エンタテイメント小説や映画における暗殺、特に遠距離狙撃によるそれは、男の性交・射精の暗喩だ。
射精するのがもちろん重要だけれど、それに至る過程がもっと重要なのである。その部分こそが暗殺娯楽小説や映画の肝であり、それを面白いと思ってしまうのは男の性なのである。本能の顕れなんである。
……たぶん。
で、これです。
- 作者: フレデリック・フォーサイス,篠原慎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1979/06/10
- メディア: 文庫
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フランス大統領ドゴールを狙う謎の暗殺者ジャッカルと、彼を追うフランス警察ルベル警視の対決を534ページ(角川文庫版)にわたって緻密に描き出す大暗殺スペクタクル。
全体は三部構成になっており、第一部「陰謀の解剖学」ではジャッカルがフランスの過激派に依頼され、計画を立案し準備を整えるまで、第二部「追跡の解剖学」ではルベルが追跡を開始するもジャッカルがパリに到達するまで、をそれぞれ描く。第三部「暗殺の解剖学」はもちろん、パリで遂に相まみえるルベルとジャッカルの対決を描く。
で、この三部のなかでどこが一番面白いかというと、第一部から第二部にかけてなのだ。
物語の盛り上がりとしては第三部に頂点があるのだけれど、それは二人の対決という派手な展開があるから当然といえば当然のこと。淡々とジャッカルが暗殺の準備をし、膨大な情報をかきわけてルベルが地道に追跡するという、単調といえば単調な展開しかないにもかかわらず、第一部・第二部は第三部と同じ程度のリーダビリティを持っている。
これはもちろん、著者フォーサイスが徹底的に緻密に作りあげた暗殺計画のリアルさや、ジャッカルとルベルのヒーロー性などにも拠るのだろう。けれども、それだけでは到底この面白さは説明し尽くせない。冒頭にあげたような、生理的な面白さのメカニズムでも妄想していないと、この面白さは片づかないように思うのだった。
ところで、90年代アクション映画で育った男としては、ジャッカルと言えばブルース・ウィリスの『ジャッカル』。公開前後から「駄作」「『ジャッカルの日』とは全くの別物」というような評価ばかりで、公開されても金だけかけたハリウッドのダメアクションという雰囲気が漂っていたあの映画、確かに実際底抜け超大作の感はあるけれど、ジャック・ブラックも出ているし(かなり虚しい役で)、リチャード・ギアのアイルランド闘士もそんなに悪くないし、結構面白いんじゃね?……などとむかしは思っていた。
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
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……すみませんでした。『ジャッカルの日』を読んではっきりとわかった。これじゃフォーサイスも怒るよ。(未見だけど)最初に映画化したジンネマン監督も怒るよ*1。反省して、そのうち映画版『ジャッカルの日』も観ておきたい。
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