こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

2024年に聴いてたいい音楽のこと

 2024年は自分の音楽生活にとってとても重要なアーティスト二組が大きな区切りを迎えた年だった。まずはその二組の楽曲から始めたい。

 

■永久hours/Aqours
 一組目は声優アイドルグループのAqoursである。2024年、彼女たちは2025年をもって9人全員でのライブ活動を終えることを宣言した。彼女たちのキャリアの長さ、そしてグループの母体となる『ラブライブ!サンシャイン!!』の作品としての状態から考えて、それは自然なことだった。自分もそれはわかっているつもりだった。しかし明らかにその発表以降、わたしは、Aqoursの音楽と向き合えなくなってしまっている。
 『永久hours』は2025年開催予定のライブのテーマソング。この曲も、あまりたくさんは聴けていなかった。
 12月末、仕事納めの日に新宿の山手線のホームでぼんやりと電車を待っていたら、この曲の終盤の、あまりに印象的な伊波杏樹のボーカルが遠くから聴こえてきた。新宿のまちなかの巨大な広告ディスプレイで『永久hours』のMVが流れていたのである。わたしはホームのへりの安全ラインぎりぎりに立って、歌を聴きMVを観ようとした。CDも買えず、サブスクの音源もろくに聴き直していないというのに。普段は逃げているくせに、そういった遭遇の際には必死で聴こうとしてしまう自分にうんざりした。それでもその、Aqoursを聴きたいという感情は嘘ではなかったと思う。そう思いたい。
 今でもこの曲を聴くのには心の踏ん張りが要る。それでもわたしはこの曲を聴くべきだと思う。遠く離れたところで途切れ途切れに聴いているだけでは満足できないほどには、わたしはまだAqoursのことを好きでいるのだから。


■今夜だけはワタシが一番♡/山村響
 二組目は声優アーティストの山村響である。彼女は2024年12月をもって当分のあいだライブ活動を休止することを発表した。ライブ活動のプレッシャーによる疲弊を軽減させるためであって、音楽活動自体は継続し、楽曲制作などはこれまで通り行ってくれるという。プレッシャーから解き放たれた効果は早速現れているようで、12月に行われた最後のライブイベントは非常にすばらしかった。
 これは本人の口から発せられたことでもないし、もしそう思っていたとしても口に出されることもなかろうと思うが、彼女が背負っていた「よりよいライブを行わなければならない」というプレッシャーは、ファンからの期待が作ってしまったものでもあるだろうと思う。わたしはここ数年の彼女の自主音楽活動を高く評価し、さんざんSNSとブログで褒め称え拡散しようとしてきたけれど、果たしてそうした行為は本当によいことであったのだろうか。いや、多くのファンのそれがよい行為であったとしても、わたしのそれはどうだったのか。わたしは自信をもって自分の行いを肯定することができない。もっと違う言葉によって、響さんの音楽について書き広める道があったのではないか。
 『今夜だけはワタシが一番♡』は、2023年末ごろに製作され、24年2月のライブで初披露された。響さんの配信やライブでの話から考えるに、ライブ休止に至るプレッシャーが最も彼女を苛んでいた時期にこの曲は作られ、初めて歌われたということになる。この曲は自分自身を愛しエンパワーすることを歌うが、実際にはできていなかった、と彼女は楽曲リリース頃の配信で語っていた。
 そのような苦い制作背景を持ってなお、この曲は、聴くわたしの気持ちを励ましてくれる。12月のライブイベントで歌われた際も、いま配信で耳にするときも。わたしはそのことに希望を見出す。歌い続けられ、聴き続けられる限り、歌は力を失わない。新しい意味と価値を獲得し続ける。苦いだけで終わることはない。

 24年12月のライブに、わたしは妻を連れて行った。響さんのライブに妻と一緒に行くのは初めてだった。幸い彼女も楽しんでもらえたようだった。
 終演後の観客お見送り時、響さんと妻と三人で相対していて、こういう経験ができているのは幸せなことだな、と思った。ネットでたくさんの言葉を費やして誰かに伝えるのと同じくらい、最も身近な人間に自分の好きな音楽を伝えるのは大変で、楽しい。
 また、響さんが「お仕事忙しいようですけどお身体大事にしてくださいね」と言ってくれて、妻が「そうなんすよほんとこの人は~」みたいな感じで受け答えしていたのは、別の意味でめちゃくちゃ幸せな経験であったと思う。2025年はもう少し周囲に心配されないような日常にしたいものです。

 

■Flutter Bond(feat. 高槻かなこ)/Tonal
 Aqoursの一員である高槻かなこの楽曲。高槻自身による歌詞は、明確にAqoursとしての活動にまつわる葛藤を歌っているようにわたしには思われた。彼女が演じる国木田花丸と結びつきの強いモチーフ(黄色、本、蝶)がたびたび示され、同じことの繰り返しではなく、新たな自己を求め飛躍したいという希望が描かれる。もしわたしの考える通りであれば、明確でありながらも作品自体や国木田花丸のことを貶めるわけではなく、むしろ花丸のモチーフを反転させてAqoursの楽曲が語るようなまっすぐなポジティブさとは別種の力強いメッセージを表現してみせた作詞の力を褒め称えたい、とも思う。
 とまれ、本作で「何処に行っても/羽ばたき出すの」と歌う高槻かなこの新しい活躍をもっと観たい、というのは多くの人が共通して思うことではないか。2021年の『Subversive』、本作と、クールなダンスミュージックとの相性は抜群だと思う。本作を手掛けたTonalとの楽曲もまた聴いてみたい。24年末には結婚と事務所退所を発表し、25年からはまた新たな活動を進めていくようだ。大変なことも多いと思うけれど、心の底から応援したい。

 

■わたしは知ってる/山根綺
 ここ数年、Aqours山村響を起点として声優アーティストの楽曲をたくさん聴いてきたが、2024年はかなりさぼってしまった。新作アルバムをとにかくたくさん聴くのが趣旨の「声優名盤探索の旅」企画(といってもSNSで呟いているだけだが)も停滞した。チェックできた新作アルバムは5枚もなかったのではないか。山根綺の『青春のかなしみ』はそのうちの一枚。YAYA RECORDSというYoutube配信を中心としたコミュニティを基盤に行う音楽活動のスタイルが面白い人だ(一見自主製作ぽく見えるがたくさんのスタッフが関わっているので、山村響のような個人的活動ではなく、ファンクラブの変形みたいなものだと考えたほうがよいのだろう)。『わたしは知ってる』はコヤマヒデカズ作詞作曲。アルバムを最初に聴いたときはさらっと聞き流してしまったけど、ここ数ヶ月、繰り返し聴くようになっていた。傷を抱えた不完全さがあるこそ他者とのつながりができる、という歌詞が心に染みる。ボーカルもYotubeチャンネルで公開しているカバー曲の数倍よいと思う。自分の歌なんだから当然かもしれないけど。

 

■Love Me/花澤香菜
 2024年の前半、もっともたくさん聴いていた曲のひとつ。内向的になりがちなジャージー・クラブのリズムなのにオープンで明るい雰囲気なのがとても面白いし、「自分らしく生きてけんのなら/しんでやるぜ/なあ」という歌詞が最高にすばらしい。精神的な葛藤についての内容は、数年前に花澤香菜が『ニュータイプ』の連載エッセイで書いていた、メンタルクリニックに行った件を想起させられる。作詞作曲はGuiano。タイトルの通り「自分を愛そう」と訴えつつも、「へん」な自分に覚える不安、たじろぐ感覚も捨てないところがすごく好きだ。わたしも自分を愛するのが怖い。それでもそれはそれとして、「自分らしく生きてけんのなら/しんでやるぜ/なあ」。

 

■運命の華/トゲナシトゲアリ
 TVアニメ『ガールズバンドクライ』劇中バンドによる楽曲。最終話、商業的成功にも名声にも背を向けてただ自分たちのやりたい音楽を完遂しようとするバンドが歌う。歌詞は主人公・井芹仁菜の内心を鮮やかに歌う。
 井芹仁菜はとにかくアグレッシブな人間だが、内には自己否定と不安を抱えている。監督の酒井和男はもしかしたら、彼女のようなアグレッシブだけれど大きな自己否定を抱える人間を描くことに長けた演出家なのかもしれない。『ラブライブ!サンシャイン!!』の高海千歌然り。わたしはそういうキャラクターが懸命に生きる物語に励まされ勇気づけられる。
 バンドとしてのトゲナシトゲアリは5人組で、キーボード担当がいる。キーボード担当のいるロックバンドは概ねよいバンドなのではないかと思う。この曲はとくにキーボードが楽しく響いており聴いていて嬉しい。歌詞においては「消えたくって羽ばたいて今/消えたくなくなった/摘み取って残したここでいつか華咲かせる/消えたかった私はもういない/消えなくてよかったな」というサビを聴いていると嬉しくなる。それぞれに苦しさを抱えていたトゲナシトゲアリの5人が出会えて本当によかった、という気持ちになる。
 現実においては、トゲナシトゲアリのメンバー二名(美怜さん、凪都さん)が体調不良から一年ほどステージに立てていない状況が続いている。25年4月にはアフレコには復帰したとのことで喜ばしい。若くキャリアも短いなか、あれだけ急速に人気を得れば身体にも相当な負担がかかるだろう。ゆっくり活動してほしいと思う。

 

■何故か今日は/Organic Call
ABEMA将棋チャンネル「ABEMAトーナメント2024」エンディングテーマ。オープニングテーマのHump Back『拝啓、少年よ』とともに、よくもこんな永瀬拓矢九段のイメソンというほかない曲を見つけてきたものだと思う。たぶん永瀬九段ご本人よりはセンチメンタルな曲だけど。
曲のつくりはわたしが青春時代に愛好していた90年代後半から2000年代のアメリカのパワーポップの音で嬉しくなってしまう。NineDaysとかSmashMouthとかを思い出す。ボーカルの聞き取りやすさもとてもよいと思う。
ここ数年、妻の影響で将棋界をゆるめに追いかけているが、2024年は特に永瀬九段の奮闘する姿が印象に強く残る年となった。不屈を絵に描いたようなストイックな棋士…とまとめるには藤井聡名人への愛が強すぎるところがまたよい。人間だなあと思う。間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』での言及もよかった。凄まじい努力の人で、わたしなんぞはその姿に影響されているなどというのもおこがましいが、でもやっぱりとても励まされる。

 

■Sometimes (Japanese Version)/Fly By Midnight、Sincere
Fly By MidnightはThe 1975フォロワーという感じなのだろうか。少なくともわたしはThe 1975を聴きまくっていたころYouTubeMusicにサジェストされて知った。しっかり濃厚な甘みがあるがべたべたしていないのが好きだ。この歌はぱきぱきした音が強めで、男女ふたりのボーカルが引き立っている。
別れた恋人と再会する痛みを歌っているようで、東京の夜の街なんぞを想像するが、こういう狭い範囲内の再会が頻発しそうな田舎でも成り立つ曲な気もする。100%おしゃれな人間じゃないと聴けない感じではないところが、わたしのヘビーローテーションに繋がったと言えそう。

 

■Run Back To You/LAY, Lauv
 Lauvは前から聴いていたが、この曲でコラボレーションしているLAYのことはまったく知らなかった。EXOという韓国のアイドルグループのメンバーとのこと。切なさと幸福感のある音はいつものLauvという感じ。2022年に大ヒットした"Left and Right"(Charlie Puth feat. Jung Kook)を思わせる座組と曲だなあと思いながら聴いてた。LAYの、高音だと少しだけかすれる感じのボーカルが耳に気持ちいい。Lauvの楽曲にとてもあう声だと思うのだが、現在は出身国の中国での活動が主体となっており、再びの共演は難しそう。

 

■월화수목금토일(All Day)/ONEW
 しばらくK-POPが続く。妻が初夏ごろからKPOPアイドルグループのSHINeeにはまり、それからというもの休日と平日の夜はえんえん茶の間でK-POPアイドルの動画を観る生活が続いている。
 オニュはSHINeeのリーダーで、声がよく歌がうまい。2024年に大手事務所から退社し、個人事務所を立ち上げオリジナリティのあふれるソロ活動を展開している。大手事務所のSMエンタテインメントにいたときからその歌唱力を活かしたすばらしいソロ楽曲をものしているものの、24年以降の活動はオーガニック&アコースティックよりの音楽性になっていて他のKPOPアーティストとは一線を画す。すばらしくよく伸びるボーカルにふさわしいスケール感もある一方で、常にカジュアルな憂鬱さをまとった歌詞にふさわしい親密さもあるこのバランス、自分はKPOP新参者なので言い切れないのだが相当に独自性が高くクールではないか。米BillboardのKPOP名曲・名盤リストにランクインしているのも納得。でももっと売れてもいいんじゃないでしょうか。同じ一週間の曜日ネタのジョンググ(BTS)feat.Latto "Seven"みたいに…とまではいかずとも。
 本作はサビで「月火水木金土日、毎日憂鬱…」と軽やかかつわずかな強迫感をもって歌う。オニュ氏はヘヴィな人生経験を経ており、現在の活動でも常にうっすらと諦念やいたたまれなさのようなものが漂う。それでもやっていくしかないね、という、からっとした明るさもあり、それらが前述のような独特の音楽性にも直結しているように思われる。

 

■Small girl(feat. D.O.)/Lee Young ji
 韓国はYoutubeが日本よりもさらに幅広い層に観られているらしく、だから年末のめちゃくちゃな戒厳令のような事態を招く過激な陰謀論も広く流布されてしまったりもするようだが、まあとにかくYoutube上では大量の韓国発の動画コンテンツを観ることができる。
 本作を歌うふたりも音楽より先にYoutube上で配信されているバラエティで知ったのだが、その一方でこの曲をYoutubeMusicのサジェストで聴いて気に入っていた。イ・ヨンジは雑めな料理でゲストをもてなす人(本職はラッパー)、D.O.ことド・ギョンスはめちゃくちゃ料理スキルが高い絵に書いたような好青年(本職はアイドルグループのEXO。前述のLAYと同じグループだ)…というのがそれぞれのわたしの第一印象。韓国のバラエティ番組は料理を核にしたものが多い。その影響で我が家も韓国料理をよく食べるようになったし酒はもっぱらチャミスルを飲むようになった。
  歌は、自分を「Big Girl」として卑下する女性と、ストレートに彼女のことを愛する男性の掛け合いで構成される。その歌詞をそのまま活かしてさわやかかつダイナミックに映像化したMVがすばらしい。ふたりのバラエティでの印象もそのままで、ちょっと雑だけどはにかむ姿がとにかくキュートなヨンジと、あまり目立たない外見のなかにパワフルな能力を持っているギョンスの魅力がいっぱいで、曲も彼らのことも一層好きになってしまう。

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 ギョンスの歌はとても甘く、MVのなかでヨンジを助ける姿はヒロイックだ。普通なら「こんな優しい男がいるか」と思いかねないし、実際ギョンスを知る前に歌を聴いていた時点ではそういう気持ちもないではなかった。しかしギョンスがバラエティ番組のなかで淡々と見事な料理の腕前を披露する姿などを見知ってから聴くと説得力が増している。ギョンスならきっと好きな人に対してこういうふうに優しく振る舞うのであろうなあ、と、これはこれで勝手な思い込みだが、思う。ギョンスはもともと料理の腕前が高かったが、兵役時代に調理兵として一層そのスキルを高めたらしい。争いのための社会の仕組みが、個人のケア能力の育成に役立つのは皮肉なものだなあと思ったりもする。どのように獲得されたものであっても、誰かを助けようとする姿は尊いし、救いは救いに違いない。

 

■WATERFALL/YOUNITE(ROAD TO KINGDOM ver)
SHINeeのテミンが司会を務める韓国のアイドルリアリティコンペティション番組Road to Kingdomでのステージ用音源。YOUNITEは同番組に出演していたアイドルグループ。番組中のステージ映像が公開されているのでこちらを観てほしい。

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Road to Kingdomは、デビュー後大ブレイクまではできていない中堅グループが集まり競争を繰り広げるというコンセプトだが、番組の作り手の倫理観が高く、過度にアイドルたちを追い込むつくりではなく、脱落条件も公正かつけっこうゆるめなのが新鮮だった。
このステージはYOUNITEのリーダー・ウンサンがかつて別のオーディション番組でデビューしながらも、自身と関係のない不祥事からグループ解散の憂き目にあい、その後YOUNITEの一員として再出発したという来歴を織り込んでいる。声を奪われた若者が新たな仲間に出会い、再起の出帆をとげるさまが流麗な演出で描かれる。その幸福感たるや。
そもそもこの楽曲は爽やかなサマーソングだと思うのだが、それをこういうゴージャスでクラシカルなミュージカル演出の活きるアレンジにしようとしたアイディアがすごい。船上のパーティを思わせるゴージャスさ、台車やダンサーをもちいて船出と見送る人を描くミニマルな表現など、随所の演出も的確でフレッシュ。クライマックスでお姫様抱っこされるもう一人のリーダー・ウンホもめちゃくちゃかわいい。
YOUNITEは決勝まで残り強い印象を残したが、優勝には至らなかった。また番組の出演アイドルによる合同ライブはなぜか中止され、ウンサンはつい最近健康上の理由から無期の活動休止に入ってしまった。直前にリリースされたYOUNITEのミニアルバムは90年代リバイバルなダンスミュージックを中心とした楽しい佳作だっただけに惜しい。


■DASH/NMIXX
NMIXXは、SHINeeのオニュが出演した音楽バラエティ番組Song Stealerで、メンバーふたり(ソリュン、リリー)がすばらしいSHINeeのカバーを披露していたのを観て知った。

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 NMIXXは、「ミックスポップ」と銘打ち、異なるふたつ以上のテイストを一つの曲に入れ込むというコンセプトをもつ。正直、無茶なことしてるなあというのが第一印象だったが、実際、現在のヒット曲の多くはそうした性質をもっており、コンセプトとして明示しているぶんNMIXXは謎の誠実さをたたえているように思われて好感が増す。基本的にはよほどうまく行っているものを除いてそういう急激なテイスト変化の構成の楽曲はあまり好まないので。
 メンバーたちの歌唱の力は無茶なコンセプトが背景に退くほどの圧をもっており、特に2024年リリースのEP『Fe3O4: BREAK』は良曲が多く本作をピックアップするまでにも非常に迷った。ミックスポップというコンセプトが、走る・歩くペースの比喩としても機能しているのが美しい。後半、どんどん積み上げられていく盛り上がりが、"mmm... I just wanna continue my pace."(んー、わたしは自分のペースで続けるわ)というのほほんとしたせりふでがらりと元に戻されるのがきもちいいしキュートだ。
ただしそうこうしているうち、NMIXXは翌2025年にさらなる大名曲を生み出してしまう。詳しくはまた来年書きたいと思います。

 

■360/Charli xcx
 かようにグループアイドル華やかなりしKPOPの風景に目が慣れていると、この人みたいに一人で世界の頂点に立つようなカリスマティックな活躍してる人すげえの気持ちとなる。コンパクトで力あるアルバムが大ヒット、そのうえアメリカ大統領選でも言及されて、いよいよガガやスウィフトらに並ぶようなお茶の間レベルの大スターになりつつある感じもする。一方その歌詞や音楽にはクラブシーンを中心とした文化を大量に取り込み作り変えていくコアな感覚もあるようで、そう簡単にお茶の間に降りてこないかもなという気もする。でもかつてのマドンナがお茶の間にすんなり受け入れられるようなマイルドな人物だったかといえばそんなこと全然ないわけで。これからまだまだすごいことしてくのだろうなと思う。

 

■HyperLoveSong/harmoe
 完璧な名曲だと思う。アルバム『radii』は山村響が提供した『twin's heart beat』など他にも名曲揃いだが、この曲の完璧具合は群を抜く。歌詞は中村彼方、作曲編曲はTomggg。大仰なタイトルと歌詞にまったく負けないスケール感のある音の響き。音の時間の経過を超え、一行ごとに悠久のときの流れを込めたような流麗さと、親密なふたりのおさない感情の双方を的確に表す歌詞。NMIXXのミックスポップと同じく、harmoeの童話をモチーフとする楽曲コンセプトには「無茶するなあ」と思ったこともあったが、もう今は毎回安心して観ていられるというか、必ずよい音楽が提示されてくるという信頼がある。『HyperLoveSong』には、光瀬龍萩尾望都の『百億の昼と千億の夜』みたいな、かつての日本の漫画・SFが志向していた壮大な物語叙述の流れを重ねてしまいたくもなる。なぜだろう…と思ったがたぶんわたしのなかで小泉萌香さんの美しさが時々広隆寺弥勒菩薩に重なっているからだと気づいた。線が細くて長くてその長さを少しだけ持て余している感じ。

 

■Hello(feat. Cwondo)/パソコン音楽クラブ
 体温低めの男性ボーカルのコンピュータミュージックはいくらあってもよいですよね、という気持ちを新たにした。RAM RIDERとか。なにか気持ちのよい音楽を聴きたい、でもあんまり心を乱されたくない、というときに最初に選んでいた。聴いたあと考えれば、音楽によって感情がしっかり動かされていると思うのだけど、その動揺が受容しやすい、という感触の楽曲だった。

 

■Russian Roulette/Porter Robinson
 ポーター・ロビンソンもパソコン音楽クラブと同様、わたしの好きな体温低めの男性ボーカルが映えるコンピュータミュージック…なのだけど、アルバム『SMILE! :D』はバンドサウンド寄りになり、さらにこんなふうに自身のもろさをやや乱暴にさらけ出す楽曲がシングルカットされて驚いた。
 腐るほどたくさんのポップスのなかで使われている銃を操作する音が、ここでは切実に響く。銃が簡単に入手できない国でわたしは、ここで描かれる銃による自殺のイメージを作り手よりも甘美に受け取ってしまっているかもしれない。
 わたしにとって最も身近な自殺の手段は、自分の乗る通勤電車である。この曲も通勤の途上、特に夜の帰宅中に多く聴いた。この曲は、わたしの身勝手な自殺への甘美なイメージを増幅させたが、一方で、終盤に連続して叩きつけられる「それでも生きたい」という訴えが自宅まで無事にたどり着く支えになっていた。最後の最後で挿入されるシニカルな楽曲解説のナレーションのキュートだし、その無味乾燥なナレーションの声が語りかける「自分のことをバカだなんで言うなよ」という言葉にも心底勇気づけられた。

 

■リトライ/Galileo Galilei
 ジャック・アントノフがプロデュースしたThe 1975の影響を強く受けているんだろうな…という印象は決して拭えないのだが、個人的には、佐野元春の初期楽曲のことを思い出す。みな70年代の英米のロックを参照しているからだろうし、佐野元春とGGはいずれも日本語の歌詞がすばらしいのだと思う。GGはこれだけ大量の楽曲をリリースしながら、しかも濃密に英米の音楽の影響を受けながらも、英語歌詞なしでやりきっているのだからすごい。

 

■Ever Seen/beabadoobee
 お前どんだけDirty Hit(The 1975が所属する音楽レーベル)が好きなんだよ…と我ながら思う。いや言うほどたくさん同レーベルのアーティストをチェックできているわけでもないのだけど。
 彼はいままで見たなかでいちばんかわいい目をしてる、とピュアな感情を、ちゃんとピュアに聴こえる音の歌にしているのが偉いと思う。狙いすぎず外しすぎず、Dirty Hitっぽい人工的で工業的な感覚もありつつ、という感じ。

 

■Honor Your Goals/Petit Biscuit
 前知識なしに年末に知って聴いてた。あんたの目標を誇れよ、という歌なのだろうか。その後いろいろ聴いていると、Petit Biscuitという人はもっとダンスミュージック寄りでこういうボーカル曲は少ないのかもしれない。ざっと歌詞を見た感じ、新自由主義っぽいというか自己啓発っぽいというか、通常なら避けて通りたい価値観があるように思われる(誤読の可能性も高い)。まあ自分が聴いてる欧米の軽めの男性アーティストによるダンスミュージックの歌詞ってだいたいそういう感じなのだし、わたしはそういう適度なエモーショナルの載った軽いアッパーさがないと生きていけないのだろう。『ラブライブ!』もそうだろうと言われたらそうですし。
 そういうやや複雑な気持ちをいただきつつやっぱりたくさん聴いている。

 

■大航海/ヒグチアイ
 船出をテーマにした曲は自然とAqoursのことを思い出してしまう。特にフィナーレライブ決定以後はそうだ。昔からそういう楽曲を集めたプレイリストを作っていて、この曲も入れた。
 船出をテーマにしつつも自分自信は船出なんてできない、船出していく人間を眺めることしかできない、とずっと思っている。『大航海』は、エネルギッシュで、船出する人じしんが歌っているのであろうと思われるが、とはいえどこか満ち足りていない、理想に至っていないという諦念がずっと響いており、わたしが繰り返し聴いても自己否定に繋がらない珍しいバランスの船出の歌だ。

 

■太陽/ヨルシカ
 この曲を聴いたのが先立ったのか、映画『正体』の予告編を観たのが先だったのか記憶はあいまいだ。24年後半は自分でも意外な重さで『正体』とこの曲にはまっていった。ロードショーも終盤にさしかかったころに『正体』を遠くの映画館まで出かけて観て、映画館の音響でこの曲を聴けたことは2024年の幸福な思い出である。あのとき食べたそばと日本酒もおいしかった。
『正体』は、ある青年が社会の隅をさまよい歩きながら幾人かの人生に深く触れ、それを変えていく物語である。寂寥感の濃厚な歌詞の本曲は、原作小説の苦い展開にこそふさわしいという気もするが、寂しさのなかでも確かな足取りを感じさせる音作りは映画の希望ある展開にも沿っていると思う。
 『正体』で描かれるある巨大な社会問題はいまだ解決の糸目が見えない。個々の事件は解決しても、この社会問題を生み出す日本の司法の構造は変わっていない。そのことを考えると、『太陽』を聴いて感傷に浸っているだけにとどまっていられないなという気持ちになる。日本の司法がより開かれたものになっていくことを強く願うし、それを進めようとしている政治家や研究者たちを支持したいと思う。

 

■離れないで/斉藤 朱夏
 2024年、明らかに一番多く聴いた楽曲だと思う。文字通り何度聴いても飽きない。大傑作というほかない。
 作詞は703号室、作曲は星銀乃丈。星銀乃丈は「アニソン派!楽曲アワード2023」で山村響『Maybe Happy Lucky 人生』に「恐るべし声優クリエイター賞」を贈ってくれた人である*1。意識して聴くと、Maybe~から通ずるものがしっかりある。最近は声優アーティストの楽曲を聴くとき可能な限り事前にクリエイター情報を確認せずに聴くようにしている。好きな人が関わっていると知っていたらどうしてもバイアスがかかる。件の経緯が頭にあるから、この『離れないで』も星銀乃丈作曲だと知っていたらどうしたって好きにならざるを得なかったが、わたしは事前情報なしで聴いても好きになれた。そういうことがうれしいのである。
 歌詞は普遍的で誰でも身につまされる自意識と好意のせめぎあいを描く。斉藤朱夏さんの、ファンには自分のことだけを好きでいてほしい、という本心を持て余していることを反映させた歌詞でもあるようだ。そんなん斉藤さんに思われたら嬉しすぎるだろう。斉藤朱夏さんほどの人でも、そういう、ファンへの遠慮や臆病さみたいなものがあるのかと驚く。
 斉藤朱夏さんのソロ楽曲は、ハヤシケイによる基本的には快活さのある楽曲が中心だったという印象だが、本作では、今までその快活さのなかでいわば隠せてない隠し味といった塩梅で顔をみせていた斉藤さんのもつさみしい雰囲気が全面的に活かされている。淡々と進んでいくうち、最後の最後でパワフルなボーカルが一点突破的に披露されるのもすばらしい。

 

■She Put Sunshine/Jacob Collier
 今年の『ラブライブ!サンシャイン!!』枠。といってもなにがなんだかわからないと思うのですが、昨年から新設された、「好きで聴いてたらたまたま歌詞やタイトルのなかで「サンシャイン」「太陽」に関することを歌っていた」曲です。
 ジェイコブ・コリアーはアルバム『Djesse Vol. 4』で初めて知って衝撃を受けた。わたしのような音楽の教養のない人間でも、すさまじい才知を持った人なのであろうなということが1秒1秒ごとに伝わってくる。その一方で信頼できる再現のないぼんくら具合というか、自分の好きな楽しい音楽のために前のめりな感覚もあって愛らしい。
 本作の歌詞もリズムもひたすら気持ちいい。ギターの音も時計の音もキーボードの打鍵音もみな平等にポップミュージックに奉仕させられている。「彼女はわたしの開いた口に太陽を突っ込んでくる」なんてあたりの歌詞はとてもキュート。ここでいう彼女は、アグレッシブな恋人や友人のイメージでもあるし、SNSの時代の猛スピードの文化のイメージもある。
 自分にとって『ラブライブ!サンシャイン!!』の受容はTwitterとブログなしにはありえず、そういう意味でも本作はまごうかたなき『ラブライブ!サンシャイン!!』枠の名作なのであった。

 

■Run to It/Julius Rodriguez
 斉藤朱夏『離さないで』が一番聴いてたシングルなら、一番聴いてたアルバムはジュリアス・ロドリゲスの"Evergreen"だったと思う。前作よりちょっと野暮ったいというか、クラシックで普通な感じの楽しいジャズ楽曲が多い。ジャンルをなんと表現すればよいのかわからないが、ここ数年折に触れて繰り返し聴いているダニー・エルフマンの『ミッドナイト・ラン』サウンドトラックの雰囲気にもちょっと通じるものがある。こういう明るいインストゥルメンタルを繰り返し聴いているのって自分としては珍しい。仕事中はたいてい重苦しくはりつめたサントラばかり聴いているので。

 

 ここまではしばしで書いてきた通り、2024年は2023年より一層重く苦しい一年だった。25年の5月くらいまでずっとそれが続いていた。この文章を書いていた半年間、自己否定のピークを迎えて、最近ようやくおさまってきた。仕事も少しだけ軽くなった。
 全肯定できるわけではないが、「全否定するまでもないな」と常々思えたのは、ジュリアス・ロドリゲスの音楽のおかげと言っても過言ではない。ほかの音楽もそうだけど、特に彼の"Evergreen"にはずっと助けられた。

 

 その彼が、25年の春、NMIXXに楽曲を提供した。大名曲"High Horse"である。大好きなアーティストたちが組んですばらしい作品をものしているところに立ち会えることほど、音楽の受け手として嬉しいことはない。何度もそうした幸運を欲しがるのは贅沢だろうけど、これからもまたそういう幸運に立ち会えたらいいなと思う。

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以上、2024年に聴いてたいい音楽、全25曲のことを書きました。
楽曲の選定にあたっては、2024年にリリースされた楽曲・アルバムから選ぶ、という条件をつけました。23年以前発表の再録もあるかも。
Youtube Musicでのプレイリストはこちら。

music.youtube.com

 

以下楽曲リスト。きれいに25曲選べてよかった。

永久hours/Aqours
今夜だけはワタシが一番♡/山村響
Flutter Bond(feat. 高槻かなこ)/Tonal
わたしは知ってる/山根綺
Love Me/花澤香菜
運命の華/トゲナシトゲアリ
何故か今日は/Organic Call
Sometimes (Japanese Version)/Fly By Midnight、Sincere
Run Back To You/LAY, Lauv
월화수목금토일(All Day)/ONEW
Small girl(feat. D.O.)/Lee Young ji
WATERFALL/YOUNITE(ROAD TO KINGDOM ver)
DASH/NMIXX
360/Charli xcx
HyperLoveSong/harmoe
Hello(feat. Cwondo)/パソコン音楽クラブ
Russian Roulette/Porter Robinson
リトライ/Galileo Galilei
Ever Seen/beabadoobee
Honor Your Goals/Petit Biscuit
大航海/ヒグチアイ
太陽/ヨルシカ
離れないで/斉藤 朱夏
She Put Sunshine/Jacob Collier
Run to It/Julius Rodriguez