こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

佐々木譲『制服捜査』『暴雪圏』

制服捜査 (新潮文庫)

制服捜査 (新潮文庫)

暴雪圏

暴雪圏

 道警不祥事のあおりで人口六千人の北海道の寒村・志茂別町の駐在所へ異動となった刑事が、穏やかな農村の裏に隠された事件を解決していくシリーズ。

 『制服捜査』は五つの中短編からなる連作集。一作目『逸脱』で明確に設定された「都会の刑事が田舎の閉鎖社会で孤軍奮闘」という路線がとことん追求される。駐在警官の職務の限界と、いかに主人公・川久保がその限界を超えて正義を為すか、という部分が読みどころ。長編『警官の血』と繋がるテーマではあるけど、こちらのほうがより具体的に掘り下げられているように思う。

 続く『暴雪圏』は、前作で整えられた主人公と舞台の魅力を土台にして、一晩の群像劇が展開される。
 佐々木譲は「ポストイットにキャラや物語の展開を書き、コルクボードに並べて作品を構築していく」*1そうで、さもありなん、冒頭から幕引きまで、まったく破綻なく流れるように物語が進む。
 登場人物たちの行動もわりあい理知的で、フィクションの中の頭の悪い人には、つい字自分を投影して「こ、このバカが!」と無駄に苛々してしまうぼくには非常に快適な読み心地。
 帯には「暴走を始めた殺人犯――応援は、来ない。」などと、川久保が殺人犯と徹底的に戦う物語を予想させるようなことが書いてありますが、実際の対決は非常にミニマルでタイトだ。吹雪の中、夜通し続けられる派手な銃撃戦を期待する向きには不満かもしれないが、それじゃ『ホワイトアウト』になっちゃうしな。

ホワイトアウト (新潮文庫)

ホワイトアウト (新潮文庫)

 『暴雪圏』のラストからすると、川久保シリーズは今後も続きそう。
 第一作で、川久保は町にとっての他者として、町の内部にある敵と戦った。第二作では町に外部からやってきた敵と戦う。この流れを考えると、次回は、町の内部と川久保がのっぴきならないつながりを持ってしまう...といったような構図になるのだろうか。

*1:@09'1.18、紀伊國屋書店札幌本店でのトークショーで発言。記憶で書いているので多少表現は違うかも。