こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

心つかまれてきたよ!『ハートキャッチプリキュア 花の都でファッションショー…ですか!?』

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 なぜプリキュアたちがパリに出かけているかの説明をばっさり省いて潔く物語をスタートさせた映画にならって、前置きはしません!

 まず冒頭、タイトルまでのカットがすばらしい。カメラが高速移動し、はしゃぐつぼみたちにはじまり、サラマンダー男爵とオリヴィエを、パリ各地の名所をバックにしつつワンカットでとらえる。観光映画としてのわくわく感を伝え、それぞれのキャラの姿を印象づけ、またサラマンダーとオリヴィエが単純な敵対者ではなく、プリキュアたちとこの街で人と人との関係を形づくるであろう人物だという予感さえも醸しだす。そしてなにより、そのカメラの動きがむちゃくちゃ気持ちいい! パリつながりで思い出したんだけど、ディズニーの『ノートルダムの鐘』の冒頭でも奥行きをもつ街の風景をカメラが移動していくカットがあって、2Dアニメでこれをやられるのが自分はとにかく好きなんだなあ。あるいは『ムーラン・ルージュ』のすごく書き割りっぽいパリの街とか。ぜんぶ虚構です!でも(だからこそ)この街は映画の舞台としていま確かに存在する!という高らかな宣言。
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 その街を縦横無尽に移動して展開する前半のアクションつるべ打ちだけでもう十二分に心は満たされるわけですが、中盤のオリヴィエとプリキュアたちの交流、サラマンダー男爵とオリヴィエの回想など、展開が実に整っていて、「お、おれはいま大変すばらしいものを観ている!」という幸福感は絶頂に至り、そしてクライマックスまでひたすら続くアクションとスペクタクルに、全身がしびれました。もう最高だよ。
 アクションと書いたけれど、この映画での格闘は、身体だけでなく、言葉でのアクションともセットになっていた。もともとプリキュアが行う戦いというのは、相手の心を言葉なり必殺技なりで浄化することなのでこれは当然の構造なんだけど、今回の映画版では特にその傾向が強かったと思う*3。そして、プリキュアたちの言葉はそれまでのシリーズを観てきた者は涙なしには聞けない重みのあるものばかりなんだよな..。とくに、えりか様の「つぼみはずいぶん変わったんだよー。でも..一番いいとこは最初っから変わんないな..」というちょうぜつ甘々できゅんきゅんするセリフと、ゆり先輩の身を振り絞るような説教、そしてもちろんオリヴィエの懸命の叫びには鳥肌が立ちました。脚本熟読させてください。
 その言葉の戦いを支えるのは、TVシリーズに増して役に馴染んだように思える声優さんたちの演技。オリヴィエ役の大谷育江、サラマンダー男爵役の藤原啓治のふたりも、それぞれのキャラクターを存分に生かしていたと思います。ネタバレになるので詳説しないけど、そりゃこの二人がこういう役やったら、こちらとしちゃ心もってかれちゃいますよ!

 えーとえーと、あとはですね、とにかくすべての点に言及したいので順番にいきます。
 アクションについて。フランスだからバルクール...とまではいかないまでも、開始早々のオリヴィエの屋根伝いアクションがまずはいい。パリって低い屋根のたてものが延々つづいているから、ああいうアクションシーンができちゃうんだよなあ。テレビシリーズでは武道の使い手として気をはいているキュアサンシャインのアクションは今回は控えめだったものの、その分キュアマリンキュアムーンライトの格闘が非常に印象に残った。キュアマリンは彼女の性格が伝わるような派手な技の繰り出し、ムーンライトは攻撃重視のストリートファイト流という感じ*4。オリヴィエの野生っぽい身のこなしもすごくいい作画で、これは絵を描いている人たちがもともと凄まじい腕を持っているのか、殺陣師がついているのか、はたまた実写映像をもとにしているのか?アクション映画ファンとしてすごく気になります。
 それからファッション。パリに殴りこむからにはとうぜんそれなりのかわいさを見せてくれるんだろうね!と思っていたわけですが、まあそこそこふつーのかわいさでした。アパルトマンで服の制作にはげむくだりのえりか様がずば抜けてかわいかったのは、髪をあげていたからかなあ。でもTVシリーズよりかわいいことは確かだったし、つぼみやゆり先輩のジャケットの肩とか、デザインだけじゃなくて細部がきちんとかわいくなってるのはいいなあと思った。
 ていうか、そういうかわいさはとりあえず措いておいて、前述のとおり、オリヴィエとサラマンダーのふたりに自らの想いを伝えようとするプリキュアのひとたちは、みなちょっと大人っぽく、魅力ある女の子に見えるのだ。表情がすごくいいし、行動からも情感が伝わってくる。仮縫いの服を着たつぼみが、オリヴィエを思って動いちゃって針がささるくだりとか、あ、もうシリーズ序盤の頼りない子じゃないんだ、人のためを思って自らの身は顧みずどんどん行動しちゃう、ときには包容力すら感じさせちゃうまでのひとになったんだなあ、とかしみじみ思ってしまいましたよ。
 あ、こういうことばかりだと、TVシリーズファンのための超内輪的おもてなしだけな映画と思われそうなので言っておきますけど、サラマンダー男爵の独白と彼に対応するプリキュアさんたちの呼応は、80年代うまれのおたく男子(子供なし)としては涙せざるを得なかったですよ! 「どうせ世界は自分を受け入れてくれない」「人とわかりあいたいのにみんな厳しい」「どうせ自分の命運なんてすぐ尽きるし」「だから世界なんて終わっちゃえばいい」っていう、ぼくみたいな男が抱える馬鹿げた(でも辛いんだって!)破壊願望を、真正面から全力で打ち返されました。
 TVシリーズの視聴時にもなんども言ってることだけど、プリキュアを観ると、心が奮い立ち、全力で生きてやろう、なすべきことをしようという気持ちに満たされるんだよなあ。今回は悪役が自分に親しい動機を抱えていることもあって、よりその力が強まったのでしょう*5
 というわけで、未見のみなさんはできればTVシリーズをチェックした上で観てね、という口上をつけたうえで、ぼくはぼくの感想を大声で叫びますよ。ぼくはこの映画が心から好きだよ!

*1:この予告、本編にないシーンがずいぶんたくさんあるなあ。最後の墓場でのアクションは特に見たかった..。

*2:この予告だと、0:40ごろに入っていますね。

*3:子供向け映画で会話とアクションを別々にやっていたら、時間が長くなってしまうし。

*4:感じ方には個人差がありますよもちろん!

*5:あ、それって先日の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の仮託してる問題とどう差があるの?同じ穴の狢じゃん?というつっこみにはいつかなんとか対応したいと思います。できれば。