こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

THINK ON YOUR SINS/スカイフォール予習

 この15年ほどのスパイ・フィクションの歴史を振り返るとき、そこには時代ごとに人びとが背負った/背負いたがった「罪」を概観することができる。スパイが活躍した(すべきだった)事件や場所、時代の空気が告発され、観客たちに「罪」を見せつける。
 なぜ世界はあの事件を止められなかったのか。
 なぜ戦争は続くのか。
 劇中のスパイたちは、観客の代わりにそうした時代の罪を背負い、罪を晴らす。
 罪というのは難儀なものです。苦くもあり甘くもある。お前は罪を背負っている、という宣告は、人に重荷を背負わせると同時に、ある種の居場所を提供し、魅惑的な停滞のなかで安穏と過ごすことをも可能にする。
 罪を劇中で代わりに晴らしてもらうなんて、あらためて考えてみれば実に現実逃避で甘ったれた行為であって、そうそう褒められたものではありません。
 でも、人というものは、そういうフィクションを必要とする。

 『007/スカイフォール』の監督サム・メンデスが過去の作品で描いてきたのは、幻想(フィクション)を追いかけて破滅する生活人たちのドラマです。今回は過去作とはまったくジャンルの異なる映画へのチャレンジをしているわけですが、彼はフィクションに求められるものを知悉しているわけで、さらに物語の中心にMの「罪」があることを考えれば、実に自然なことなのかもしれません。

 念のため付け加えておくと、サム・メンデスはすでに第一作『アメリカン・ビューティー』において、主人公の中年男に「今晩は出かけたくないんだよなあ。テレビで『007』の新作やるんだよ」という発言をさせています。この人は、どんな男が『007』を求めているか実によくわかっている。かれが監督をつとめるのは非常に筋の通ったことです。