- 出版社/メーカー: CKエンタテインメント
- 発売日: 2008/03/26
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ケレンは省きながらも画面の端々に放り込まれた豊富な比喩、オーソドックスながらもファンタジーの浮遊感や戦場のリアルさを際立たせるカメラワーク、娯楽性と悲劇性を両立させる脚本など、テクニカルな面で賞賛されるべきところばかりの映画ではあるが、デル・トロ監督や主人公オフェリアのように、いまだ魔法を信じ物語の力を模索する身としては、作品全体を通じて提示されるファンタジーの意味についての言及が心に突き刺さる。
戦争で夫を亡くし、権力者と再婚した主人公の母は、自分の境遇に順応できないでいるオフェリアに叫ぶ。
魔法なんてないのよ、あなたにも、私にも、誰にも!
この映画を通じてこのことは徹底されている。オフェリアには悲劇的なラストが待つ。彼女がさまよった幻想の世界は、現実の悲劇に対してなんの影響ももたらさない。
ファンタジーは無力だ。ならばファンタジーには何の意味があるのか?
現実と幻想の対立というテーマは、この映画のもうひとつの軸であるスペイン政府軍と反体制ゲリラの争いのなかで語られる。
ゲリラに与する医師フェレイロ(アレックス・アングロ)は、優秀な医者として体制側に重用されているが、その立場をなげうって体制に反発する。体制に素直に従えば楽な人生が送れるというのに、なぜ反抗するのか――問われた彼はこう語る。
従えと言われて何も考えず従うのは、心のない人間だけだ
彼もまた、オフェリア同様に圧倒的な現実の力に押しつぶされる。簡単に。
オフェリアやフェレイロたちは、心ある人間として倒れてゆくが、それが賞賛されるわけではない。誇らしい英雄として最後のカットを迎える人物は、この映画のなかには存在しない。
映画のなかでは、答えは示されていない。
しかし、どんなに惨めであろうともファンタジーを捨てるべきではない、幻想をつむぎ、物語を語ることは有意である、そのようにこの映画は語っているとぼくは思う。そうした心がギレルモ・デル・トロのなかになければ、この美しい映画は生まれることがなかったのだから。