こづかい三万円の日々

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福田須磨子『われなお生きてあり』

われなお生きてあり (ちくま文庫)

われなお生きてあり (ちくま文庫)

 長崎で原爆投下に遭遇し、戦後は詩人として活躍した人の自伝。
 「ピカドン」という言葉を「被爆者のみじめさを自嘲し、茶化しているような感じがして」嫌うあたりに、皮膚感覚からの訴えを感じる。
 ほか、原爆投下後、焼け落ちた自宅を訪れ、家族の骨を拾いながら「なぜ私は狂いもしないで、こうして白骨を識別する事が出来るのであろう!」と煩悶するくだりなどにも実に心打たれるが、本書の白眉は後半えんえん続く戦後の生活記の部分だろう。借金にまみれ、柄の悪い連中とも付き合い、家族同士・友人同士で争いながらも、筆者は必死に生きていく。原爆はその影にあって、もちろんその影はほかの人生にはそうそうない、底なしの暗黒ではあるのだけれど、あくまでこれは一人の人間の生きた記録なのであり、そこに(原爆や戦争を知らない)ぼくとの違和はほとんどなにもないのだ、ということを思い知らされる。
 手元に置くべきと思ったので、古本屋へは持っていかないことにする。