こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

おれたちの自慢されたいソ連『アークエンジェル』


 学会のためモスクワを訪れたアメリカの歴史学者ケルソー(ダニエル・クレイグ)の前に、スターリンの秘密を知るという老人が現れる。スターリンの死んだ夜、彼はある重要な文書を隠匿する任務を帯びたというのだが..。
 ロバート・ハリスの『アルハンゲリスクの亡霊』を原作とした連続テレビドラマ。

アルハンゲリスクの亡霊〈上〉 (新潮文庫)

アルハンゲリスクの亡霊〈上〉 (新潮文庫)

アルハンゲリスクの亡霊〈下〉 (新潮文庫)

アルハンゲリスクの亡霊〈下〉 (新潮文庫)

 映画における「俺スパイ感」の探求のため、レンタルDVDショップの洋画サスペンス棚の端っこから、国際謀略もの・スパイものを順番に借りていくというキャンペーンをはじめました。その第一回目。
 いかにダニエル・クレイグが主演とはいえ、歴史学者が陰謀に巻き込まれていく物語なので、俺スパイ感は低め。モスクワをワイシャツ・ジャケット姿でうろうろするのみならず、極寒の川に落ちてもほとんどこたえてなさそうなあたりにはボンド感を感じましたが。ってこれ、ダニエル・クレイグとしてはボンド以前の作品なんですね。フィクショナルな活躍をみせても作り物っぽくならず、セクシーで衝動的でもバカには見えない彼の魅力はすでに強く発揮されています。
 スパイ感=官僚的機構内で己の信条を貫くもののドラマ、ととらえるならば、主人公でなくFSBロシア連邦保安庁)の人が、政府首脳部と軍部、政治的強硬派のいずれにも与せず戦っておりクールでした。



 スターリンを主題としているので当然なんだけど、資本主義への反動としてロシア国内で高まるスターリン懐古の雰囲気を、「俺たちの自慢されたい」*1ソ連感強めで描いているのが印象的。じっさいロシアのいまの人たちはどうなんだろう。『モダン・ウォーフェア2』で、ロシアがあっさり超強硬派に乗っ取られるのにびっくりしたものですが、あれはあながち大嘘でもないんだろうか。
 政治的なところはおいておいて、風景描写や演出でも、旧ソ感度は非常に高い。第一話ではモスクワの団地、第二話ではアルハンゲリスクの団地をじっくり描写しており、どちらも荒廃しているんだけどアルハンゲリスクのほうが建物と建物のあいだの空間が広くてより地方色を感じるところなど、味わい深い。スターリンが側近にダンスを強要するくだりには、素の暴力ではないところでの恐ろしさを感じて、演出としてもクレバーと思いました。後半で再度それが繰り返されるんだけど、その使い方もうまい。



 監督のジョン・ジョーンズはテレビドラマ畑の人のようす。脚本のディック・クレメンツとイアン・ラフレンティスはコンビで仕事をしており、最近だとジェイソン・ステイサムの『バンク・ジョブ』を手がけてますね。重厚なサスペンスと評するにはいまいち緻密さが足りないと感じたけど、あちらはどうなんだろう。観なきゃなー。