こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

世界に困惑すること/Aqours ONLINE LOVELIVE! LOST WORLD DAY1

 Aqours初のオンラインライブ、「Aqours ONLINE LOVELIVE! LOST WORLD」一日目を観ました。自宅のテレビで。

 わたしは三月に行われる予定だったAqours内の一ユニット、AZALEAの公演を観に行く予定でした。会場は仙台だったからわくわくしながら旅行の日程を組んで旅行代理店でチケットをとって、ガイドブックを買って妻と一緒にライブ以外でまわる色々なスポットを調べたりして、でもライブが新型コロナ感染症の感染拡大によって中止になってしまい、ライブを観る機会は永遠に失われてしまったのでした。

 
 Aqoursは、2020年後半から各地のドームを巡るツアーをも予定していたのですけども、それもすべて中止になりました。
 Aqoursとそのファンのみならず、2020年というのは、日本に住んでいるおおよそすべての人がなにがしかのものを失ってしまった年だと思います。そしてその喪失は続いている。
 そういうなかで、「LOST WORLD」というオンラインライブが行われたわけです。ライブ開催の発表を初めて聞いたとき、なんだよその真っ向すぎるタイトル、とわたしは思いました。
 失われた世界。
 コナン・ドイルの小説を思い出すけどもそれはちょっと関係がなさそうなのでおいておいて、きっとライブでは、行われなかったAqoursのライブをオンライン配信という制限があるなかでそれでも蘇らせ、「失われた世界」を再確認し慈しみ、そして新しい世界へ観客を一歩踏み出させるような、まあ端的に言ってしまえばむちゃくちゃ「エモい」ライブになるんだろうな、とわたしは思っていました。
 敗者復活戦だとか、弔い合戦だとか、失われたものを取り戻す戦いって、感情を揺さぶられます。たぶんたいていの普通の人の人生なんて毎日負け戦の連続で、だから、物語やライブのなかでだけは、失ったものが慈しみをもって扱われ、輝きが取り戻される情景を観たいのだと思うのです。
 しかし、です。

 

 
 いや、ほんと、なんだったんだろう今回のライブ、とわたしは思いました。
 冒頭、如実にAZALEAの失われたライブを強く意識させるユニットパートであるとか、ユニットパート後、ライブタイトルが示される前にファーストライブから順々に映し出される過去のライブの映像だとか、「失われた世界」への憧憬を抱かせる演出は盛り盛りではありました。ドームツアーでフィーチャーされる予定だっただろうたくさんの新曲が披露されましたし、ツアーの象徴となるキャラクター、くじらの「ぽえぽえ」くんをモチーフとする舞台装置も登場しました。確かに、「失われた世界」を強く感じさせる、「エモさ」のあるライブではあった。
 あったのですが。


 まさかあんなにシャゼリア☆キッスが前面に出てくるとは。
 ユニットパートを除くと、ライブ本編の最初と最後はまったく見事にシャゼリア☆キッスによって始まり、終わっていたのです。シャゼリア☆キッスというのは今年のAqoursのエイプリルフール企画で行われた、80年代のアニメとか特撮とかのパロディなんですけども、作画が島本和彦、ナレーションが千葉繁というマジな布陣の映像が流れ、「何座の聖衣ですか」と言いたくなるコスチュームに身を包んだAqoursの九人が歌って踊るわけです。
 冒頭での登場こそ、ユニットパートの延長線にあるので、「Aqoursのライブ本編前の息抜き部分かな」とか思っていたわけですけど、ライブ最後にもまた千葉繁による口上が流れるのです。このライブのために新録したんかい千葉繁。ライブ全体の最初と最後に配置されてるってんですから、作り手としてはこのシャゼリア☆キッスをライブの大事な枠として扱っている、とみるのが妥当でしょう。なんなんだそれ。いったいおれはなにを観ているんだ…。


 というわけで、わたしはAqoursが見せてくれたLOST WORLDという二時間のライブに、正直、困惑しないではなかったんですが、じゃあ、自分が待ち構えていたような、「「失われた世界」を再確認し慈しみ、そして新しい世界へ観客を一歩踏み出させるような」ライブじゃなかったか、といったら全然そんなことなかったのです。シャゼリア☆キッスの歌を聴きながら、千葉繁の口上を聴きながら、島本和彦先生の絵を観ながら、ゲラゲラ笑っていたけれど、それはぜんぜん期待していたライブと食い違うものじゃなかった。すげー楽しかったし、じっさい「ライブが終わったらまた毎日たいへんだけど、新しい世界でがんっばっていかなきゃな」みたいな気持ちになっているわけです。
 こんなむちゃくちゃなテーマのライブなのに、本当にまっとうに感動させちゃうライブに仕立て上げるAqours、そして感動しちゃう自分、本当にどうかしているな、と思いました。そしてどうかしていることになってしまったこの五年間――Aqoursが世に出て、自分が追っかけてきたこの月日――の情熱と感動と混乱がまた新たなかたちで自分のなかに蘇ってきました。
 Aqoursは、真っ直ぐに胸を打たれることも、なにそれ?と口をあんぐりあけて呆れることも、ぜんぶひっくるめて、困惑と感動に満ちた世界のありようを思い出させてくれたのです。そういう、自分の予想や期待の範囲を超えたものも含めて、一つの「世界」なんだよ、ということを改めて受け止めさせてくれた。変化し続け、自分の理解とはまったくかけ離れたところで轟音をたてて蠢いているような「世界」を、少しだけ受け止めやすくしてくれた。
 ……うわ、ほんとうに失ったものを取り戻しているじゃん。なんてことしてくれるんだよ、と言うほかないです。

 

 Aqoursというのは、廃校になる学校のスクールアイドルというフィクションのもとに生まれたグループです。
 μ'sという、偉大な達成ののち(いったんの)活動終了を迎えて去っていったあとに生まれたグループです。
 そして、衰えゆく一地域を物語の舞台とし、人は変化し衰退する社会といかに向き合ってゆけばいいのか、という命題をも背負ったグループです。
 コロナ禍のまえからずっと、失われることと向き合ってきた人たちなのだとわたしは思う。
 そういう人たちだからこそ、こんなむちゃくちゃ変なやりかたで、あー、そういや前から「世界」ってこんな感じだったかもね!と思い出させて大笑いさせてくれるライブが可能だったのかもしれません。


 せっかくの配信ライブなので、「こんなにすごかったよ!みんな観て!」みたいな、Aqoursを知らない人に届けるための記事を書きたいな、と思っていたのですけど、ま、諦めました。いや、歌もダンスもすばらしくって、当然もちろん「こんなにAqoursはすごいんですよ!」と広く勧めて回りたい気持ちはあるんですけど、それ以上に、なんだかすごく個人的な受け取り方をしてしまっているのですね。だからあまり人に教えて回るようなことはしなくてもいいかな、と思ってしまいました。
 今夜は、なんかへんなもんみちゃったなあ、というこのすばらしく愉快な困惑を大事に抱えて、また明日に備えて眠りたいと思います。
 明日も、ライブは続くのですから!

 

www.lovelive-anime.jp

 

(以下は今回のライブとはもっともっと関係の薄い話になります。自分としてはここで書くのが最適のタイミングだと思っていますが、以前から読んでいただいているかた以外は意味がわからないと思います。すみません)

・追記

 失う、ということを語るならばわたしはJAなんすんのポスターにまつわる一連のことをも語らなければいけない。

 あのことを通してわたしのなかの『ラブライブ!サンシャイン!!』への信頼の一部は失われた。一方で、わたしの振る舞いによって「失わされた」と思っている人も一定数いるはずだ。

 今日のライブを観ていたときの感情が、そのわたしの喪失を埋め合わせてくれるわけではない。もしわたしが喪失を忘れてしまうのならそれは怠惰というほかないだろうし。

 でも、それでも、少なくとも自分ひとりの喪失感は薄れたという感覚があった。失われたもの込みで、一緒に生きていくと決められたからだろうと思う。

 

 自分以外のことはどうだろう。

 極端なことを正直にいえば、わたしが当時書いた記事をもって傷ついたという人には、その傷をずっと抱えて生きていってくれ、と思う。でもそういうふうに思うときに、言い過ぎじゃないかと思う自分もいる。

 生きて、蓄積されたものをなかったことにはできない。

 自分のなかで何かが失われたのなら、そこに残る傷の理由を、考えて、見つめ続けるしかないのだと思う。わたしの言葉で傷ついたという人がいるというのなら、できれば同じことを自分の心のなかで続けてほしいと思う、ということくらいしか今のわたしには言うべきことが見つからない。

 

・追記その2
(前回の追記からそのまま続けて)
 それはそれとして、今年のフェスのころまで、ラブライブ!ブログ界隈にあった勢いを削いだという意味で、自分の行ったことが誰かの「喪失」につながっているのであろう、ということは常に意識しています。
 ポスター批判と、その後の記事でブログ界隈への批判を書いたことを悔やんでいるわけではないのですけど(だってそれを悔やんでしまったら、自分自身だけでなく、あのポスターに批判的な意識をもったほかの人たちをも毀損してしまうことになりかねないので。悔やむような穴のある話をしたつもりもないですし)。

 なので、主に虹ヶ咲のセカンドライブ以降、今秋になってどんどんラブライブ!のブログが盛り上がっているのは、正直に言えば嬉しいです。そんな話しても、「えっ、別に全然お前の影響なんか受けていないけど…?」という人がほぼほぼ全員だと思いますけども。

 こうやって世界は動いていくし、変わっていくし、あとは自分のやることをやるしかないな、という感じです。
 なんだか本当にライブとは遠い話をしすぎてしまいました。自分の言いたいことの周りを延々ぐるぐる回りながら言葉を浪費し続けているだけのような気もします。でも言わなきゃ始まんないしな。