こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

パレスチナ

パレスチナ

パレスチナ

 90年代、長期間パレスチナに滞在した著者によるノンフィクションコミックス。イスラエルとの衝突に苦しみ、また一方で日々の暮しを淡々と送る人々の姿が描かれる。

 翻訳をした小野耕世も言っている通り、描く対象との距離の取り方が素晴らしい。
 悲劇をストレートに盛り上げるような作劇を行えば、もっと売れるだろうに。パレスチナの人々に取材するうち、同じような「悲劇」の繰り返しにうんざりする自分、さらにはイスラエルに戻って西欧的生活を謳歌し、女性の機嫌取りをする自分すら描いてしまう率直さ。
 次のように締めくくられるサイードの序文も納得の、傑作だ。

サッコの作品は、私たちが耐えきれずに、キャッチ・フレーズや嘆かわしくも見えすいた勝利と充足の物語に傾いていくことがないようにしてくれる。そしてこれこそが、恐らく彼の最大の功績なのである。