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こづかい三万円の日々

30代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

スティフラーは偉大なり『アメリカン・パイパイパイ!完結編 俺たちの同騒会』

映画

ぼくは家族の名を汚している。
スティフラーはわが名...わが遺産、わが呪い。
――エリック・スティフラー

『アメパイ』は『スター・ウォーズ』にも比する壮大なサーガなのである!
――長谷川町蔵*1

 1999年のシリーズ第一作『アメリカン・パイ』から十数年。高校生だった主人公たちは年をとり、いまや30代の前半。妻子ある身となった者、芸能人になった者、放浪生活を送る者...。それぞれの事情を抱えつつ、彼らは同窓会のために故郷に集まることとなります。
 「アメパイ」シリーズはすでに三作目『アメリカン・ウェディング』において、ある程度の完結をみています。主人公ジム(ジェイソン・ビッグス)と恋人ミシェル(アリソン・ハニガン)の結婚を描いた同作は、三部作の最後にふさわしいものだったから、その屋上屋を架すようにまた新作を作る意味があるのか、ファンとしては少々心配だったというのが正直なところ。

 結果からすれば、リブートによって新たなファンを掴むこと、あるいは独立した一本の映画としての完成度といった点からみると、『アメリカン・パイパイパイ』はさほど上出来ではない。
 それでもぼくはこの映画が傑作だと思うのです。

 アメパイシリーズにおいては、ジェイソン・ビッグス演じるジムたちを主人公とした三部作(以後「ジム三部作」と呼称)ののち、スピンオフとしてDVD作品が作られています。


 スピンオフの一本目『アメリカン・パイ in バンド合宿』の主人公は、ジム三部作でショーン・ウィリアム・スコットが演じ、一大人気キャラとなったスティーヴ・スティフラーの弟、マット(ダッド・ヒルゲンブリンク)。ジム三部作ではケイシー・アフレックが演じ、兄以上にイライラさせられるイヤなガキだったアイツであります。彼もまた兄並みのお騒がせ者で、周囲の迷惑を意に介さず、主に下ネタ中心の悪戯を巻き起こし続ける。パーティでは場の主役、ジョックス仲間とつるむ兄を見て育っているから当然なのですが、悪戯の罰として参加させられたブラスバンドの合宿で出会った友人たちに、「お前、自分の兄ちゃんが本当にみんなに好かれてたと思ってたの?」と言われるに至ってようやく、自分と兄の視界の狭さに気付く。しかしそれでもスティフラー家の男、簡単にマジメ人間になるわけではありません。彼は自分の罪を贖うべく、彼なりのお騒がせなやり方で音楽家志望の幼なじみを助けようとします――。


 スピンオフ二作目『in ハレンチマラソン大会』の主人公は、スティフラーの従兄弟エリック(ジョン・ホワイト)。しかし前作のマットとは正反対で、悪戯もせず、セックスも奥手なタイプ。同学年の彼女トレイシーがいるものの、いまだにプラトニックな状態。代々浮かれたお調子者として名を馳せるスティフラー一族なのに、いまだ童貞とは! 自分の殻を破るべく、大学一のパーティ野郎として君臨する年上の従兄弟ドワイト・スティフラー(スティーヴ・タリー)のもとへ遊びに行くことに――。
 続く『in ハレンチ課外授業』も引き続きエリックが主人公で、かように、スティーヴをはじめとするスティフラー一家の物語は、バカバカしくも長大なサーガを形成していたのですね。しかも、マットやエリックは家の伝統と自分の性格や現実との間で立派に苦悩している。
 まあぼくがたまたま最近フォークナーの『アブサロム、アブサロム!』を読んでいたからそう感じるっていうだけかもしれませんが、軽薄ながらもアメパイもまた、スティフラー一族の男たちを何作にもわたって描き、神話や寓話めいた物語の強さ、メッセージ性を得るにいたっています。

アブサロム、アブサロム! (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-9)

アブサロム、アブサロム! (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-9)

 冒頭で引いた長谷川町蔵の指摘するアメパイのサーガ性は、ジムとその父を主軸とした、成長する一人のちょいマジメなボンクラ男子のそれですが、『アメリカン・パイパイパイ』において、ジム=マジメボンクラ男子のサーガと、スティフラー=軽薄なパーティ野郎のサーガがついに交錯します*2
 同窓会という非日常のなか、若い女の子に振り回されたり、昔の彼女と今の彼女の間でフラフラしたり...とジムやケヴィン(トーマス・イアン・ニコラス)たちは右往左往。それでも彼らは、真に愛するもの、守るべきものを見出し、日常へと戻っていきます。
 ではスティフラーは? 彼もまた、地に足ついた日常に戻るのか?
 実は彼、いちおう金持ちの母親と同居しているのでさほど困窮してはいないものの、非正規雇用の秘書職についています。かつてのような羽目を外したスティフラーも、30代になればしがない働くおっさんなのか...と寂しい気持ちになるわけですが、映画の最後で彼は、やはりスティフラーにしか選び取れない道を選択することになります。それも友人たちのために。

 この結末によって、観客はついに、人気キャラ・スティフラーの真髄を知ることになる。クラスに一人は必ずいる、スティフラー的なあいつ。体育会系で雑で粗っぽくて、ウザかったり乱暴者だったりで苦手なときもあるのに、それでもやっぱりクラスに一人はいてほしい、あいつ。ぼくはなぜ彼が必要なのか。
 家族も仕事もあるジムたちにはできず、風来坊の自分には可能なその「役」を選ぶ彼は、まるで社会のルールを越えて正義をなそうとするダークヒーローのようです。あるいはトリックスターと言ってもいい。いわば、彼は日本における寅さんなのです。

 映画自体は非常に軽い雰囲気なので、『ダークナイト』の最後のように英雄スティフラーがかっこうよく去るなんてことは全くありませんが、そういう感慨をくだらない話のなかできちんと成立させるところに、作り手の技術と愛をばっちり感じることのできる映画です。

 スティフラーの次にぐっときたのはエディ・ケイ・トーマス演じるフィンチくんで、世界を旅してきた大人っぽい彼の事情もまた泣かせられます。
 他にも、ラストのパーティシーンに向けてちゃんとかわいく描かれていくヒロインたち、スティフラーのママ(ジェニファー・クーリッジ)だけに終わらないMILF要素、そしてそのMILFを鍵に描かれる「アイツら」の友情...とまあ、細部の豊かさを語りだすと止まりません。
 10年以上の時間を経て、同じキャストで新しい映画が作られる、コメディ・シリーズの幸福をばっちり映画館で味わえた、2013年で一番楽しかった映画なのでした。

アメリカン・パイ(無審査特別版) [DVD]

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*1:山崎まどか共著・国書刊行会『ハイスクールU.S.A.』より。名著!http://www.amazon.co.jp/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%ABU-S-A-%E2%80%95%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%AD%A6%E5%9C%92%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%81%AE%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%A6-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D-%E7%94%BA%E8%94%B5/dp/4336047480

*2:『アメリカン・ウェディング』でも一度交わっているわけですけど、確かあれはスティフラーがちょっと改心する話なので、あくまでジムのために奉仕している感じなんですよね...実は今回観返していないので曖昧ですごめんなさい...。