1972年、サンフランシスコ。盗聴の専門家ハリー・コール(ジーン・ハックマン)は、数々の伝説的な盗聴を成功させた男として知られていた。ある企業重役からの困難な依頼をまたも成功させた彼だったが、長年の孤独な生活と己の仕事への疑問から、徐々に猜疑心にとらわれていく。
1974年、フランシス・フォード・コッポラ監督。
俺スパイ感探求の旅、7本目。
その対象については頓着しないのが信条の盗聴屋が主人公であり、俺スパイ感とは遠い作品ではあるものの、伊藤計劃が『エネミー・オブ・アメリカ』の参照作品として挙げていたのを思い出して鑑賞した。盗聴行為はスパイ業務のなかでも大ネタだし。
冒頭、散歩するカップルの会話を複数の手段で録音していくコール一味の仕事が一度描かれたあと、録音した音源を複数組み合わせ調整し会話を完成させるラボの作業場面が続く。薄皮を一枚一枚剥ぐように、だんだんと会話の内容が明らかになっていくダイナミズムが実に気持ちいい。コールのがらんとしたラボの光景もまことにクール。
カップルの会話が徐々にコールの心を乱していく中盤、そして大どんでん返しの後半と、見ごたえのあるサスペンスが終劇まで続く。さすがサスペンスの傑作と誉れ高いだけはある。渋みと明るさの同居する音楽が、ともすれば閉塞感が爆発してしまいそうな映画全体の味をうまく調和しているので、告発でも娯楽でもなく、尖りすぎない大人の犯罪映画として唯一無二の着地を成しえていると感じた。すごくいやーなラストではあるのだけれど、不思議と暗黒ではない。それこそ、コールがその後鬱々ながらも生き延びて『エネミー・オブ・アメリカ』へとつながっていったとしても全く違和感がないくらいに。
観ていて、思わず声をあげてしまったのが、コールと盗聴業界仲間が酒を飲みながら各自の過去を探り合うくだり。いけすかないニューヨークの男が、「俺は60年の大統領選で、ある候補者の全ての通話を盗聴した」と自慢するわ、コールに「68年のトラック組合年金横領事件のときはどうやったんだ」と詰め寄るわで、今まさにエルロイのアンダーワールド三部作を読んでいる身としては非常に興奮しました。
猜疑心の塊だけどセンチメンタル、冷静な頭脳派でありながらも衝動的、というコールのニ面的なキャラクターもエルロイ作品の登場人物たちを想起させて、エルロイファンにとっても楽しい映画だと思います。
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