こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

声優名盤探索の旅 番外編・2021年後期に聴いてたいい曲のこと

 タイトルの通り、2021年後期によく聴いてたいい曲を紹介します。今回は声優アーティストやキャラソン・アニソンに絞っています。新作以外も入っていますが、おおよそ2020年・21年にリリースされた曲のみになっているかと思います。

 適当にだらだら選んだのですが、結構明確にEDM多めになってしまったので驚きました。偏ってるな~。

 2021年前期については以下。

tegi.hatenablog.com

 

[目次]

 

黒澤ダイヤ(小宮有紗)『Perfect SEKAI』

www.youtube.com

*2022/01/16現在、Youtubeの動画が記事内で正常に表示されないエラーが生じているようです。不正動画を貼っているわけじゃないので、Youtube本体へ移動して聴いてくれると嬉しい

 

 自分の大好きな作品の大好きなキャラクターのキャラソンが自分の超好みの曲だったときの喜びといったらもうたいへんなものであります。2021年1月1日にリリースされた本曲がまさにそういう喜びを自分に与えてくれたものでして、まあ年間ベストに入れざるを得ないですね。
 何度か行われたライブでの実演においても、日本刀を用いたパフォーマンスが見事で、そりゃ正直に言ってしまえばそういう中二的かっこよさに「フフッ…」と笑いがもれてしまうところはあるんですけど、そういうのは言ったらきりがないので。
 歌詞はともすればたいへん鼻につくもので、黒澤ダイヤの「名家の娘として人々を善導したい」という気持ちに、(たぶん)小宮有紗さんの幕末好きという経路で新選組明治維新的な独断的世直し感覚が結びついてしまっており、それもまた自分の従来の価値観とは反するのですけど、まあ、そういうところを持っているところ含めておれは黒澤ダイヤさんから目が離せないでいるので仕方ないですね。彼女が間違った方向にいかないようにファン活動(主に同人誌活動)をやっているというところもあるので。
 楽曲レビューにふさわしくないレベルまでダメなファン心理の告白になってきてしまったのでこのへんで切り上げます。あと大半のリスナーにはどうでもいいことでしょうけど、曲終わりの和太鼓のリズムが『マトリックス・リローデッド』のレイヴシーンで流れる曲(Flukeの"Zion")に激似でそこも好きなポイントです。

 


小林愛香『ゆらゆらら』

mysound.jp


 軽やかなギターがたいへん気持ち良い。小林愛香さんってどうしてもGuilty Kissでの重めのボーカルのイメージが強かったのだけど、こういう軽やかな歌もすごくいいなあと思いました。小林さんのソロ曲は2020年にリリースされていたのだけど全然聴けていなくて、21年になってからサブスク入りして聴いたところカップリングやアルバム曲に両曲がたくさんあったので驚いたのでした。作詞は佐伯youthK、作曲は田代智一

 一番聴いてたのは『ゆらゆらら』だけど、『Crazy Easy Mode』も名曲。

 

高槻かなこ『soda』

www.youtube.com

 Aqours関連楽曲が続いて申し訳ないですけど、今年の夏のベストソングなので。作詞作曲は高槻かなこ、編曲は奈良悠樹

 sodaと「そうだ!」をかけた単純な言葉遊びには、二年連続でいろいろなことがしづらかった夏に「そうだ、~~をしよう!」と行動の意思・願望を口にする切なさが詰まっています。すごく明るく爽やかな曲だけど、この「そうだ!」という掛け声の先には、したいことができなかった夏があったわけで、胸が軽く苦しくなります。自分は内向的な中年なので海にもお祭りにも行けなくともなんともないですけど、活動的な人、若者たちはさぞ辛かったのだろうな、と思います。なんて時代だ。

 そういう人たちへの励ます曲にもなっているし、休養を経て年末に見事復帰した高槻さんの一年へのお疲れ様もこめつつ褒め称えたい良い曲です。2022年の夏に向けて聴いていきたいですね。

 

内田彩『Pale Blue』

www.youtube.com

 ラブライブ!声優関連楽曲が続いて申し訳ないですけど、内田彩さんの音楽活動の質・継続性の見事さは何度言っても足りないと思いますので…。過去楽曲へのアンサーソングであったり、自身のルーツを振り返るカバーミニアルバムであったりの「ねぎらわれている感じ」も納得。内田さんがコンスタントに良い曲をリリースする支えになっている作詞作曲編曲のhisakuniの仕事ぶりもすばらしい。サビ前の畳み掛けなどのリズムの快楽、曲の隅々まで感じられるメロディの良さ。そしてそれらがみな内田彩の声・歌を引き立てるために機能している。

 

鈴木みのりリナリア

www.jvcmusic.co.jp

 シティポップ的な楽曲がかなり増えてきた印象がありますが、そこで何が他との差をつけるかといえば、当然ですけど音がすごくいいor詞がすごくいい、というところです。こちらは後者の例。音もいいけど歌詞がすばらしいと思う。
 シティポップの定義は数多あるのかなあと思いますが、都市で生活する人の歌、とするならば、主に東京で生活して仕事している声優さんたちの表現と食い合わせがいいのは自明の理。だからこそ前述のように、シティポップ的な楽曲がどんどん量産されているのでしょうけど、増えれば増えるほど、表層的に「シティポップっぽさ」だけをなぞった曲のつまらなさが際立っていってしまう、というのが今現在の状況です。そういう他の凡作とはまったく異なる、一曲の歌としての聴き応えをもたらしているのが、鈴木さんによる歌詞だと思います。
 鈴木みのりさん本人が作詞作曲しているからこそこの曲が「リアル」なのだ、という保証は全くないけれども、少なくとも、一曲のなかで「リアルだと感じさせる力」には満ちています(言葉の使い方も、構成も、内容も)。作曲は本人と江口亮、編曲は同じく江口亮

 

内田真礼『ハートビートシティ』

www.youtube.com

 内田真礼のアルバム全体にはさほど心奪われなかったのですが、この曲は別格でよかった。こういう「大きい曲」ってまだ可能なんだなあという感動がありました。編曲で関わっているkzの初期初音ミク楽曲に自分が熱狂していたのって、初音ミクが持っているSF的なインパクトにふさわしいスケールの音を作れていたからで、その感じを思い出しました。で、そういう曲の最後が「大げさだって構わないよね/愛してる」って締められたらそりゃ好きになるよ、という。
 作詞作曲のTaku Inoueが同じく今年にリリースした『3時12分』(星街すいせい)や『トアルトワ』(東雲和音/天音みほ)を並べて聴いていると、アニクラから都市へ、そして世界へ直結していく高揚感がこの作家の核の一つなのかな…と思います。『3時12分』も『トアルトワ』もどうしても具体的な東京の風景に直結してしまう分、ドメスティックさが強いのですが、『ハートビートシティ』はもうちょっと抽象的・匿名的。自分はそういう距離感が好きでした。内田真礼さんの、そこまで独自性を打ち出してこなかったアーティストイメージもそういう塩梅を高めることに貢献しています。

 

Liyuu『Magic Words』

www.youtube.com

 2020年の曲ですけど後半めっちゃ聴いてた。ていうかこれもTaku Inoueじゃねえか!!!(作曲編曲に加え、作詞もInoueの別名義・MC TC)
 『ラブライブ!スーパースター!!』でLiyuuさんが演じる唐可可の人気って、あまり言われてない気がしますけど、Liyuuさんの節回しの気持ちよさ、声の良さゆえだと思います。
 同作での歌唱ももちろんよいのですが、Liyuu名義のほうがキャラソンじゃないぶん、そういう彼女の声の魅力がより率直に楽しめる感触があります。なかでもこれは、声の浮遊感を増幅させる曲調と歌詞がすばらしい。歌詞は、恋の相手をからかい気味にみている人間の言葉という感じもありつつ、確定させないままにするっていうか、誰か一人との関係性を究極的にはどうでもよいもの・流れ去っていくものだと見ているんではないか、みたいなところがとても良いです。

 

金魚鉢たより(芹澤優)『金魚鉢たよりの話』

www.youtube.com

 ヘビロテはしないけど衝撃を受けたという枠。空想の少女たちと文通ができてしまうという恐るべきコンテンツ『Princess Letter(s)! フロムアイドル』のキャラソン…というかポエトリーリーディング。三人いるキャラクターのどれもいい感じなのですが、一番「今までそれほどピンと来てなかったけどこれはすげー良かった」という振り幅の大きさから、芹澤優さんが演じている金魚鉢たよりのものを選びました。作曲は僻みひなた。作詞は金魚鉢たよりということになっているけどもどういう体制なんでしょうね。
 Princess Letter(s)、ポエトリーリーディングではなく普通の歌唱楽曲としては高橋李依による雁矢よしの『リトル・シークレット』がリリースされています。これもTaku Inoue…。仕事しすぎでは…。
 『Princess Letter(s)』プロジェクトの概要は以下の記事が楽しくわかりやすいです。自分はメインコンテンツ(文通)は未経験ですが、若いころに展開されていたら高確率ではまっていたな…と思います。すごくアナログだしたぶんこのコンテンツは人力で回している感じがありますが、同時にSF的・ファンタジー的妄想にもかられてしまいます。

kai-you.net

 

ASTRAM『Never Let Go』

www.youtube.com

 相変わらず音楽と密接な関係をもつ二次元コンテンツは多々華やかに展開されていますが、音楽的にもっとも自分の趣味に合致していたのは『AKROGLAM』でした。
 ドラマ部分は全然追えず、楽曲が配信に来たらチェックするだけだったんだけど、どれもよかった。なかでも上記二曲はヘビロテしていました。作詞作曲編曲はANIMAL HACK、ASTRAMのメンバーは鈴代紗弓・内山茉莉。
 AKROGLAMと同じ系統の音楽主体の二次元コンテンツに電音部があります。AKROGLAMと電音部はコラボ曲を出していて、確かに電音部もいいし、どんどんドロップされる小さな物語を楽しむということでは電音部のほうが充実しているんでしょうが、ただ楽曲を聴くという行為だけで得られる物語の感覚、物語がそこにある予感、の豊かさは段違いでAKROGLAMのほうがよかったと思う。いやどっちもちゃんと掘ってないんだから説得力ないんですけど。

 

Aqours『KU-RU-KU-RU Cruller!』

www.youtube.com

 今年の一番良い曲。

 作詞は畑亜貴、作曲はKanata Okajima、Soma Genda、編曲はSoma Genda。
 シティポップ路線のアニソン・声優アーティスト楽曲のなかでもトップレベルの良さなのですが、そのシティポップ的な聴き応えを歌唱面で支えているのが、Aqoursの各キャストの個性と能力(特に小林愛香鈴木愛奈!)なのが熱い。シティポップとしての聴き応えが、歌手と不可分であり、かつその歌手たちの歌い方はキャラクター性とも不可分なので、結果として「Aqoursでしかできないシティポップ」になっているのですね。偉い。
 2021年の中頃から、「結局『ラブライブ!』シリーズの一番いい曲ってなんなの?」というテーマで、関連楽曲を全部聴き直すっていう試みを自主的に行っているんですが、その時、ユニット関係なく生じている『ラブライブ!』楽曲の気持ちよさの一つに、マイクリレー的な快楽があるな、と思ったのです。メインユニットは9人、12人、5人ととにかく人数が多いのが『ラブライブ!』シリーズで、歌唱は各声優が楽曲全体を通して歌い、最終的に切り貼りしてつなげていく、というかたちで作られています*1。だから、楽曲のなかでどんどん入れ替わっていくボーカルも、あとから切り貼りされて作られた結果に過ぎない。でも、一つのステージやスタジオで、順番に目線を交わしながら順に歌いつないでいるとしか思えない感覚が芽生える楽曲がしばしば生まれるのです。それは例えばμ'sの『夏色えがおで1,2,Jump!』であり、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の『NEO SKY, NEO MAP!』であるわけですが、その傑作群に新たに加わった最新版、いやひとつの到達点が本作『KU-RU-KU-RU Cruller!』なのです。

 

さいごに

 以上、2021年後半に聴いてたいい曲の話でした。
 「声優名盤探索の旅」企画としては2021年のベストアルバムを選考中で、そちらについても近々まとめて書こうと思っています。一番よかったアルバムはもう春の時点で決まっているのですが、他にもいいアルバムがたくさんあって困ります。


 最後に、この曲を聴きながらお別れしましょう。「何が起きても録音された歌は何度でも聴き直せる」という事実を体感することが、逆に、苦しさを呼び起こすこともあります。それでも聴き続けたい。

 

www.youtube.com

music.youtube.com

神田沙也加『虹色の夏』(作詞作曲:コーエーテクモサウンド

*1:声優たちの話を聴く限りすべてそうだと考えてよさそうです。ユニットの活動後期に、ユニット楽曲を各キャストのみの歌唱にした個人バージョンがリリースされていることも証拠になるでしょう