こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

ノーランの魂百まで『フォロウィング』

フォロウィング [DVD]

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 尾行を趣味とする男の破滅を描く、クリストファー・ノーランのデビュー作。平日は定職に就きながら、毎週土曜日を撮影にあて、一年間かけて完成させたという。撮影はモノクロフィルムで行われており、内容はシンプルな犯罪劇で、登場人物、舞台も必要最低限。上映時間も70分と、非常にコンパクトな作品である。その後、しばしば冗長になってしまうノーランの演出を考えると、このくらいの制限がそれらの作品にもあれば...と思わないでもない。
 物語の構造としては『メメント』とほとんど同じであり、個人的にはやや冗長な印象を受ける『メメント』よりこちらのほうがすぐれているように感じる。『メメント』は記憶喪失の男が正義を執行するとどうなるか、という倫理的なテーマがあるにも関わらず、時制の混乱にこだわった演出がそのテーマの掘り下げを阻害していたように思う。ノーランは『フォロウィング』を自身の好むフィルム・ノワール風に作ったと述べており*1、その特徴を「限られた登場人物の行動と関係性だけで物語を語り、心理描写をしない」としている。『メメント』はたしかに斬新な手法で主人公の心理を描いてはいたが、フィルム・ノワール的な語り方のスマートさには欠けていたように思うのだ。
メメント [DVD]

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 『メメント』に限らず、「圧倒的な何かに支配された主人公が右往左往したうえに破滅する」というこの映画の骨子は、その後のノーランの全作品に共通して見られる*2。『ダークナイト』公開時、フィルムノワール風との評が多かったが、前述のインタビューを参照すればその趣向も当然だったと思える。『ダークナイト』の原点として、再確認しておきたい佳作である。
ダークナイト 特別版 [DVD]

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 それにしても、冗長さが見え隠れするとはいえ、ノーランのフィルモグラフィーは驚異的といえる。『フォロウィング』が99年の作品で、その後『メメント』『インソムニア』『バットマン・ビギンズ』『プレステージ』そして『ダークナイト』を10年弱の間に立て続けに撮っているのだ。2010年の新作"Inception"が今から楽しみである。
インソムニア [DVD]

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バットマン ビギンズ [DVD]

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*1:フォロウィング』DVD所収インタビューにて。

*2:唯一、主人公が破滅しないのが『バットマン・ビギンズ』。