとの符号。新たに虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーに加わった三船栞子を演じる小泉萌香さんが経験してきたこと。たぶんそれ以外にもたくさん。
 いや、きっと、ライブを観ていたあなた自身もまた、フィクションと現実の境界を飛び越えていたはずです。
 そういうことが同時に大量発生する、そういう作品だからわたしは『ラブライブ!』が好きなんだろうとも思います。
 というか、翻って、『ラブライブ!』は、2.5次元ライブというのは、そうやって「フィクションと現実の境界を飛び越えること」が大量に行われることで成り立つのであって……。
 では、なぜ、わたしは現実の境界が揺るがされることに感動するのだろうか。


 それを書くのは野暮な気がしますのでやめておきます。
 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、今日もライブを行ってくれます。9月13日、開演は16時から。そして、9月19日・20日にはリピート配信も行われます。チケットはリピート配信の開演まで販売しています。
 『ラブライブ!』シリーズのどれかに触れたことのある人なら、きっと、『ラブライブ!』の魅力の根っこみたいなものを感じられるんじゃないかなと思います。あと、虹ヶ咲って個々の楽曲・衣装・パフォーマンスがそれ単体としてすごくよいのですよね、今まで書いてきたような文脈抜きで、例えばQU4RTZの『Beautiful Moonlight』なんて、シティポップキャラソンの大傑作だと思うんですよね、……というわけで話が長くなるのでこのへんで。
 今日もライブを楽しみましょう!

www.lovelive-anime.jp

Streaming+の視聴環境にはけっこう制限があるので注意が必要。

しかも今回の公演は通常の制限よりも更に厳しいっぽいです。PCの場合はWindows 10+Edgeが必須。でもそれをHDMIで大きな画面のテレビに繋いで観たときの楽しさといったら!

 

www.youtube.com

『Beautiful Moonlight』は1分45秒ごろから。声優さんが歌うシティポップが大好物のみんなはぜひチェックしてみてくれよな!!ライブだとエマ役・指出毬亜さんの声がすごく引き立ってまたすばらしいんだ…。

 

 

*1:何らかの障害を持つ人、仕事などの都合がある人、そしてなんらかの理由でライブ会場に出かけるのを躊躇していた人、などなど。たとえば「背が低いからどうせよく観れないんだよね」とか、「女性ひとりで男性オタク中心のライブに飛び込むのはちょっと…」とか、千差万別の「ライブに行けない人」がいると思うのです。

*2:「毎日劇場」はゲーム内でアーカイブ公開されません。記録を取っておくのを失念したため、今回はネット上でアーカイブをあげているファンによるスクリーンショットから引きました。正しい引用の形を取れなかったことと、瑕疵があればわたし自身に責があることをお知らせしておきます。

*3:もちろんスマートフォンの前、タブレットの前、パソコンの前、ホームシアターの前…と色々な視聴環境があるわけですがここではまとめて「テレビの前」と言っておきます。

*4:本論からは外れますが、Aqoursは、こうした言葉をシリーズの先輩からかけてもらうという経験を特にその活動初期においては経験することができませんでした。その是非については、むしろ自分はよかったと思ってはいるのですが、それでも、虹ヶ咲の人々へAqoursがこうやってエールを送っていることには、本当に胸が熱くなります。