こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

映画公開&Tridentライブ記念『蒼き鋼のアルペジオ』キャラソン総まくりレビュー

 『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』*1の劇場版第二弾*2がいよいよ公開されます。めでたい。
 同作発の声優ユニットTridentのセカンドライブも開催されます。めでたい!
 Tridentの2ndミニアルバム、そしてキャラソンのアルバムも発売されました。めでたい!!
 これにあわせて私の音楽プレイヤーでももっぱら同作のキャラソンをヘビロテしておりますので、今日はそれらの楽曲のすばらしさ、そして曲を入り口にアニメじたいの魅力も語ってみたいなと思います。

 すべての楽曲を語ることはできないので、現在CDのかたちでかんたんに購入できる5タイトル(うち一枚だけシングル)から、三曲ずつピックアップしました。
 なお、『蒼き鋼のアルペジオ』発のユニット・Tridentについては、「「不仲」だからこその輝き/Trident 1st Solo Live レポート」*3という記事を書いています。こちらもあわせて読んでいただければ嬉しいです。

♪♪♪

■シングル『ブルー・フィールド』

TVアニメーション「蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-」EDテーマ::ブルー・フィールド

TVアニメーション「蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-」EDテーマ::ブルー・フィールド

 2013年10月発売。

・Trident『ブルー・フィールド』
(作詞・作曲・編曲:Heart's Cry)

 記念すべきTridentの最初の楽曲。もちろん歌うのは、Tridentこと渕上舞さん・沼倉愛美さん・山村響さんの三人です。
 三人の声はまだちょっとかたいような印象があって、個々の声がそれぞれに「ある」という感じ。三人の各ソロパートでも、各自のそのままの個性が素のままに目立ってしまっているな、という部分がいくつかあります。それでも、そのかたさ・ぎこちなさはテクノポップな曲調にむしろ適しているとも言えますし、またキャラソンとしては、人間ではないメンタルモデルの無機質さの表現にも貢献しているように思います。
 クールだけどポップ、ポップだけどクール。絶妙なバランスを取ることに成功したこの曲は、テレビシリーズのエンディング曲として使われました。クオリティが高く、また爽快感のあるこの一曲が、本編鑑賞後の満足度をさらに一段引き上げています。敵の正体など、基本的なところでの謎が非常に多い『蒼き鋼のアルペジオ』が抱える構造上やむを得ない閉塞感に、作品内の主人公・群像くんが言うように「風穴をあける」ことに成功した名曲です。
 15年3月の1stライブでは、一曲目とアンコール最終曲として歌われました。サビ前の「All I See!(おーらいしー!)」をみんなで一緒に歌うのがまた楽しいんだなあ。

・Trident『Innocent Blue』
(作詞・作曲:fu_mou 編曲:甲田雅人)
 一曲目と打って変わって、穏やかなバラード曲。編曲にはアニメの劇伴を担当した甲田雅人さんが参加しています。
 明るく優しい曲なのですが、テレビシリーズの放映時は悲しい展開の話のエンディングとして使われたことが多いように思います。悲劇に直面して傷ついた劇中の人々を癒やすように鳴っていた、という印象。
 1stライブでは、渕上舞さんが最後のソロパートで感極まってしまう一幕がきわめて強い印象を残すことになりました。

■「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」“Blue Field”キャラクターSongs Vol.1

蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-「Blue Field」キャラクターSongs

蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-「Blue Field」キャラクターSongs

 Trident以外、すなわち主役格以外のキャラクターソングを集めたアルバム。当初は配信のみで発売されていたタイトルですが、今月発売された「Vol.2」のボーナストラックに収録されました*4。めでたい。
 配信だけで発売されてたんなら大したことないんでしょ?と思うなかれ。

・キリシマ(CV.内山夕実)&刑部蒔絵(CV.原紗友里)『メンタル』
(作詞・作曲・編曲:y0cle)
 アルバム冒頭、元気のよい一曲目。遺伝子操作で生み出された天才少女蒔絵と、メンタルモデル・キリシマが、ともに生きていく覚悟と喜びを歌います。
 歌い出しから内山夕実さんの魅力が全開です。個人的にはこれまであまり意識したことのなかった声優さんなのですけど、ちょっとハスキーな声がとても魅力的です。沼倉愛美さんとはまた違った「ハンサムさ」というか。かっこいい女子さいこう。脚本の上江洲誠さんも、本作での彼女の演技に注目していたようです*5

・イ400(CV.日高里菜)&イ402(CV.山本希望)『Inapplicability』
(作詞・作曲・編曲:baker)
 イオナたちを狙う潜水艦ふたり組による、80年代〜90年代アイドルポップを想起させる一曲。個々のキャラソンにしてもTridentにしても、『蒼き鋼のアルペジオ』の楽曲は「あ、○○○っぽいぞー」と思うことが多くて、たぶん色々なエレクトロポップ/テクノポップの曲をレファレンス先としているんだろうなあと思います*6
 音楽の知識がそれほどあるわけではないので、それがどの程度行われていて、他のアニメやアイドルポップと比べてどうか、というところはわかりません。ただ、「このキャラクターはこういう曲を歌えば楽しいよね」という目的が明確にあって、その目標を非常にいい塩梅で達成している、という意味で、この「あの曲っぽいぞ」という感覚は決してマイナスではない。
 特にこの曲は、アニメ本編ではイオナたちのような人類への理解に至らなかったイ400・イ402が、「この感じ聴いたことあるぞ」というポップスの楽しさ――大きくいえば”人類の文化の典型”をなぞって歌うことで学習しているかのような感覚を与えてくれさえします。声優ふたりのおさえたボーカルもとても魅力的。

・八月一日静(CV.東山奈央)、四月一日いおり(CV.津田美波)『Expose』
(作詞・作曲・編曲:DJ”TEKINA//SOMETHING
 では人類はどうか?というわけで次は、イ401クルーのふたり、静・いおりによる一曲。DJ”TEKINA//SOMETHINGという人(たち?)はキャラソンVol.2でもこのふたりの楽曲を担当しています。
 静はソナー担当、いおりは機関長という役回りなわけですが、ふたりとも超有能な女子です*7。『蒼き鋼のアルペジオ』には、有能で愉快な連中が集まってともに戦うチーム物としての側面もあるので、そのチームのメンバーたちによる楽曲がいいものだとまた更に嬉しくなってしまいます。
 タイトルの「Expose」は、暴露、さらけ出す、といった意味のようです。霧の艦隊をめぐる真実を暴くために旅と戦いを続けるイ401クルーの決意が感じられる一曲。


■Trident 1stアルバム『Purest Blue』
 2014年6月発売。すでにDVD特典や前述のキャラソンで発表されていた楽曲と新曲をあわせて収録したフルアルバム。

Purest Blue

Purest Blue

・ハルナ(CV.山村響)『Words』
 アルペジオキャラソン中、ぼくがもっとも好きな曲です。
 美しいメロディとピアノが印象的なアレンジ、山村さんの、ささやきのようでもあり、強い叫びでもあるようなボーカル、ハルナの内面をみごとに描いた歌詞……。
 作詞・作曲・編曲はHeart's Cry。個人ではなくチームのようです。Tridentの楽曲を多数作っている人たちで、どうももとはボカロPのようですが、いったいどんな天才なのか。最近では『モンスター娘の日常』のキャラソンも作っているようですし、今後のさらなる活躍が楽しみです。

・Trident『Purest Blue』
(作詞・作曲・編曲Heart's Cry)

 三人のボーカルの個性と調和のバランスができあがり、最初の到達点を迎えています。
 注目したいのは歌詞で、これだけアップテンポで楽しいメロディでありながら、中身は他者とわかりあえずもがく切なさと、それでも感じられるわずかな楽しさを歌っている、というところ。というか、Tridentの楽曲は基本的にポジティブな音楽にネガティブな歌詞なんですよね。

0じゃなく、100でもなく
1%でいいから
ココロの奥でつながっていたい

 完全にわかりあうことは諦めている。でも断絶はしたくない――この、コミュニケーションの難しさを意識しつつも、他者との理解を追い求める姿勢にぼくはぐっときます。

・Trident『Blue Sky』
(作詞・作曲・編曲:Heart's Cry)
 『Purest Blue』だけでも『ブルー・フィールド』からずいぶん先に進んだな、という印象なのに、この曲では更なるTridentの跳躍を聴くことができます。
 繰り返される「You」の呼びかけは、ライブ時のかけ声として最高の楽しさを提供してくれます。さらにそこには『Purest Blue』にもあった、「あなたを知りたい」という希望が詰まっている。
 個々のボーカルの際立ち具合もすばらしく、たとえば渕上さんの「愛で満ちた未来が」から沼倉さんの「倍になったら凄いでしょ?」、そして三人で「With You」と重なるあたりの、沼倉さんのボーカルの伸びがほかのふたりのボーカルを支えにして一層際立っている感じなど実にすばらしい。
 Tridentの歌は他者と関わりあうことの難しさと喜びを歌います。そのことが、かように音楽のなかに刻まれている。ぼくがTridentの音楽に強く惹かれるゆえんです。


■Trident 1stミニアルバム『Blue Snow』

Blue Snow

Blue Snow

 2015年1月発売。
 テレビシリーズの再編集と新作パートによって構成された劇場版『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- DC』*8の公開にあわせてリリースされました。ぼくが最初に買ったTridentのCDですし、このCDの特典のおかげでTridentの1stライブチケットをみごとゲットすることができた、思い入れのある一枚――というか土下座してお礼を言いたい一枚――です。

イオナ(CV.渕上舞)『蒼きココロで』
(作詞:大島はるな 作曲・編曲:Tes.)
 アルペジオキャラソン史上、屈指の完成度を誇る一曲と思います。
 メロディの展開、ボーカル、歌詞、すべてが完璧で、何度聴いてもそのたびに感動してしまわざるをえません。
 1stライブでは、渕上さんが見事なロングトーン(とドヤ顔)を披露し観客の度肝を抜きました。そのロングトーンも単なる技術的にすごいだけではなく、「ずっと」という歌詞をより強調する効果をもっているのがいい。

・タカオ(CV.沼倉愛美)『Engage』
(作詞・作曲・編曲:Sho (My First Story))
 静かなイントロから一転、ベタだけどかっこいいギターを経て、沼倉さんのつぶやきのようなボーカル、そしてドラム、そして徐々に盛り上がりサビで爆発するボーカル…!と、『蒼きココロで』に続いてこれまた大変すばらしい構成、見事すぎる展開の一曲。二番のギターもまたいいんだよなあ。
 『DC』ブルーレイのオーディオコメンタリーで、岸誠二監督&南健プロデューサーが「愛人声」と大変失礼かつ妙な説得力のある表現をしていた沼倉さんの声の活かし方も、魅力的な曲揃いのタカオ曲のなかでも特に成功していると思います。
 歌詞が「私はどこへ?」と問いかけ、次の曲の歌詞へ呼応するのもまた美しい。

・Trident『Blue Snow』
(作詞・作曲・編曲:Heart's Cry)

 『DC』冒頭ではこの曲のアレンジ版が流れました。予備知識なしでぼんやり『DC』を観ようとしていたぼくが、そのただならなさに映画館で思わず姿勢を正した、力ある曲です。

開く手には[愛しい]という意味の
言葉が残った

 人類の言語を収集するハルナに象徴的なように、コミュニケーションの基礎は「言葉」です。
 繰り返し触れてきたように、Trident、そしてアルペジオキャラソンの魅力は、そのポップなメロディだけでなく、歌詞にもある。作品のテーマに繋がる歌詞=言葉が丁重にあつかわれていること、そして言葉を重んじる歌詞がたびたび歌われること*9。これまたぼくがアルペジオキャラソンをいいと思う理由のひとつです。

 余談ですが、テレビシリーズのクライマックスは、イオナからコンゴウへの「物理接続による通信」でした。そして、『DC』のラストは、群像の父親・翔像による「人類への降伏勧告」です。いずれも「言葉」がクライマックスにある。
 新たな劇場版、そしておそらくはアニメシリーズの完結編となるであろう『Cadenza』のクライマックスではどのような「言葉」が発せられるのでしょうか。


■「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」“Blue Field”キャラクターSongs Vol.2

 2015年9月発売。
 劇場版で登場する新キャラクターたちも揃ったキャラソン第二弾です。
 それにしても「霧の生徒会」による一曲目が『Will Fade Away』っての、そりゃ劇場版におけるやられ役ではあるけどヒドいタイトルで笑ってしまいました。いい曲ですけど。

・タカオ(CV.沼倉愛美)&ヒュウガ(CV.藤田咲)『Ray of Hope
 イオナ大好き!なヒュウガと、群像大好き!なタカオによる、キラキラした一曲。実に楽しい――のですけど、たぶん二人の思いが成就することはありません。最高に楽しい曲調で叶わない感情を歌う、ある意味最強の失恋ソングではないでしょうか。最高。でももちろん、叶わないけど希望を持つ、というのもまた非常にアルペジオ的でぐっとくるのです。
 個人的に、藤田咲さんの芸達者ぶりとめまぐるしいトーク力に驚いている最近なので、彼女の楽しさがより一層わかる『Miracle』(キャラソンVol.1収録)もぜひおすすめしたいです。
 なお、本作の作詞・作曲・編曲を手がけた斎藤悠弥さんの過去仕事のなかには『スマイルプリキュア!』のEDやキャラソンがあって、なるほどこの凶悪な楽しさは共通かも、と思いました。

・コンゴウ(CV.ゆかな)『Change the fate
(作詞:高橋結 作曲・編曲:伊藤直樹)
 「”――海の平穏守るため、信じてきましたアドミラリティコード。なのにやさしいあなたに触れて、知ってしまった失う怖さ。報われないかもしれないけれど、いまは往きますあなたのために!”それでは歌っていただきましょう、霧の艦隊東洋方面第一巡航艦隊旗艦コンゴウさんで『Change the Fate』!」

 ……てな具合に、コンゴウ/ゆかなさんの歌には昭和の歌謡ショー的な前説を付けたくなるのはわたしだけでしょうか。
 いや、ばかにしているわけじゃなくてですね、こう、カラオケで歌の上手い上司の歌を聞く前の、「ちゃんと聴いとこう…」と目を伏せるあの瞬間の感じというか……。
 キャラソンというのは罪なもので、作品中ではぜったい歌なんか歌いそうもないお硬いキャラクターにも歌を歌わせてしまうわけです。そのモヤモヤをどう回避するかっていうのはなかなか重要な問題だと思うんですけど、アルペジオにおけるコンゴウさんの場合は、そこを「コンゴウは感情がないから不動に見えるのではなく、感情が重たすぎるから身動きが取れないのだ」という転換でうまく乗り切っている――というか正面突破している感じがします。もちろんそれは、ゆかなさんによる情感たっぷり、ときに感情が先走っているようにすら聴こえてしまうみごとなボーカルのおかげでしょう。
 なお、コンゴウさんといえば鎖、鎖といえばサンジゲンの足立博志さんですが*10、この曲でも鎖が歌詞のなかに登場しております。『Cadenza』でも鎖ちぎって活躍するんだろうなあ、コンゴウさん。楽しみ楽しみ…というか、この曲の歌詞から察するところ誰かのために犠牲になることを選んでしまいそうなので心配です。

・ムサシ(CV.釘宮理恵)『願い』
 『Candenza』でイオナたち主人公と敵対することになりそうなムサシのキャラソン。作詞・作曲・編曲は『蒼きココロで』のTes.。最初から最後まで華麗に進む一つの流れがあった『蒼き-』と比べるとこちらは繰り返しを多用した、シンプルな泣かせの曲といった印象です。
 正直、試聴PVの段階ではやや単調だなとという感想を抱いてしまっていたのですが、通して聴けばそこには釘宮理恵による圧倒的な釘宮力の発露という裏打ちがあり、おそらく単純な悪役ではないだろうムサシの心情を想像せざるをえないのでした。なにはともあれ翔像許すまじ。
 ジャーゴンめいた言葉で釘宮さんの声を表現してしまいましたが、音響監督の飯田里樹さんも言うとおり*11、本当にこの人の演技はうまいなあと思います。歌においても然り。


■Trident 2ndミニアルバム『Blue Destiny』

Blue Destiny

Blue Destiny

 2015年9月発売。
 『Cadenza』主題歌の『Blue Destiny』がタイトルトラックで、もしかしたらこれがTridentの、アルペジオの最後のCDになってしまうかもしれない一枚。そんなん絶対に嫌ですけど、それもまた運命ということなのでしょうか……。

・Trident『Blue Destiny』
(作詞・作曲・編曲:Heart's Cry)


寂しくっても 時間はもう止まらない
永遠と思った日々も、今は
ココロの奥 締め付けては、切ない

 アップテンポで明るい音を基調に、こういうことを歌われるのだからたまりません*12
 音作りに歌詞にボーカル、PV、CDの構成やジャケットに至るまで、これまで右肩上がりだったTridentのすべての要素が頂点を極めていて、劇場版にあわせてきちんといい仕事を持ってくるスタッフの人たちへの敬意も芽生えてしまうような作品です。

・ハルナ(CV.山村響)&タカオ(CV.沼倉愛美)『Nothing to fear』
(作詞・作曲・編曲:ゆよゆっぺ)

 『Cadenza』のイオナ、そして渕上舞さんの衣装のモチーフはずばりウェディングドレスだと思っています。彼女と対になる存在である、ヤマトにもそういう意匠がみてとれるので、そう間違いでもない気がします。
 『Cadenza』は人類/群像と、メンタルモデル/イオナが何らかのかたちで結ばれることを描くのではないか。そう考えたとき、残されるハルナとタカオによるこの一曲は、結婚式における「結婚おめでとうソング」であろうと思われるわけです。ふたりがイオナの背中を押してあげる。ついでに聴いているぼくも背中が押された気がする。

私達はひとりじゃないのです
ともに歩む道を往くだけです
暗い空がどこまでも続いても
心配は無いです

 人間がしばしば「私達はひとりじゃない」とうったえたくなるのは、そう信じていないとやりすごせないくらい、人間は孤独を感じてしまうからです。だからこういう歌ができるし、『蒼き鋼のアルペジオ』という、人類は孤独ではないのではないか、という物語が語られる。
 さびしがりやのための物語としてのファーストコンタクトSFの幕引きにふさわしい、聴くものに勇気を与えてくれる名曲です。沼倉さんと山村さんが『Innosent Blue』を歌う渕上さんの背中にそっと手をそえた、あの1stライブの名場面をも思い起こさせる。

 ただそれでも、これが愛すべきメンタルモデルたちの最後の歌になってしまうのか、と嘆かざるを得ないのですが、そこに彼らの歌声が聴こえてくる。

・Blue Steels『変わらない場所』
(作詞・作曲・編曲:ヒゲドライバー)

いつか人は別れる 物は壊れる 炎は消える
だから人は永遠というものに、強く憧れる
でも考えてみて 永遠も、みんなと同じ世界で 延々と
ただ一瞬 一瞬、一秒 一秒、その連続にすぎないから

 主人公群像(CV.興津和幸)とその頼れる副長・僧(CV.松本忍)、そして火器担当・杏平(CV.宮下栄治)によるユニットBlue Steelsなしには、Trident、そして『蒼き鋼のアルペジオ』キャラソンを語ることはできません。
 周知のとおり、もとは主人公の名前「群像」がラップのリリックめいて韻が踏みやすい、という収録中の駄話が発端のユニットなのだそうです*13。そんなことを発端にマジでユニットを初めてしまうのもすごいし、きちんと作品のテーマやTridentの活動を補強するような楽曲を作り上げてくるのもすばらしい。
 『蒼き鋼のアルペジオ』の大きな魅力の一つに、いわゆる「戦闘美少女」であるイオナたちと同様に、群像ら人間の男性キャラクターたちがしっかりと魅力的で、頼れるかっこいい人物造形である、ということがあると思います。そんな頼れる連中が、Tridentの三枚のCDの最後を毎回きっちり〆ていたことの意味は大きい。彼らの曲を聴くと、Tridentの美しい姿をずっと眺めていたいけれども、人類たるぼくは日常の戦いに戻らねばならない――そんな気になってくるのです。

♪♪♪

 以上、合計5タイトル、計14曲を紹介しました。いかがでしたでしょうか。

 今回この文章を書くにあたってあらためて歌詞やアニメ、原作などを読み返していて思ったのは、これらのキャラソンが「敵」によるものなのだ、ということです。
 メンタルモデルの面々のほとんどは、おそらくメンタルモデルとしての意識が生まれる前の状態で人類と戦い、少なくない数を殺めているはずです。もし作品世界の人々がこの曲を聴いたら、ぼくと同じように楽しめるでしょうか。人の心を手に入れたと主張する殺戮兵器の迷いや恋を、自分のことと同じように慈しむことができるのか。

ソルティ・ロード 1巻 (ヤングキングコミックス)

ソルティ・ロード 1巻 (ヤングキングコミックス)

 TALIによるスピンオフ漫画『ソルティ・ロード』では、人間社会に溶けこむタカオが人間への「罪悪感」を抱く場面が描かれています。さらに、タカオが友達になった人間たちとバンドを組む、という展開になっていて、外見はポップな人情物語でありながらも、メンタルモデルたちの出自をめぐる問いも含まれていて、なかなかに興味深いものがあります。
 この問題は、意外と作品のテーマにも関わる重要なポイントかもしれないな、とも思っています。群像くんの言葉を借りれば、「「何かだった」ではなく、「今自分が何者か」ということ」が問題なのかもしれないですけど。

♪♪♪

 それにしても、キャラソンとはなんなのでしょう。
 「このフィクションの登場人物が歌っています」というだけで、ふつうのポップソングにはない、たまらなく愛おしさが芽生えてくる。

<以下、『蒼き鋼のアルペジオ』テレビシリーズの大きなネタバレを含みます>






 アニメオリジナルの展開を背負わされたキャラクター・マヤ(CV.MAKO)の『トレモロ』という曲があります。
 彼女はいっけん他のメンタルモデルと同じ個性と人格をもった存在と思われていましたが、じつはある目的のために創りだされていた、簡素なプログラムでした。コンゴウは彼女と交流し、信頼関係を築いていたつもりでしたが、マヤは簡単な反復をしていただけだったのです。目的が達せられたのち、マヤを成立させていたプログラムは強制終了させられ、無に帰してしまう。
 しかし、マヤとコンゴウの間にある差はなんなのでしょうか。いったい、どこまで複雑な計算をすれば、それは立派な人格と言えるのか。人間だってそうです。人間らしくないと言われる、冷たい人間は人間ではないのか。感情をアウトプットできなければ機械なのか? 人間と非人間の境はどこに?

 マヤのキャラソン『トレモロ』は、ひたすら「トレモロ トレモロ トレモロ…」と繰り返すサビが印象的です。単調で飽きてしまうなとも思った*14
 しかし、『蒼き鋼のアルペジオ』という物語に親しむうち、そしてその楽曲を聴きこむうち、ぼくの『トレモロ』への印象は変化しました。当然です。ぼくのなかに、マヤや声優のMAKOさん、『トレモロ』という曲への感情が蓄積され、複雑になったからです。いまは『トレモロ』も他のキャラソンと同じように愛おしい。
 この曲は、機械的な反復という、マヤの正体を思わせる構成を持ちつつも、その反復のなかには、聴けばわかる差異がある。

 キャラソンは日々膨大に作られます。基本的には日本のポップスという範疇での試行錯誤ですから、ものすごくオリジナルなものはなかなか少ないし、音楽的な達成としてはさほどのことはないのかもしれない。けれども、やはりそこには、聴けばわかる差異がある。聴くもの個々が見いだせる愛おしさがたくさんある。
 「***という物語の****が歌っているから」。そんなことは、わからない人にはわかりません。でもその、キャラソンというしろものが持つ圧倒的な多重性、豊かさがわかった瞬間、聴くものの目の前にはすばらしく広大な世界がひろがるのです。その楽しさといったら。その美しさといったら!

 ぼくは明日(9月21日)、Tridentの2ndライブを観に行ってきます。本当に心の底から楽しみです。
 12月には、Trident以外のキャラソンも聴けるコンサートが開催されるそうです。チケット争奪戦の難度があがるからあまりファンが増えても困るけれど、この長い長い文章を読んでTridentのことが気になったら、まずは新作のCD二枚(『Blue Destiny』あるいは『キャラソンVol.2』)のいずれかを買って、チケット先行予約に応募しましょう。そしてともに開場で叫ぼうではないですか。

 おーらいしー!!(ALL I SEE!)

*1:以下、『蒼き鋼のアルペジオ』と略。

*2:『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- Cadenza』。以下、『Cadenza』と略。

*3:http://d.hatena.ne.jp/tegi/20150329/1427637603

*4:Tridentの三人・イオナ、タカオ、ハルナ名義の歌のみTridentの1stアルバムで再収録されていました。

*5:オトナアニメ』Vol.37、「Talk Around Midnight」。

*6:例えば、『Sentimental Blue』はPerfumeの『Baby Crusing Love』ですよね。

*7:いおりは人類にとっては未知のテクノロジーの塊であるイ401を制御する有能なメカニック、静はいっけん物静かなソナーマンでありつつ、一人で軍の特殊部隊と渡り合うことのできる戦闘スキルの持ち主。最高かよ。

*8:以下『DC』と略。

*9:「恋と愛の違いがやっぱり分からなくって/辞書で調べたって/あんまりピンとこないし」――『Lovely Blue』。

*10:『「渕上舞の急速せんこ〜」第5回 ゲスト:足立博志(モデリングディレクター)』https://www.youtube.com/watch?v=_SEXjCzJTeg 参照のこと。あっ、鎖じゃなくて「アンカーチェーン」でした。

*11:『「渕上舞の急速せんこ〜」第3回 ゲスト:飯田里樹(音響監督)』 https://www.youtube.com/watch?v=RTxioxIcg_g

*12:前述の「レファレンス先」という話で言えば、ぼくはPerfumeの『Seventh Heaven』を思い出しました。

*13:トーキョーアニメニュース「「蒼き鋼のアルペジオ ?アルス・ノヴァ?」特集 最終回 イオナ渕上舞インタビュー(その3)」http://tokyo-anime-news.jp/?p=22985、山村響ブログ「Take the funny train「Return of “BLUE STEEL”〜“蒼き鋼”帰港記念式典〜の想ひ出。」」http://ameblo.jp/funnytrain/entry-11887857283.html など参照。

*14:ムサシの『願い』と同じように。