- 作者: ジェイムズグレイディ,James Grady,池央耿
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1994/12
- メディア: 文庫
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次に邦訳がなされた本作『凶弾』は、長編六作目にあたる。翻訳発売は1994年。『コンドルの六日間』から19年も経過している。
あらすじ:
ボルティモアの街中で、4人の人間が射殺される殺人事件が発生した。明らかに手慣れた暗殺者による見事な犯行。新任警部補ロークは、目撃者レイチェルを保護し、困難な秘密捜査を開始した。
こちらは『コンドルの六日間』とはまったく異なる、警察小説だ。
若く女性にももてるロークが、犠牲者たちと遺族の隠された人生、そして暗殺者を影で操る首謀者の思惑をじわりじわりと解き明かしていく。
冒頭の射殺事件の緻密かつクールな描写は、リー・チャイルド『アウトロー』、またその映画版を思い出させる迫真性がある。
捜査が進むにつれ発生する、暗殺者と警官やレイチェルたちとのアクションも、短いながら鮮烈な印象を残す。『コンドルの六日間』同様、歯切れよく鮮烈に、かつ痛みのあるアクション場面が楽しめる。
事件じたいの推移も読みどころだが、最も分量が割かれるのはボルティモアに生き、あるいは事件の被害者として死んでいった人々の描写だ。文庫にして600ページ超。被害者の仕事や人生が、これでもかと細やかに描かれる。自分のほんとうの気持ちを隠し、日々の生活を営んでいた犠牲者たちの人生をときあかすことで、警部補ロークや、目撃者レイチェルたちもまた自分の人生に向き合っていく。父親の威光で巡査部長になったものの、役立たずと馬鹿にされている警官ダックと、各地を転々と放浪してきた根なし草のレイチェルがつかの間心を通い合わせていくくだりは、なんともフレッシュで愛らしい。